アレキサンドリアの聖カタリナの絵画14点。車輪の拷問器具を壊した知的な聖女 | メメント・モリ -西洋美術の謎と闇-

アレキサンドリアの聖カタリナの絵画14点。車輪の拷問器具を壊した知的な聖女

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Bartolomeo Cavarozzi Santa Catalina de Alejandría -

 アレクサンドリアの聖カタリナ(287-305年)は「十四救難聖人」に数えられる聖女です。シエナの聖カタリナという同名の聖女がいる為、アレクサンドリアと出身地を前に付けて区別しています。
 アルメニア王の娘として生まれた彼女は最高の教育を受け、知・美・血・富・心の全てにおいて自分に勝る男としか結婚しないと宣言していました。この頃、アドリアヌスという隠者が聖母マリアの導きを得てカタリナの元へ現れ、宗教の教えを説いてキリスト達の所へ連れて行きました。洗礼を受けたカタリナは完璧な存在であるキリストと会い、指輪を授けられて婚約したとされています。このシーンは「神秘の結婚」として、多くの絵画が残されています。

 しばらくして、アレクサンドリアにローマ皇帝マクセンティウスが訪問してきました。皇帝はキリスト教を迫害していた為、カタリナはその誤りを説こうとしました。彼女は皇帝が差し向けた50人の異教の賢者を論破し、彼等を改宗させてしまいます。皇帝はカタリナを口説こうとして拒否された為に怒り、彼女を牢屋へ入れて12日間放置します。牢屋に入れられている間、彼女は王妃や高官、兵士200名などにキリストの教えを説き、改宗させました。食べ物はキリストの使いである白鳩が運んで来たそうです。

 まさかの事態に皇帝は更に怒り、刃付きの車輪という拷問器具を使ってカタリナを痛めつけようとしました。しかし、彼女が祈ると車輪はバラバラに壊れてしまったのです。改宗した王妃や高官たちが皇帝に抗議した為、皇帝は彼等をも処刑してしまいました。「異教になるなら助けてやる」と言う皇帝に、カタリナは頑なに拒否を示し、遂に斬首されてしまったのでした。彼女の首からは血ではなくミルクが流れ出たとされています。
 では、アレクサンドリアの聖カタリナについての絵画14点をご覧ください。




「Bartolomeo Cavarozzi  作 1587-1625年」
自分より優れた男としか結婚しないとしたカタリナの元に、隠者
アドリアヌスが現れてキリストの教えを説き、二人は聖母マリアと
キリストがいる修道院へと赴きました。カタリナはマリアの勧めで
キリストと婚約する事となったのです。絵画では指輪を貰っていますね。
Bartolomeo Cavarozzi  1587-1625

パオロ・ヴェロネーゼ作  1585年」
異教徒の皇帝に反逆した彼女は牢屋へ入れられてしまいます。
しかし、天の使いの白鳩が食事を運び、彼女の聖なるパワーにより、
王妃や高官等の人々が次々に改宗していったのでした。
Saint Catherine in Prison - by Paolo Veronese, 1585

「中世の彩色写本の挿絵」
皇帝は頑固な彼女を苦しめようと、残酷な拷問器具を持ち出します。
カタリナが天へ祈りを捧げると、刃の付いた車輪は肌を傷つける前に
壊れてしまいました。絵画では天使さんが現れ、車輪の足元が
ぱりっと割れていますね。右端の人の恰好がじわじわ来る・・・。
manuscript

「Fernando Gallego 作  1470年」
こちらもカタリナさんが車輪を破壊したシーン。取っ手と棘の付いた
歯車はばりっと割れてしまい、左側の皇帝らしき人物は天使を
忌々しそうに見ているようです。右下の人が個性的な顔をしている・・・。
Fernando Gallego, Martirio de Santa Catalina, 1470

「Vicente Castelló 作  1580-1636年」
この絵画の車輪は巨大で禍々しい感じですね。もう霊的ではなく
現実世界に天使たちが介入し、カタリナを助け出しています。
人々はその恐怖故か、倒れ伏しまくっています。
CASTELLÓ, Vicente 1580-1636

ガウデンツィオ・フェッラーリ作 1475 – 1546年」
こちらも超アグレッシブな天使さんが、車輪で串刺しになろうとしている
カタリナを剣で助けようとしています。このまま皇帝をざっくりと倒しそう
な状況に見えるのですが・・・。
FERRARI, Gaudenzio 1475 - 1546

「Hieronymus Francken II 作  1578-1623年」
こちらのカタリナは微妙に車輪に刺さっているような気がしないでも
ないですね。絵画によって車輪のデザインが異なるのが興味深い
です。天使ではなくキリストが直々にお出ましで、助けようとしています。
martirio_francken_hieronymus II

「Karl von Blaas 作  1860年」
伝説によると、斬首刑にされたカタリナの遺体は天使達がシナイ山へと
運んだとされています。その地には彼女の名前を冠した修道院が
建てられているそうです。
Karl von Blaas, 1860

