黄金の子牛の像の絵画13点。神を象るなとモーセが怒り狂った偶像崇拝の象徴 | メメント・モリ -西洋美術の謎と闇-

黄金の子牛の像の絵画13点。神を象るなとモーセが怒り狂った偶像崇拝の象徴

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Moses Destroying the Golden Calf by Andrea Celesti -

 黄金の子牛は、イスラエル民族によって作られたとされる旧約聖書に登場する像です。
 「出エジプト」によると、モーセはシナイ山で神託を受ける為、40日間こもっていました。残されたイスラエルの民たちは「モーセは死んだのではないか」と思うようになり、限界に達した彼等は「我らを導いてくれる神を作ってくれ」とモーセの兄アロンに嘆願します。アロンは仕方なく黄金で作られた子牛を鋳造しました。すると、民は像を拝み始めたのです。

 その状態を見た神はすぐさま下山するようにモーセに命じ、「民を滅ぼしてやる!」と激怒します。モーセは「止めてください」と神を説得し、授かった十戒の石板を持って下山します。彼の目に飛び込んできたのは、宴をしながら金の子牛を取り囲み、像を拝んでいる人々の光景でした。それに怒ったモーセは石板を破壊し、子牛を溶かして粉々にし、水に混ぜて民に飲ませました。そして、偶像崇拝に加担した民衆を殺害するように命じたのです。その数は3000人ほどであったとか・・・。モーセも中々にやっちゃっています。
 この物語は旧約聖書のヤハウェの神を物質化し、「偶像崇拝」した事によって神の怒りを買った、という事を伝えていますが、時代が経るにつれて、拝金主義や唯物論の比喩としても考えられるようになりました。
 では、黄金の子牛についての絵画13点をご覧ください。




「作者不詳 彩飾写本の挿絵」
上でモーセが神から石板を受領中。下では金色の子牛を
イスラエルの民が崇拝しています。右上ではモーセが早くも
石板を破壊しております。
golden-calf-lectio

アントーニオ・モリナーリ作  1655-1704年」
モーセが長期不在で不安になった人々は兄アロンに「神を製作
させて!」と懇願します。アロンは仕方なく了承し、彼等は子牛を
作り出しました。この絵画の右上をよーく見ると、シナイ山で
石板を受領するモーセの姿がいらっしゃいます。
Molinari Antonio

「ルーカス・ファン・レイデン作  1530年」
ちょっと見にくいですが、中央の画面奥に子牛像がおり、
人々が周囲を踊っています。祭壇左にはイエスの誕生のシーン。
偶像崇拝や快楽に溺れる人々の中に生まれた、唯一の希望
と言った感じなのでしょうか。旧約と新訳が混ざってますね。
Lucas van Leyden 1530

「ティントレット作  1560年」
こちらも画面左奥にミニマム子牛が。人々は手を取り合ってその
周囲を踊っています。中央にはモーセがおり、それにブチ切れ。
そして近景には何名かの人々が。時代の移り変わりを表して
いるのでしょうかね・・・?
Tintoretto 1560

「ティントレット作  1518-94年」
子牛を運搬中の人々。左下で抗議しているように見える老人は
モーセでしょうか。この後石板は真っ二つになり、
子牛は粉々事件に・・・。
After Jacopo Robusti, il Tintoretto

「ヤン・ステーン作  1626-79年」
子牛を取り囲み、踊る人々。手前の者達は食べ物や飲酒、
遊びに興じています。拝金、快楽と結びついているようですね。
右側には怒るモーセの姿が。
The Worship of the Golden Calf - Jan Steen

「Frans Francken (子)作  1630-35年」
食卓が並び、男女が楽し気にご飯を食べているようです。
その奥には金の子牛。モーセらしき人物は左側に。
金の子牛の周りを踊るという構図はよく見られますね。
Frans II the Younger Francken 1630-35

「Frans Francken (子)と工房作  1581 – 1642年」
構図がよく似ており、右下をクローズアップしたという感じでしょうか。
人々が快楽に興じている中で・・・子牛がちっちゃ!
Frans Francken II 1581 - 1642 and Studio

「二コラ・プッサン作  1634年」
金の子牛を中央にして人々がるんるんと踊り、中央の女性は
「一緒に踊りましょう!」と右側の人々を誘っているようです。
白い衣服のモーセは「ならぬ!」と遮り、偶像崇拝を否定しています。
Nicolas Poussin 1634

「二コラ・プッサンの追随者作 17世紀」
こちらは金の子牛をしっかりと崇めているようですね。
精神や意識も物質の一つだ。この世は物質ありきである。という
考え方である「唯物論」。古代ギリシャにもこの思想はありましたが、
西洋では17世紀頃に花開きました。その思想の結果なのでしょうか。
Nicolas Poussin, previously attributed to

「ドイツ出身の画家作  1600年頃」
子牛へ祈りを捧げる人々。モーセは怒りのあまり石板をぶん投げ中。
それを止めようとする兄アロン。そして・・・右下の老人はモーセでは
ないとしたら神その人なのかしら?偶像崇拝を批判して神が
具現化しちゃったのかしら・・・?(ぇ
German School, circa 1600

ジャン・オノレ・フラゴナール作  1732-1806年」
子牛を崇める人々にブチ切れ、アロンともう一人の老人が
モーセを留めています。「神がお怒りになる。こんなものは壊せ。
そして偶像崇拝をした者を滅せよ!」と彼は命じます。
Jean Honor Fragonard

「Andrea Celesti 作  1637-1712年」
こうして壊される子牛の像。粉々にして溶かして民に飲ませ、
偶像崇拝に加担した者は全て殺害されてしまいます。その数
約3000名。神の命ずる「皆殺し」とはいかないまでも、モーセも
恐ろしい事をしております・・・。
Moses Destroying the Golden Calf by Andrea Celesti

 神への媒介に物体を利用して崇める事を「偶像崇拝」と言い、仏教やカトリック、ヒンドゥー教などは神へ祈りを捧げる為に、像や絵画などを使っています。しかし、ユダヤ教、イスラム教、プロテスタントなどは「神は具現化できるはずがない。人間が作ったものへ祈っても、神を信仰している事にならない!」と批判し、偶像崇拝を否定しています。「神を信仰するのに媒介は必要か」。その問題が、世界に戦争と破壊を引き起こした一つの原因と言っても過言ではないように思います。

 このモーセの事件もそうですが、プロテスタントは神や神の子をモチーフにした像や絵画を壊す「偶像破壊」を行いました。偶像以外にも、教義に合わない宗教画も壊されました。それで壊された芸術品は数知れず。ヒエロニムス・ボス師匠の作品もかなりの数を壊されてしまったとされています。本当にこれだけは許せない。宗教の差異、という理由で画家が魂込めて製作した絵画を破壊するだなんて・・・。過去に戻れるなら全ての絵画を救出したいくらいです。

(画家であるクラナッハやグリューネヴァルトもプロテスタント派ですが、神を描いていますよね・・・。その辺の思想は地域によって異なるのかもしれません。壊されてしまった絵画は、運が悪かったとか言いようがないですね。ああ、本当に無念です)

→ モーセについての絵画を見たい方はこちら


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