「よきサマリア人のたとえ」は新約聖書のルカの福音書に記されている、キリストが語った永遠の命や隣人愛に関するたとえ話です。
ある日の事。律法学者はキリストを試してみようと、「何をしたら永遠の命が得られるのですか?」と問い掛けました。それに対しキリストは「律法にはどのように書いてあるのか?」と返します。学者は「心や力を尽くし、主なる神を愛せ。また、自分を愛するように隣人を愛せとあります」と答えたので、キリストは「そのようにせよ」と言いました。学者は負けじと「では、隣人とは一体誰の事です?」と訊いたので、キリストはこのようなたとえ話をしました。
「強盗がある人を襲い、着物をはぎとって半殺しにしたまま逃げ去った。その後、一人の祭司が瀕死の人の側を通りかかるも、無視をした。更にレビ人が通りかかるも、無視をした。ところが、通りがかりのサマリア人が彼を気の毒に思い、傷口を消毒して包帯を巻き、宿屋へ連れて行って介抱した。翌日、サマリア人はデナリ二つを払い「この怪我人を看ていて下さい。余計な費用は私が払いますから」と言った。さぁ、通りがかりの三人のうち、誰が怪我人の隣人となったか」
「それは慈悲深い事をした人でしょう」と答えた律法学者に対し、キリストは「では、貴方も同じようにしなさい」と返したのでした。怪我人を介抱するサマリア人のテーマは画家に好まれ、多くの作品が残されています。
では、よきサマリア人の絵画13点をご覧ください。
「Lancelot Blondeel の追随者作 16世紀」
「永遠の命を得る隣人愛とは何か」を問う律法学者に、キリストは
瀕死の人を助けるたとえ話をします。この画家は知らんふりをする
一人目と二人目、怪我人を助けるサマリア人が描かれています。
(左側にいるのは四人目なのか・・・!?)
「フランチェスコ・バッサーノ・ザ・ヤンガー作 1575年」
学者の言う「永遠の命」は不老不死という訳ではなく、天国行きの者は
永遠の幸福を得られるとされている為、天国を意味していると思います。
学者はどうすれば神に認められ、天国へ行けるのかを問うているのです。
「ピーテル・ラストマン作 1583-1633年」
怪我人の様子が恐ろしい作品。た、助かるのかしら・・・?
ロバも心配そうに事態を見守っています。サマリア人はこんな
瀕死の人も見捨てず、介抱を行ったのです。
「ドミニコ・フェッティ作 1623年」
油と酒を傷口に流して消毒をし、怪我人をロバの背中によいしょと
乗せて宿屋まで運びます。ロバが可愛いですね^^
「レンブラント・ファン・レイン作 1630年」
宿屋へ到着したサマリア人は一晩泊まって怪我人の治療を行い、
宿屋の主人へデナリ二つを支払います。それはなんと、日給二日分
に相当するようです。更にサマリア人は「費用があったら帰りに私が
払うので、この人を看てやってください」と言ったのです。良い人や・・・。
「Jan Wijnants 作 1670年」
怪我人を見捨てた一人目は祭司(神の使い)、二人目はレビ人
(ヤコブの息子を祖とする、イスラエルの部族。モーセもこの人種)
であり、いずれも神に近い存在です。
「Nicolaes Roosendael 作 1665年」
対するサマリア人はイスラエルと移民の混血として、ユダヤにも
キリスト教にもはみ出し者として考えられていました。しかし、キリストは
怪我人を助けたサマリア人こそが天国へ行ける隣人だと答えたのです。
・・・怪我人がセクシーですね。
「ジョゼフ・ハイモア作 1744年」
この例え話は「種族や地位なんて関係ない。人を無条件で助けた者が
天国へ行けるのだ」と教えているのです。
と、キリストが言っているのに、歴史上には宗教戦争があったり
王権争いがあったり免罪符があったりと、隣人愛はいずこへ・・・。
「Jan Baptist Lodewijk Maes 作 1790 – 1856年」
グイド・レーニが描く青年を思わせる、セクシーな怪我人ですね・・・。
「この絵画を見て隣人愛しなさいよ」という教示的な感じではなく、
ドラマティックな雰囲気がばりばりに出ております。
「Giacomo Conti 作 18世紀」
おじさんの怪我人を治療中のおじいさん。善きサマリア人は人気の
主題なので、色々なバリエーションがありますね。
「ウジェーヌ・ドラクロワ作 1849-50年」
ドラクロワも善きサマリア人の主題を描いています。小柄な若い
男性を抱き上げる、たくましいおじさん。ロバもきりっとしており、
正義感がみなぎっております。
「フィンセント・ファン・ゴッホ作 1853-90年」
ポスト印象派の巨匠ゴッホも、ドラクロワの構図をお借りして、
善きサマリア人を描いています。黄色や黄土色にうねる線は、
一種の迫力を生み出していますね。
「エメ・モロー作 1880年」
ゴッホと同時期に生きたフランス出身のこの画家は、とてもリアルな
作品となっており、まるで映画のワンシーンのようですね。
怪我人は身ぐるみ全てを奪われてしまったようで、ちょっと危ない
アングルとなっておりますが・・・。
怪我人の為に油と酒を使い、目的地を変更して宿屋まで進み、一晩看病して日給二日分を支払い、追加があったら後でまた払うので、よろしくと言って去っていく。そこまで献身的に人助けができるのは凄い事ですよね。
現代日本では、流石に強盗に襲われて瀕死の人と出くわす場面はほぼないと思われますが、困っている人に出くわす機会はあると思います。電車の席を譲ったり、階段で重い荷物を運んであげたり、道を教えてあげたり・・・。できる事は沢山あるように感じます。
また、もしかしたら病気や気分が悪くて動けない人と会うかもしれません。そんな時に、知らんふりをせず即座に助けられるような、隣人愛を極めし者になりたいですね。
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