Fernando Yáñez de la Almedina 作 1510年」
ダ・ヴィンチ風の容姿をしたカタリナさん。彼女のアトリビュートはトゲ
付き車輪と斬首に使用された剣であり、両方、もしくはどちらかが
あれば彼女の可能性が強いです。
Fernando yañez-santa catalina 1510

ベルナルディーノ・ルイーニ作  16世紀」
知恵の象徴である本と、殉教者の象徴である棕櫚の葉を持った
女性。あれ?と思いきや、右端に車輪がさりげなく描かれていますね。
Bernardino Luini - Saint Catherine 16th

「Bartolomeo Cavarozzi 作  1590-1625年」
こちらも足元に車輪、剣、棕櫚の葉が置かれているので、この女性が
カタリナだと言うことが分かります。それにしても車輪って大きいので、
絵画の構図上入れ込むのが難しそうですよね。この作者さんは
奥行き感によって頑張りました。
Bartolomeo Cavarozzi Santa Catalina de Alejandría

アロンソ・サンチェス・コエリョ作  1581年」
さて、どちらがカタリナでしょう。と言っても、一目瞭然な感じ
ですねw 右の方は聖アグネス。衣服をはぎとられてしまった時に、
髪の毛が伸びまくって全身を覆ったという奇跡が残されています。
それにしてもカタリナさん、皇帝らしき人を踏んづけていますが・・・。
 1581

「作者不詳  18世紀頃」
かなり勇敢な戦士に見えるカタリナさん。持っている剣を使って
異教徒と戦いまくりそうなのですが・・・。
というか、足元の生首!き、斬ったのですか!?
Anónimo - Santa Catalina de Alejandria  18th

アルテミジア・ジェンティレスキ作  1593-1653年」
かなり個性的な容姿をしているカタリナさん。
この方も凄く強そうに見えます。皇帝なんて片手でぽきっと倒して
しまいそうなのですが・・・。というか、髪形が和風に見えるような。
Artemisia Gentileschi - St Catherine of Alexandria

 異教の賢者達や王妃達を改宗させた博識さと、車輪の拷問の奇跡にならい、聖カタリナの守護対象はそれにちなんだものが多いです。wikiなどで調べただけでも、これだけありました。

『記録保管係、教育者、弁護士、図書司書、学者、オックスフォード大学、パリ大学、キリスト教における弁証家、車輪作りの職人(陶工と紡績業者を含む)、機械工、製粉業者、研ぎ職人、未婚女性、少女、看護師』

 前半は教育者や学者など知的なものばかりですね。中間になると、車輪や機械などの関連性になります。奇跡で車輪を壊す=機械を操る存在みたいな感じなのですかね。キリストと婚約したという逸話があるので、フィアンセのいる女性、既婚女性などが守護対象になると勝手に思っていたのですが、その逆の未婚女性が対象なのですね。キリストとの婚約はあくまでも幻想的、様式的なものであり、現実的なものであってはならない、という認識なのかもしれません。
 あと、最後の看護師がどう繋がるのかが個人的に不透明です。牢屋に入れられる前、彼女は皇帝によって鞭で背中を打たれて傷を負い、天使達が香油を塗って傷を癒すというシーンがあるので、そこから来たのかな?と思います。
 いずれにせよ、聖カタリナは現代も人気のある聖女であり、沢山の信仰者がおります。この守護対象の多さは彼女の人気の現れのように感じます。

→ アトリビュートについての絵画を見たい方はこちら


【 コメント 】

  1. アルチンボルドが好きな人 より:

    昔から論破王っていたんですねw
    ここでは紹介されていませんが、カラバッジョの『聖カタリナ』はカタリナとアトリビュートが絶妙に組み合わさっていていいと思います。殉教の場面を真面目に描くと登場人物が多すぎて画面がごちゃごちゃしてしまう気がします。
    キリスト教の殉教者の話でいつも思うのですが、車輪を破壊して処刑を阻止したのなら、そのままどこかに逃がしてあげればよかったのではないでしょうか。剣で斬首ならOKって理論は謎です。

    •  >> アルチンボルドが好きな人様へ

      アルチンボルド、ユーモアがあっていいですよね^^
      カタリナさんの論破力は半端ないです…。古代でも凄まじい舌戦が数多くあったことでしょう。
      カラヴァッジョ作の彼女は、芯の強い凛とした感じで素敵ですよね。
      確かに殉教シーンは描きこみが多くなって、ごちゃっとしがちです。
      情報が整理されたスマートな感じではないですが、込み合ったシーンも楽しくて個人的には好きです。

      「車輪で生き延びたのに斬首で死んじゃうの…?」って、そう思いますよね^^;
      キリスト教の聖人伝は、「宗教の為に命を散らした」という事が重要視されています。
      イエス・キリストは人類の原罪の贖いの為に命を捧げましたし、天国への門は死後に進めます。
      そういった考えにより、死は「救済」という一面を持っています。
      正しい信仰による奇跡は異教徒の攻撃を受けないという前提により、拷問を生き延びまくり、その先に「信仰を貫き、神の身許へ行く」殉教という流れになりがちなのではないでしょうか。
      聖人伝を見ると、色々な拷問を受けても奇跡で生き延び、斬首で息絶えるというパターンが多いです。

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