サイクロプス(キュクロプス)の絵画12点。狂暴だとしても美女に恋する一つ目の巨人 | メメント・モリ -西洋美術の謎と闇-

サイクロプス(キュクロプス)の絵画12点。狂暴だとしても美女に恋する一つ目の巨人

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 サイクロプス(キュプロクス)はギリシャ神話に登場する、一つ目の巨人の種族です。
 天空神ウラノスと地母神ガイアの間よりサイクロプス族は生まれましたが、父の手で奈落タルタロスに落とされてしまいます。神々の大戦ティタノマキアの際にゼウス達によって解放され、その返礼として神々に三つの神器を造りました。戦争後は鍛冶の神ヘパイストスの所で鍛冶業を行ったとされています。

 一方、ホメロスの叙事詩「オデュッセイア」に登場するサイクロプス族は、好意的な巨人ではなく、人を喰う凶暴な怪物として登場しています。サイクロプス族の島に漂着してしまった英雄オデュッセウスとその部下は、ポリュペーモス達によって捕らえられてしまいました。食べられていく部下。オデュッセウスは手持ちのワインでポリュペーモスの機嫌を取り、「私の名前はウーティス(誰でもない)」と告げました。巨人が酔いつぶれた頃、オデュッセウス達はその巨大な目を潰しました。痛がるポリュペーモスが「ウーティスにやられた!」と叫んでも、駆けつけた仲間達は「そっか、誰でもないのか」と帰ってしまいます。洞窟から無事に抜け出し、船に乗ったオデュッセウスは調子づいて自らの名を言ってしまった為、ポリューペモスは父であるポセイドンに祈り、彼は今後難破に苦しむ事になったのでした。

 そんな少し哀れなポリュペーモス。狂暴だけかと思いきや、ニュムペーであるガラテイアに恋したという逸話も残っています。ガラテイアに恋していたポリュペーモスは、彼女が青年アーキスといちゃついているのを発見。嫉妬のあまり石を投げつけてアーキスを殺してしまいます。異なる文献によると、ポリュペーモスとガラテイアは無事にゴールインし、三人の子供まで設けたとされています。
 では、ポリュペーモスを筆頭に、サイクロプスについての絵画12点をご覧ください。

「ヨハン・ハインリヒ・ヴィルヘルム・ティシュバイン作 1802年」
どーん!とサイクロプスの顔がドアップです。
「一つ目」と言うと、両目部分に一つだけ目というイメージがありますが、
両目部分は潰れ、おでこの第三の目がぱっちりです。
容姿は殆どの画家がひげもじゃのおじさんを採用しています。


「ローマ時代のモザイク壁画より  4世紀頃」
ポリュペーモスらが住まうサイクロプスの島に漂着してしまった
オデュッセウス一行。一日に二人ずつ部下がご飯にされてしまい
ます。彼は巨人を上手く騙し、ワインで酔わせて眠らせました。

「ペッレグリーノ・ティバルディ作  1527-96年」
熟睡したのを見計らい、オデュッセウスは熱した木の杭で巨人の
目をぐさっとします。痛そう!それにしてもポリュペーモスの
ポーズが肉体美を狙いすぎている気がする!

「クリストファー・ヴィルヘルム・エッカースベルグ作  1812年」
羊飼いを生業としていたキュクロプス達。失明したポリュペーモスは
オデュッセウス達を逃がさないよう、羊を触って確認します。
しかし、彼等は羊の下にぶら下がり、その危機を脱したのでした。
絵画では丸見えの状態ですが気付いていないようです^^;

「ペッレグリーノ・ティバルディ作  1550-1年」
「俺の目を潰した奴は何処じゃぁぐるぁあぁー!!」と怒り心頭の
ポリュペーモス。足元では羊にぶら下がるどころか皮を被り、
オデュッセウス達が逃走中です。若干夢にうなされそうな顔!

「グイド・レーニ作   1639-40年」
「俺の本当の名はオデュッセウスだー!はっはっはー!」と
捨て台詞を吐く英雄に、悔しそうな表情を浮かべるポリュペーモス。
レーニは「聖セバスティアヌス」の作品の印象が強いので、
ムキムキなおじさんを描いているとは思わなかった・・・。

「ジュリオ・ロマーノ作  1526-8年」
楽器と棍棒を手に持ち、岩に貫禄ある姿で座っていますね。
足元にはアーキスとガラテイアらしき男女の姿が。
早く逃げないとぷちっと潰されちゃうよアーキス君!

