旧約聖書に登場するヨセフは、兄達に売られてエジプトで夢説きを行い、宰相となって人々を飢饉から救った青年です。
ヤコブとラケルとの間に生まれたヨセフ。彼には弟ベニヤミンと、11人の異母兄姉がいました。父親がヨセフばかりを可愛がるので兄達は嫉妬し、彼を隊商に売ってしまいます。隊商によってエジプトへと渡ったヨセフはポティファルの下僕となりますが、彼の妻の誘惑を拒絶した為に濡れ衣を着せられ、牢屋へぶち込まれてしまいます。ヨセフは牢屋へ一緒に入っていた二人の者の夢を解き明かし、その能力がファラオの耳へと入り、王の夢を説くことになりました。「七年の豊作の後、七年の大飢饉が来る」というファラオの夢を見事に説いたヨセフの能力は認められ、彼はエジプトの宰相へと昇格することになります。
豊作の間にエジプトは食糧を大量に保存しました。七年の後、実際に大飢饉が世界中を襲い、貯えのあるエジプト以外は飢えに苦しむことになりました。飢えはヤコブと兄弟たちの住むカナンにも及び、彼等は食糧を買いにエジプトへと訪れます。ヨセフは兄弟達に気付きましたが、相手は気付きません。そこで、彼は兄達を間者だと決めつけ、弟であるベニヤミンを連れてくるよう強要しました。シメオンを人質に取られた兄弟達は仕方なくベニヤミンを連れていきます。
ヨセフは兄弟達にご馳走をし、穀物を大量に持たせますが、もう少し兄弟を試そうと、帰りにベニヤミンの穀物の中に銀の盃を入れておき、彼を盗人に仕立てあげて「奴隷にするぞ」と脅しました。すると、兄弟達は「自分が奴隷になってもいいから、ベニヤミンは家に帰して欲しい」と懇願したのでヨセフは安心し、自らの素性を明かしました。兄弟たちは酷く驚いたものの、再会を喜んで和解を果たし、ヨセフはヤコブのいる故郷へと帰ったそうです。
奴隷から宰相になり、結果的に家族を救うことになったヨセフの絵画13点をご覧ください。
「Alexander Maximilian Seitz 作 1811-88年」
ヨセフは父親ヤコブに非常に可愛がられていました。「兄さん達の
持つ束が僕の束にお辞儀したんだよ~」という夢を聞かされ、
兄達は激怒。ヨセフを穴に落とし、ミデヤン人の隊商に売り払って
しまいます。父には「弟は猛獣に喰われた」と言い訳します。
「Adrien Guignet 作 1816-54年」
エジプトへと渡ったヨセフは濡れ衣で牢屋へと入れられ、そこで
夢を解き明かした事で、評判がファラオの耳へと入ります。
「なら予の見た夢を解き明かしてみせよ」とファラオが言います。
「アントーニ・ファン・モントフォート作 1533-83年」
「太った七頭の雌牛が草を食べていた。その後に痩せた七頭の
雌牛が最初の雌牛達を喰らった。しかし痩せた牛は変化なかった」
もうひとつ、「茎に豊かな穂が七つあった。するとしなびた穂が七つ
表れ、豊かな穂を飲み込んだ」・・・さぁ、何を意味するのだ。
「レジナルド・アーサー作 1893年」
「解釈はこうです。七年の豊作の後、七年の大飢饉が訪れます。
王よ。今すぐ食糧を備蓄すべきです」とヨセフは助言します。
その手はしっかりと「7」を表わしていますね。
「バルトロメウス・ブレーンベルフ作、もしくは工房作 1644年以降」
ファラオはヨセフの夢の解釈を信じ、人々に食糧の備蓄を命じます。
ヨセフはツァフェナト・パネアというエジプト名を与えられ、宰相に
命じられました。豊作の間は面白い程に穀物が収穫でき、
人々は豊かになりました。
「バルトロメウス・ブレーンベルフ作 1598–1657年」
備蓄にいそしむエジプトの市民たち。手前の人はちょっと休憩を
しているようですが^^; オリエンタリズムが始まる前の作品なので、
異国情緒的雰囲気は薄いですね。エジプトの情報はまだ入り
辛かったのでしょうか。
「ポントルモ作 1518年」
こちらもエジプトの情景というより、ギリシャを思わせる彫像や
建築が並んでいますね。七年の大飢饉が訪れても、エジプトは
備蓄があるので問題ありません。何も準備をしていなくて飢えた
人々がエジプトに押し寄せます。
