スザンナと長老の物語は、旧約聖書のダニエル書に入っている短編の一つです。
ある日、ヘブライ人の美しい女性スザンナは人払いをして庭で水浴していました。しかし、二人の好色な長老がそれをのぞき見していたのです。そればかりではなく、スザンナが帰宅しようとした時に眼前に立ちはだかり、「我等と関係を持たなければ、恋人と密会していたと夫に告発するぞ!」と脅迫しました。彼女はそれに屈することなく拒否したので、虚偽の罪で逮捕されてしまいます。まさに死刑にされようとしていた時、ダニエルという青年が異議を唱えます。彼は長老らにスザンナと男が密会した詳細を訪ねると、二人の話は一致しませんでした。逢引きした木が、一人は乳香樹、一人はカシの木と主張したのです。これにより嘘がばれ、長老らが処刑されることになりました。
好色と偽りが罰せられ、美徳が勝利するというこの物語は1500年以降多くの画家に描かれてきました。スザンナと長老たちの絵画13点をご覧ください。
「Jan Massys 作 1564年」
水浴中のスザンナさんに忍び寄る邪悪な影・・・。
好色な爺さん二人がじーっと覗き見しています。
「グイド・レーニ作 1575-1642年」
水浴を終えて帰ろうとした時、二人がにゅっと木陰から現れます。
はっとして逃げようとした時には時既に遅し。布を掴まれてしまいます。
「ピーテル・パウル・ルーベンス作 1636-40年」
こちらの長老たち「やいやい~!」とずかずかと入り込んできています。
スザンナは物凄い迷惑そうな表情をしており、足元のワンコは威嚇する
ように駆けつけています。足をかじっちゃえ!
「ピーテル・パウル・ルーベンス作 1577-1640年」
ルーベンス二枚目。彼は他にも同テーマを描いています。16世紀の絵画
は全て発注製だったので、よく注文が入ったのでしょうかね。
「長老」とされていることから犯人二名は結構地位のある人物なので
しょう。それを傘に着て下劣なことをしようとしています。
「ヘラルト・ファン・ホントホルスト作 17世紀」
腰布を引っぱる爺い二人に悲鳴を上げるスザンナさん。
「ぐうぇっへっへっへ」と下卑た笑いが聞こえてきそうです。
「アルテミジア・ジェンティレスキ 作 1610年」
「騒ぐでない。わしらの言う事を聞け。さもなくば、男と逢引きしていた
と告発してやるぞ」と耳うちをしている長老。なんか黒髪の方の長老が
赤い方にチュッとやっているように見えます(笑)
「ヘンドリック・ホルツィウス作 1558–1617年」
手を合わせて神に祈りを捧げているような姿のスザンナと、
神など握りつぶしてやろうぞ、とばかりに手を広げている長老。
手前の竜?蛇?の鼻から噴水しているのが可愛いです。
「テオドール・シャセリオー作 1819-1856年」
権威ある長老二名が「逢引きした」と言えば、人々はそれを信じて
しまうでしょう。スザンナにとっては節操か死かどちらを選ぶかを
意味していました。彼女は迷わずに「死」を選択します。
「ヤーコブ・ヨルダーンス作 1593-1678年」
ダ・ヴィンチのような絵みを浮かべた少し不気味なスザンナさん。
なんかお顔とふくよかな身体のバランスが気になります。
カリカチュアめいた長老の面相もダ・ヴィンチから影響を受けたような
気がします。
「フランス・フロリスの工房の追随者作 1550年」
めっちゃ笑顔でカメラ目線をしているスザンナさん。
長老の悪意ある取引に、「あら、貴方達みたいな爺さんとは絶対に
ご遠慮願いたいわ」とさらりと言ってのけたのでしょうか。
「ロレンツォ・ロット作 1480-1557年」
「おーい!この女、男と逢引きをしていたぞ!不倫だ!」と長老らは
叫び、スザンナは逮捕されることになります。ヴェネツィアルネサンスの
画家ロットは他にはない構成でこの物語を描き出しています。
「Valentin de Boulogne 作 1591-1632年」
スザンナが死刑にされそうになった時、ダニエル青年は長老たちに
逢引きの詳細を聞き出し、各々の食い違いを指摘します。
「乳香樹とカシの木を間違えるはずがなかろう。さてはお前ら、
嘘を付いたな!ひっとらえろ!」
「Francois-Guillaume Meneageot の追随者作 19世紀」
こうして長老二人は引っ立てられ、死刑判決を受けました。
節操を守る為に命を賭したスザンナの勇気は美徳の鑑として
賞賛されることになりました。
好色さや嘘つきは罪、正しきは美徳という箴言であるのに、美女のスザンナさんが水浴をしているというシーンの為か、身体の美しさを前面に押し出したような作品が見受けられました。その中には「おいおい・・・」と思えるような結構過激な作品が一部ありました。上に紹介したスザンナさんは一部笑顔になっていましたし・・・。(Susanna paintingと検索してみると、色々絵画が出てきます)
王政ローマを変えた美女ルクレチアも似たような現象が起きていたように感じます。節操の話をしているのにもかかわらず、裸婦に焦点を当てて作品を描くのはなんだか皮肉に感じるのは私だけでしょうか・・・。
→ ルクレチアについての絵画を見たい方はこちら
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