「アンニーバレ・カラッチ作  1560–1609年」
アーキスに狙いを定め、今にも岩を飛ばそうとしている
ポリュペーモス。この伝説によると、巨人はガラテイアへの
愛のあまり、故郷を捨て、粗暴さを正し、身なりを整え、
アピールしていたそう。それでも愛は届かず狂気へと変わる。
The Cyclops Polyphemus - Annibale Carracci (1560–1609)

「ポンペイのフレスコ壁画より  1世紀頃」
オデュッセウスには目を潰され、恋は実らず粗暴に戻る。
そんな不遇な彼ですが、アッピアノスの「イリュリア戦争」
によると、ガラテイアとポリュペーモスは結ばれています。
ガラテイアからのラヴレターを受け取る巨人の壁画。幸せそうですね^^

「ローマのフレスコ壁画より  45–79年頃」
ガラテイアの到着を耳にしたポリュペーモスという作品。
「何を話そうかなぁ、どきどき」と照れておりますね。それにしても
一つ目ではなく普通の人間のように描かれていますが・・・。
ほ、本当にポリュペーモスを描いた作品なのかな?←ぇ

「オディロン・ルドン作  1914年」
有名な作品ですね。ガラテイアをじっと見つめる一つ目の巨人。
嫉妬のあまり石をぶん投げるような神話の物語とは異なり、
見守っているかのようなじっと見つめる目が印象的です。

「ギュスターヴ・モロー作  1880年」
画面一杯に描かれた白く輝く肌を持ったガラテイア。

の奥にいる!顎に手を添え、「美しいぞ・・・」とのぞき込んでいます。
そんなお顔がイケメンですね^^;

 凶暴で野蛮、愚鈍な印象を持つサイクロプス。
 ローマ時代では髭もじゃの中年のおじさんの姿で描かれている作品ばかりで、ルネサンス~バロック期の作品もそのイメージを継承している作品が殆どです。そんな中で、ペッレグリーノ・ティバルディやギュスターヴ・モローの作品のポリュペーモスはイケメン風の全然違う容姿をしています。(ルドンは違った意味で浮いていますが)
 美術は様式や手法、概念が乱立し、何を「美術」とするのかは人によりけりという部分があります。二人の画家は「サイクロプスは粗暴なおじさん」というイメージを覆し、「美術は美しさを追究するもの」というこだわりが感じられるように思います。

 現代のゲームなどに登場するサイクロプスは、もう髭もじゃのおじさんではなく、一つ目で体色が青か赤か緑という人間離れした色で、スキンヘッドで角が一つか二つ。牙が生えており、野蛮人のような服装をしており、手には棍棒を持っています。その姿は「鬼」を想像させますね。
 そのような姿に変わっていった経緯は判然としませんが、私には日本のゲームの影響があるような気がしてなりません。

→ オデュッセウスの冒険についての絵画を見たい方はこちら
→ オディロン・ルドンについての絵画を見たい方はこちら

 

【 コメント 】

  1. 管理人:扉園 より:

     >> 粘土で作る私のルドンシリーズ最新作は『サボテン人間』だ( ̄▽ ̄)様へ
    こんばんは^^
    コメントがほぼルドンの話題となるのは私も想定外でした(笑)
    ルドン有名だと思うんですけどね…。一般的ではないのかしら。
    ここのブログ自体がコアな感じだからですかねw
    オアンネス君はまだですね。
    調べてみたら、オアンネス君の作品はルドンと古代の線画の2~3枚しか見つからなかったので、別名であるダゴンや半魚人など枠を広げてなら紹介できそうです。
    こちらもティアナのアポロニウス特集+ラミアと言った感じなら紹介できると思います!
    ごゆるりとお待ちくださいませ^^

  2. 粘土で作る私のルドンシリーズ最新作は『サボテン人間』だ( ̄▽ ̄) より:

