旧約聖書の「士師記」に登場するヤエルは、将軍の頭を釘で打って倒した女性です。
当時、カナンとイスラエルは争っていました。イスラエルが勝った時、カナンの将軍シセラはヤエルの天幕の中へ逃げ込みました。ヤエルはへベルの妻であり、夫はカナンの王と知り合いだったので、助けてくれると思ったのでしょう。ヤエルは「どうぞ、お入りください」と言って彼にミルクを飲ませ、布で覆いました。シセラは安心して布の中でじっとしていました。やがて彼は熟睡してしまいます。
しかし、ヤエルはイスラエルの味方でした。彼女は天幕の釘を取ると、金槌を手にします。そしてシセラの元へゆっくりと歩いていくと、おもむろに釘を彼の頭に当て、力いっぱい金槌を振り下ろしたのです!ガーンと!釘は頭を突き抜けて地面にまで刺さり、シセラは即死をしました。こうして彼女はイスラエルの将軍バラクを見つけ、貴方の探している敵はこちらです、と死んでいるシセラを差し出したのです。
金槌で頭に釘を打つという凄まじい攻撃をして敵将を討ち取った、ヤエルの絵画14点をご覧ください。
「Jacopo Amigoni 作 1739年」
本来なら全身を布で覆っていて、その上から釘を刺したと思われる
のですが、絵画では顔が見えなくなってしまうので、布をおまけ程度に
描く作品が100%でした。二の腕ががっちりとしたヤエルさんが、
全力で金槌を振り下ろそうとしていますね。
「Jacopo Vignali 作 17世紀」
兜を抜いだシセラはぐっすりと眠っています。こちらの釘は針のように
細めですね。金槌は現代でも使われているような感じのデザインです。
絵画によって釘と金槌の形が変わるのが興味深いです。
「Ottavio Vannini 作 1640年」
もの凄い幸せそうな表情のシセラ。戦争に再び出陣して勝利を収める
夢でも見ているのでしょうか。この刹那、命が終わることも知らずに・・・。
「フェリーチェ・フィチェレッリ作 17世紀中頃」
両手両足を広げて、大胆に眠るシセラに、上半身を露わにしながらも
やる気満々で中腰態勢となっているヤエル。この調子なら地面まで
貫けそうですね・・・。
「Niccolo Berrettoni 作 17世紀」
一枚の絵画に幾つの場面を収める為、ちょっとイスラエルの将軍が
来るのを早めてしまったようです。ヤエルはまだ釘を打ち込んで
いませんが、バラクが扉からこんにちはをしています。
「Pedro Nunez del Valle 作 17世紀前半」
こちらも時短術でしょうか。背後ではカナンとイスラエルの戦争が
行われているようです。シセラが目覚めていても関係なし。清楚そうに
見えるヤエルさんは金槌をしならせながら、スイングをしています。
「アルテミジア・ジェンティレスキ作 1620年」
物語では天幕(テント)となっていますが、それを気にしていない画家も
みえます。家だったり、立派な建物だったり、野外だったりと事件現場は
様々です。こちらのシセラも半ズボンで幸せそうに寝ていますね。
「Domenico Guidobono 作 1709年」
ちゃっかり膝枕をされているシセラ。旧約聖書の英雄サムソンも
愛人デリラに心を許し、寝ていたら力の源になる髪をばっさりと斬られて
しまいました。その寝方によく似ているように感じるので、参考にした
部分もあったのでしょうか。
「Alessandro Turchi 作 17世紀前半」
お相撲さんばりに強そうなヤエルさん。地面まで到達するどころか、
地面をカチ割りそうなレベルです。釘と金槌で頭蓋骨を貫通できるのかなぁ
と考えたのですが、鋭ければ女性の力でもできそうな気がします。
「バルトロメウス・スプランヘル作 1546-1611年」
お姫様のような姿をしたヤエルが、極細の釘をこめかみに当てています。
釘に毒が塗ってありそうで、なんだか暗殺めいていますね。
右手に持った金槌がゴツイですが・・・。
「ルカ・ジョルダーノ作 1634‐1705年」
こちらのヤエルは仕事を完了して、神にご報告をしているようです。
寝首をかかれるならぬ、寝頭を打たれる、ですね(笑)
というか金槌でかっ!
「ジェームス・ティソ作 1896 – 1902年」
近代の画家ティソは時代背景や物語に忠実に描いていますね。
ヤエルさんのしゃがんでるポーズが個人的にツボです。
なんだか日曜大工でもやっているような感じですね・・・。
「バルトロメオ・ヴェネト作 1500年頃」
もちろんヤエルのアトリビュートは金槌。肖像画で金槌を持っている
美女がいたら、ヤエルだと思いましょう!
→ アトリビュートについての絵画を見たい方はこちら
女預言者であるデボラ、イスラエル将軍バラクを後ろに従えるヤエル。
肝っ玉母さんみたいになっていて、「私があんたたちを守ってあげるわ!」
と言っているようです。彼女が味方にいれば百人力、どんな戦争でも金槌
と釘一本で勝てそうです(笑)
旧約聖書において、心を許した男性を破滅させた女性が他に二人います。一人は勇敢な女性ユディト、もう一人は悪女とされるデリラです。彼女たちはストーリーにおける立場は違えども、美貌と優しさを持って男性を誘惑し、前者は首を斬り落とし、後者は策略で力の源を断ってしまいました。
ユディトとデリラは比較的有名な女性で、悪女(ファム・ファタール)と考えられている場合がありますが、ヤエルは引き合いに出されたことがないように思います。彼女も物凄いことをしているんですけどね・・・。絵画は結構多くあったので、日本ではあまり広まっていないのかもしれません。この迫力を見ていると、知名度が低いのが不思議なくらいです。皆様、この機にヤエルさんを広めましょう!w
→ ユディトについての絵画を見たい方はこちら
→ サムソンとデリラについての絵画を見たい方はこちら
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