デウカリオンはギリシャ神話に登場し、妻と共に大洪水を生き延びた人物です。
人間に火を与えたプロメテウスの息子とされ、プティアの王とされています。プティアの地はアキレスの故郷でもあるようです。ゼウスはアルカディアの王リュカオンと息子達に人肉をもてなされた為、人間の存在を疎ましく思うようになり、滅ぼしてしまおうと地上に大洪水を起こしました。激しい豪雨により海の水かさが増し、あっと言う間に水は全ての都市を流し、水に浸からなかったのは山頂のわずかな部分だけでした。
デウカリオンは父プロメテウスより警告を受け、方舟を作って食糧を入れて妻ピュラーと乗り込んでいた為、難を逃れました。9日間水上を漂ってようやく水が引いた時、二人はパルナッソス山へと到着しました。デウカリオンはピュラーと共に河のほとりの神殿でゼウスに生贄を捧げ、「人間を蘇らせてください」と祈ります。ゼウスはその願いを聞き届け、「お前達の顔を布で包み、母の骨を後ろに投げよ」というお告げを与えました。
ピュラーはそんな親不孝はできないと嘆き悲しみましたが、デウカリオンは母は「大地」のことで骨は「河岸の石」の事だと解釈し、二人は石を拾って背後に投げました。すると、デウカリオンが投げた石から男性が誕生し、ピュラーが投げた石からは女性が誕生しました。こうして地上にはまた人間があふれるようになったのです。
デウカリオンの洪水についての絵画13点をご覧ください。
「Giulio Carpioni 作 1655年」
平和を享受していた人々の頭上に、暗雲が立ち込めてきます。
豪雨は恐ろしい程に降り注ぎ、あっと言う間に地上は水浸しになって
いきます。ゼウスは人間に嫌気が差し、滅亡させようと決めたのです。
「Johann Heinrich Schönfeld 作 1634-35年」
水が押し寄せ、逃げ惑う人々。いかだに乗って高い所へ行こうと
していますが、水は無常にも水かさを増していきます。
「ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー作 1805年」
地上は水に呑み込まれていき、高い山の山頂のみが残りました。
人類の殆どは滅んでしまったのです。風景画の巨匠ターナーが
描くだけに、迫真に迫る嵐です。
「Alessandro Turchi 作 1578-1649年」
洪水の前、デウカリオンは父プロメテウスから警告を受けます。
それを受け、彼は妻のピュラーと共に船に乗って難を逃れたのでした。
この絵画では人々は流砂のような水に呑み込まれようとしていますね。
「Paul Merwart 作 1855-1902年」
全身全霊を掛けて押し寄せる水からピュラーを守るデウカリオン。
船そっちのけで、肉体を以て洪水を跳ね除けています。
猛々しい格好いい絵画ですが、危ないアングルです。
「オウィディウスの「変身物語」の挿絵より 1385年」
洪水の中、ちっちゃな船に乗るデウカリオンとピュラー。神から啓示を
受けたノアは全動物のつがいが入る程の巨大なノアの方舟を製作
しましたが、彼等は二人乗りです。
「Fontana Workshop の陶磁器のイラストより」
七日目にやっと水が引き、二人はパルナッソス山へと到着します。
神殿でゼウスに生贄を捧げ、「人間をまた蘇らせてください」と
祈ると、ゼウスはそれを聞き遂げ、「顔を包み、母の骨を後ろに
投げよ」というお告げを与えたのです。
「ブルッヘにあるネーデルラント絵画」
そんな残酷な事はできない。と悲しむピュラーでしたが、デウカリオンは
「母は大地。骨は石の事だ。これを後ろに投げてみよう」と提案します。
するとどうでしょう。石を投げると、人間がぽこぽこと産まれて来たのです。
「Niccolò Giolfino 作 1550年」
デウカリオンが投げた石は人間の男性。ピュラーが投げた石は
人間の女性に変わっていきました。この作品は結構年配の
二人が投げた石が、赤ちゃんになって産まれてきていますね。
「ピーテル・パウル・ルーベンス作 1636年」
ルーベンスが描いた二人は振り返りもせず、ひたすらに石を投げて
いるようですね。石からは大人の男女が生じてきています。
「フアン・バウティスタ・マルティネス・デル・マソ作 1612-67年」
上記のルーベンスの下絵を元に、異なる人が描いた作品。
二つを比べてみても、殆ど違いがないように見えます。
それだけルーベンスを尊敬していたのですね。
「Giovanni Maria Bottala 作 1635年」
かなり巨大な石を背後に投げている二人。人間が産まれるのだから、
これくらいのサイズではないと駄目だろうと作者は考えたのですかね。
このまま投げると、折角産まれた人間を石で潰しそうなのですが・・・。
大丈夫なのかしら?
「ジョバンニ・ベネデット・カスティリオーネ作 1655年」
デウカリオンとピュラーが蘇生させた人間達から、既に愛や享楽、
いさかいや喧嘩が起こっているようです。どれだけ蘇生しようと、
人間の本質は変わらないという皮肉なのでしょうか・・・。
ノアの方舟やデウカリオンだけではなく、大洪水に関わる神話や伝説は世界中に存在します。ざっと述べただけでも、北欧神話、インド神話、ギルガメッシュ叙事詩、インカやマヤ神話、アフリカ神話、中国、日本とそこら中に伝えられているのです。また、伝説の大陸アトランティスも海中に沈められて滅亡したとされています。
洪水の神話が共通して語られている理由として、三つの説が挙げられています。
・ 洪水が起こる地域の水に対しての恐れが、似たような神話を創り出した
・ 実際に全世界を覆うような大洪水が過去に起き、共通した神話となった
・ 海水が大上昇して大陸が沈み、共通した神話となった
どれが正しいのかは分かりませんが、個人的には酷い洪水が起きた地域が各々の神話を作り出し、たまたま似通ってしまったという説が近いように感じます。あと、文明の交流があった際に神話が伝えられ、混じり合った部分もあるように思います。真相は闇の中ですが、やはり平和が一番ですね。
→ リュカオンについての絵画を見たい方はこちら
→ ノアの方舟についての絵画を見たい方はこちら
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