    ルドン、リアルで名前を出すと「ん?」という反応を示す知人が多いのですが(ルノワールが有名すぎるのか?)、ここじゃ意外と人気なんですね。もはやルドン特集の記事みたいな(笑)
    相変わらず読むの遅いですが、ただいま『聖アントワヌの誘惑』第五章を読んでいます。ルドンの挿絵やパステル画で知って楽しみにしていたオアンネスくんがようやく出てきました。
    オアンネス特集って、このブログにはすでにありましたっけ? ( ̄▽ ̄)
    あと、前の章に出てきたアポロニウスとラミアのエピソードもおもしろかったので、まだでしたらリクエストしておきます( ̄▽ ̄)

  3. 管理人:扉園 より:

     >> ルドンのような人になりたい様へ
    こんばんは^^
    毎回ご覧下さりありがとうございます!
    調べてみたところ、同名の別人のようです。
    ピュグマリオンの理想像としての女性ガラテイア。
    凶暴な巨人が恋する程の女性ガラテイア。
    名前の由来は「乳白色の肌を持つ者」とされ、二人とも色白の美女なのかもしれませんね^^

  4. 管理人:扉園 より:

    >> びるね様へ
    こんばんは^^
    まさかそんな繋がりがあるとは!驚きです。
    初期のゴジラを観ておらず、「海からざばっと出てきて、都会へ突き進んでいく」みたいな勝手なイメージを持っているのですが、そんなに似ているのですね。
    ある意味このゴジラシーン関連説が「怖い絵」のような^^;
    ルドンの作品は幻想的と捉えていたので、仰られるまで三次元的に考えていませんでしたが、既に立体化した論文が存在していたのですね。
    研究者って凄いです…。

  5. ルドンのような人になりたい より:

    こんにちは!いつも楽しくみてます’◡’
    お相手の女性のガラテアって、もしかしてピグマリオン伝説に出てくるあのガラテアですかね?それともたまたま同じ名前の人⁇

  6. びるね より:

    書き忘れましたが、ゴジラが初めて登場したのは八幡山(1954年)ですが、そのシーンはルドンの『キュクロプス』からとった、という説(一次資料が確認できていないので、いまのところ「説」です)があります。そのシーンをみると、構図もよく似ています。
    『キュクロプス』の空間を立体化した論文もあり、読んだ覚えがあります。

  7. 管理人:扉園 より:

     >> 粘土で作る私のルドンシリーズ最新作は『サボテン人間』だ( ̄▽ ̄)様へ
    こんばんは^^
    プロフィール欄のお顔が替わった!と思っていたらルドンのサボテンさんであったとは。
    気付けなかった自分を叱りたい…。
    シダ&削りカスで髪を表現するとは匠ですね!そして笑う蜘蛛が可愛い^^
    私も実物キュクロプスには出会えていません。
    おお、そんな斬新な見方もあったとは!
    私は一つ目の巨人と言うのを先に知ってしまった為、そのようにしか見ていませんでした。
    横顔風だとなんかエジプト神っぽく感じました(笑)
    身体だけを見ると、二足歩行というより四つん這いの方がしっくりくるような気がします。
    ガラテイアを見やすいように這っているのかも!?
    読者様の情報だと1989年に来日したそうなので、もしかしたらそろそろ来るのかもしれません。
    立体第5作目の栄誉をぜひキュクロプスさんの手に!^^

  8. 管理人:扉園 より:

    >> びるね様へ
    こんばんは^^
    キュプロクス来日したことがあったとは!
    オランダに行ってみたいなぁと思っておりますが、アムステルダムから少し離れた美術館にあるのですね。デンボスのついでに行けるかしら…。
    またキュプロクス来日して欲しいです。
    そう言われてみれば、黒目が上を向いていて直接ガラテアへは視線が行っていないのですね。上空か、私達鑑賞者の方を向いているのでしょうか。
    それでも彼がガラテアを見ているように感じるのは、先入観の為か、ルドンの不思議な世界観の為か…。面白いですね^^
    製作年を1898-1900年頃、または1914年と明記するサイトが多いですが、後者の方が正しかったのですね。
    「怖い」の人はなんというか、「ん?」と思うようなこじつけに思えてしまう部分があります…。
    ルドンの人生には詳しくありませんが、キュクロプスのように豊かな色彩のタッチは次男アリが生まれた頃から描かれたようで、内面世界の顕現と息子への愛というか優しさを個人的には感じます。
    怖い絵とは反対に思えるのです…。