「アビル・デ・プジョル作 1827年」
「ヨセフによって救われたエジプト」という題の作品。
ファラオの元へ訪れる恐ろしい飢饉を象徴した老女たち。
しかし、エジプトは安心して撃退することができたのだと思います。
「ピーテル・ラストマン作 1583‐1633年」
「エジプトには食糧が沢山ある」という噂を聞き、馬に乗って
やって来た人達。その中には、カナンからはるばるやって来た
ヤコブの息子達も含まれていました。
「Antonio Del Castillo Y Saavedra 作 1616-68年」
兄達はヨセフに気付かず、「食糧を分けてください」と懇願します。
ヨセフは食糧を分けたものの、彼等を間者と決めつけてシメオンを
人質にして、弟のベニヤミンを連れてくるよう強要します。
「フランツ・アントン・マウルベルチュ作 1724-96年」
兄達は仕方なくベニヤミンを連れてきますが、今度は彼の持つ
袋の中に銀の盃が入れられており、盗人の容疑がかけられて
しまいます。「奴隷にしてやる!」と脅すヨセフに、兄達は
「自分は奴隷でもいいから弟だけは止めてくれ」と懇願します。
「フランソワ・ジェラール作 1770-1837年」
兄達の心優しさを理解したヨセフは、自らの素性を明かすことに
しました。ヨセフは騙した事を詫びます。兄達は驚き、かつての
仕打ちを謝って和解を果たしたのです。
「サロモン・デ・ブライ作 1655年」
こうしてヨセフは故郷へと帰り、老衰していた父親ヤコブに姿を
見せる事ができました。彼等はゴジェンへと引っ越し、ヨセフは
110歳まで生きたとされています。
豊作の時に消費した者は飢え、備蓄した者が正しい。なんだかイソップ童話の「アリとキリギリス」みたいですよね。 秋の間に音楽に明け暮れるキリギリスと、せっせと食糧を貯えるアリ。 冬が到来し、キリギリスが飢えに耐えかねてアリの元へ訪ねると、アリはこう言い放ちました。「夏の間歌っていたなら、冬の間踊りなさい」と。
・・・うん、アリさん恐いですねw エジプトはアリみたいに「飢饉中踊っていなよ」みたいな鬼畜な事は言わず、人々に穀物を売ってあげます。そうしてがっぽり儲けたのかもしれません。いずれにせよ、事前準備は必要ですね。←雑なまとめw
→ イソップ童話についての絵画を見たい方はこちら
→ ヤコブとエサウについての絵画を見たい方はこちら
【 コメント 】
>> 季節風様へ
こんばんは^^
ポティファル夫人に迫られるヨセフの絵画は想像以上に沢山あります。
やはり美男は人気者ですねw
兄弟達はヨセフを売った事を後悔していたのかもしれませんね。
その代わりとして精一杯ベニヤミンを可愛がってあげようと。
ヨセフもその弟への優しさが確認できて、兄達に復讐せずに赦すことにしたのだと思います。
ヨセフは夢解きの才能があり女主人に迫られたのだから美男でもあったのでしょう。
エジプトの壮麗な宮殿は絵になります。このファラオは名君ですね。
ヨセフは弟に会えて感激したと思います。でもあの酷かった兄達が必死で末弟を庇ったのはもっと感激です。
>> 美術を愛する人様へ
こんばんは^^
ファラオの懐の広さが異常ですよねw
「備蓄の指揮は任せた!」って投獄されていた外国人をいきなり宰相にして、1~2年の備蓄ならともかく、7年間備蓄の管理を任せるなんて。
市民からも「贅沢したいー!」って声も上がるでしょうし、7年間の備蓄には並大抵の根気がいりますよね。
私もヨセフよりファラオの方がただ者ではないような気がしますw
現代日本だと沢山買っても、場所とるし賞味期限切れるしで、備蓄は難しいですよね。
震災の備蓄はやった方が良いと思うのですが、あまりできていません。
(乾パンの賞味期限が切れっぱなしです。買わなきゃと思いつつ時間が経つ…^^;)
ファラオに倣わなきゃいけませんね。
このお話、投獄されていた変な外国人を信じて
7年の豊作に気を緩めず備蓄がんばったファラオがなにげにただ者ではないように思えます。
備蓄って必要なのはわかっていてもスペースや管理の問題がありますよね…