夢魔と悪夢の絵画13点。フュースリから派生した、美女に忍び寄る不気味な悪魔 | メメント・モリ -西洋美術の謎と闇-

夢魔と悪夢の絵画13点。フュースリから派生した、美女に忍び寄る不気味な悪魔

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 夢魔は睡眠中の人の夢に現れて、交わりを持とうとする悪魔の一種です。
 男性の夢魔はインキュバス(インクブス)、女性の夢魔はサキュバス(スクブス)と呼ばれています。コウモリに変身して部屋に侵入し、理想の相手を模したり、超絶美形の姿となったりして犠牲者に怪しまれないように事を成し遂げるとされています。しかし、夢魔の正体は非常に醜い化け物なのです。中世ルネサンス時代は本気で夢魔がいると信じられ、不義の子供が産まれた場合は夢魔が影響していると考えられました。
 そして、ロマン派の巨匠ヨハン・ハインリヒ・フュースリによって夢魔は絵画の世界に登場し、女性の上に乗る不気味な怪物を描く追随者が次々と現れます。また、夢魔を風刺に用いたり、悪夢を主題にした絵画を手掛ける者も出現したのです。
 夢魔や悪夢に関連した絵画13点をご覧ください。

 

「ヨハン・ハインリヒ・フュースリ作   1781年」
フュースリは夢魔をテーマとした作品を計5枚手掛けました。
日本の妖怪のような姿の巨大な夢魔が女性の上にのしかかっていますね。
夢魔の有名な二つの作品は下記のリンクにて。
→ フュースリの夢魔の絵画を見たい方はこちら

「Nicolai Abraham Abildgaard 作  1800年頃」
フュースリの影響を受け、何名かの追随者が現れました。
真っ黒な夢魔がこちらを見ながら女性のど真ん中に座っています。
よく見ると女性は二名いるようです。

「ハインリヒ・フュースリの追随者作  19世紀」
こちらも赤みがかって嘴を持つ夢魔がカメラ目線をしております。
どこか憎めない滑稽な表情をしており、やはり不気味さにおいては
フュースリの方が軍配が上がりそうです・・・。

「トマス・ローランドソン作  1784年」
ぱっと見は夢魔の模写ですが、横たわっているのはおじさん
なのです。イギリスの政治家であるチャールズ・ジェームズ・フォックスを
風刺した作品で、実際に彼が窮地に立っていたのか、悪夢でもみる
がいいという痛烈な批判なのか、どちらなのでしょう・・・。

「作者不詳  1870年」
悪魔めいた男が短剣を持ち、黒魔術を行っているようです。
左隅にはインキュバスがおり、夢の中で女性を襲っています・・・。

「ヨハン・ハインリヒ・フュースリ作  1793年」
こちらは「女性たちの元を去るインキュバス」という題名の作品。
朝方になり、馬の形をした悪魔は窓から逃走を図っています。
被害者の女性たちは苦しそうな表情を・・・。

「ヨハン・ハインリヒ・フュースリ作  1810年」
上記の作品の構想下絵だと思っていたら、こちらの作品の方が17年も
後なんですね。フュースリがこの主題にこだわりを持っていたことが
分かります。より官能的な風になっていますね。

「オノレ・ドーミエ作  1856年」
悪夢という題のこの作品は、フュースリのパロディのみたいに
見えますね。ナイトメアの象徴は黒い馬であり、過去の伝承が
連綿と受け継がれ、表現として使われているのでしょう。

「ジャン=イポリット・フランドラン作  1809-64年」
ピエタを描いた作品ですが、黒い影の聖母マリアがキリストの腹部に
乗っているという悪夢のような構図になっています。フュースリの夢魔を
意識しているのでしょうか?何故に・・・?
→ ピエタについての絵画を見たい方はこちら

「Giovanni David 作  18世紀前半」
悪夢という題が付けられたこの作品は、死神と悪魔の指導の元、
魔女らしき女性が恐ろしいものを作っているようです。
まだ魔女狩りが行われていた時代、悪魔や魔女という存在は
悪夢そのものであったのでしょう。

「ルイ・ジャンモ作   1854年」
「魂の詩-悪夢」という題名の作品。老婆がぐったりとした少女を
持ちながら、少年(?)を追いかけています。背後の窓から男たちが
覗き、深層心理的な悪夢を描いていますね。

「作者不詳  19世紀」
男性に襲い掛かろうとしているサキュバス。インキュバスと吸血鬼は
出自や種族も違いますが、コウモリに化けたり夜な夜な現れたり、
共通している部分が多いです。吸血鬼(グール)は元々墓場で出現
する怪物なので、夢魔の性質を吸血鬼が取り込んだのかもしれません。

「コンスタンチン・マコフスキー作   1889年」
「デーモン」という19世紀に書かれた叙事詩の挿絵。オペラにもなっています。
悪魔はタマラを深く愛し、婚約者を殺します。彼女は恐れ拒絶しますが、
悪魔への憐れみから口づけを許してしまいます。疑いの毒により
タマラは命尽きてしまい、天使は彼女を天国へと連れてゆきます。
「悪魔よ。お前は永遠に孤独な運命なのだ・・・」という言葉を残して。

 現代の観点で言えば、夢魔は人間が作り出したまやかしに過ぎません。しかし、現代においてインキュバスが現れ、女性を襲うという事例があるみたいなのです。(もしかしたら嘘かもしれませんが・・・)もしそのような事が起きるのなら、人間の「思い込み」によるものだと私は思います。想像妊娠はつわりが起こってお腹が大きくなるそうですし、幻肢痛は切断された腕や脚であっても痛みを感じます。毎夜インキュバスに襲われていると思い込めば、身体の変調が実際に起こるのかもしれません。
 話は変わりますが、チベット仏教には想像した人物や物を現実化する奥義「トゥルパ」なるものがあるそうです。強く強く対象物を思い描けば、想像のものでも「現実」に立ち現れる。対象物は現実のものとなり、創造主の意志を越えてひとりでに動き出す。それが本当の事なのかは分かりませんが、それは思い込みによる身体の変化の延長線上のように思えます。つくづく人間は神秘に包まれているなぁ・・・と感じますね。

 

【 コメント 】

  1. 管理人:扉園 より:

     >> 怖い顔……様へ
    こんばんは。
    夢魔は欲望の具現化と言った感じですからね。
    アフロディテは愛の他に欲望も象徴しておりますが、それを美しく見せる肯定的な存在のように思えます。
    夢魔はそれと正反対で、欲望のどろどろとした部分、忌むべき否定的な部分を表しているように感じます。
    女性の腹の上に座り、にや付きながらこちらを見る怪物…。
    まさに怪奇現象ですよね。こんなんに遭遇したら泡吹く自信がありますよ(笑)

  2. 怖い顔…… より:

    こういう怖い顔をしているのは、悪を追い払うため……
    ではないのですね、彼らこそ、悪魔なのですね^^;
    ギリシャ神話だと、
    アフロディテがパリスとヘレネをくっつけた→美と愛によって二人が結ばれた
    というように現実的な言い換えができるけれど、
    夢魔の方はどちらかというと怪奇現象のような、不可解な感じがありますね。

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