  9. 粘土で作る私のルドンシリーズ最新作は『サボテン人間』だ( ̄▽ ̄) より:

    ルドンの『キュクロープス』、実物見たことないのですよ。
    有名な作品ですが、私は最初、一つ目巨人だと気づかず、タコみたいな恐竜の横顔かと思っちゃいました。(こちら側に見えているのは右目で、ガラテイアに向けられている左耳がタコの水出し口みたいにすぼめた口先で)
    でも、見間違いだと気づいても、やっぱりそのほうがしっくりくるんですよね……と思ったけど、やっぱりそれだと角度的にガラテイアをガン見状態なので怖いわ^^;
    瞳が上に寄っているのは、下を覗き込もうと首を突き出しているからでしょうか。離れてみると、どこ見てるかとか顔の角度すらわからない……
    立体で再現してみたいけど……
    やっぱり実物を見たいです。招致してください^^(ぇ

  10. びるね より:

    ルドンの『キュクロプス』は1989年に日本で公開されたときにみる機会がありました。クレラー=ミュラーにあるので、一度行ってみたいと思いながらそれっきりです。
    一見ガラテアをみているように思えますが、絵をじっくりみると、キュクロプスはガラテアを見ていないことに気がつくと思います。
    制作年代も間違って引用する人がいまだに多くて、特に「怖い」の人は堂々と間違った年代で自説を組み立てていているので、正しい年代を知ってから、自信たっぷりな説を読むと派手に論理崩壊するので、それが面白かったです。

  11. 管理人:扉園 より:

     >> オバタケイコ様へ
    こんばんは^^
    愚直粗暴な印象のポリュペーモスとはだいぶ離れていますよね。
    ガラテイアの眠りを妨げないように「僕が護る…」と優しく見守る大きな目。
    多くの人は昔からの固定概念に流されてしまいがちですが、ルドンは自らの感性やイメージを使って自由に表現しています。
    そんな縛られない感性が芸術家に必要なのかもしれないなぁと思ってしまいます。
    オバタ様は美術館に勤められているんですね!
    そこでルドン展が開催されたとは羨ましい…。見放題ではないですか^^
    私の家の近くにも美術館はありますが、矮小すぎて有名作品は来てくれません(> <)

  12. オバタケイコ より:

    ルドンのこの作品大好きです!とても優しそうで愛情が感じられます。ルドンは以前から大好きで、浜松に来た時も行きましたし、私が勤める美術館でもルドン展開催したので感激でした。(^-^)

  13. 管理人:扉園 より:

     >> 美術を愛する人様へ
    こんばんは^^
    人食い&粗暴なポリュペーモスですが、オデュッセウスに騙されたり目を潰されたり、愛する者の為に身なりを整えたりと、なんだか愚直でいじらしく感じます。
    図体の大きなおじさんだけど、心は純情派乙女なんですね^^;
    ルドンの幻想的な作風で違和感を感じていませんでしたが、確かに一番巨大かも…。
    ガラテイアさんが手にすっぽりと入りそうなサイズです。
    モローもなかなかのビッグサイズ。
    羊飼いを生業としていたのなら、そこまで巨大ではなさそうですね。
    個人的にはペッレグリーノさんくらいのサイズかしら…と思います。3~4mくらい?
    それでもガラテイアさんよく愛を受け入れたなぁと感心するくらいのデカさですね^^;

  14. 美術を愛する人 より:

    ポリュペモスはオデュッセウスの話とアキス・ガラテアの話で知ったので、怖い人食いストーカーおじさんのイメージが強かったのですが、大人になってテオクリトスの詩を読んだらやたら乙女チックで、なんだかかわいく見えてきたような。
    画家によってサイズ感がかなり違うのが面白いです。
    ルドンのように人間とハムスターくらいサイズが違うとそもそもガラテアに恋するものか?となりますが、フレスコ画のサイズ違いくらいなら恋も成立するかも。
    でもあんまりお手頃サイズ解釈でもオデュッセウス一行が弱すぎに見えそうで、難しいですね。

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