旧約聖書の「サムエル記」に登場するアブサロムは、イスラエル王ダヴィデの三男です。彼はかなりの美貌を有しており、中でも滑らかな長髪を自慢にしていました。
ある日、異母兄であるアムノンが妹のタマルに乱暴を働き、アブサロムは激怒しました。その事をダヴィデに伝えましたが、父はアムノンを裁いてくれません。業を煮やしたアブサロムは、二年後に兄弟全員を集める席をもうけ、手下を派遣してアムノンを殺害してしまいました。彼はシリアの祖父の所へ亡命し、その三年後にダヴィデの赦しを得て故郷へと戻っていきます。
しかし、アブサロムはその時から父への謀反を計画し始めます。長男であるアムノンが消えた為、次に自分が王座に就くにふさわしいと触れ回り、着々と仲間を増やしていきました。ヘブロンで挙兵したアブサロムはエルサレムを奪い、ダヴィデは都へと落ち延びていきます。危機一髪に陥ったダヴィデでしたが、部下フシャイの機転で兵力を盛り返し、エフライムの森でアブサロム軍と激突します。アブサロム側は大敗し、彼は単身ラバに乗って逃れようとしました。しかし、自慢の長髪が木に引っかかり、宙づりになってしまったのです!
それを知らされた腹心ヨアブはダヴィデに「絶対に手を出すな」と言われていたにも関わらず、手下と共に心臓に槍(矢)を突き刺し、アブサロムを殺してしまいます。その遺体はくぼ地に投げ込まれ、石塚で覆われました。息子の死を知ったダヴィデは深く嘆き悲しんだそうです。
ロン毛の悲劇アブサロムについての絵画14点をご覧ください。
「中世の彩飾写本の挿絵より 1400-10年頃」
美しい髪とイケメンがトレードマークのアブサロム。一年で髪が
約2.3キロ伸びる超人であったとか。一体どんなんだ・・・。
彼は妹であるタマルを大切に思っていました。
「ヤン・ステーン作 1625-1679年」
しかし、異母兄であるアムノンは美しいタマルに夢中になり、
病気を装って彼女に近付き、乱暴してしまいます。
「俺、病気になっちゃった。癒して~」と言っている(?)アムノン。
タマルさんはかなり嫌そうな表情をしていますね。
「グエルチーノ作 1591 –1666年」
タマルの告白を聞いたアブサロムは怒りに燃え、兄に復讐を誓います。
父親のダヴィデは非協力的だった為、自分でアムノンを殺す計画を
考えます。
「中世の彩飾写本の挿絵より 1400-10年頃」
その二年後、アブサロムは兄弟全員を宴に招待します。彼等が
葡萄酒で酔いが回って来た頃、アブサロムは部下に命じて
アムノンを殺害します。
「マティアス・ストーム作 1600-50年」
アブサロムがベルばらのオスカルに見えてくるのは私だけでしょうか。
「殺せ」と一言。二人の部下がアムノンに襲い掛かっています。
「マッティア・プレティ作 1613-99年」
こちらのアブサロムはフェルメール作の「天文学者」にちょこっとだけ
見えました。(違) 部下が襲い掛かる中、アムノンは心なしか
笑顔でカメラ目線をしているように見えるのですが・・・。気のせい?
「Gaspare Traversi 作 1752年」
なんだか悪夢に出てきそうな、アムノンの怖い面相・・・。
アブサロムが禿げたおじさんなんだけど、美しい長髪は一体
どうなったのかしら。ミステリーだらけの作品です。
「フランスパリの時祷書の挿絵より 1500年頃」
その後、アブサロムは父ダヴィデに謀反し、王座を奪おうと考えます。
仲間を集ってエルサレムを奪ったものの、ダヴィデの部下の奸計に
より不利な態勢になり、エフライムの森で激突します。
ダヴィデの顔がにょこっと出ています。
「Corrado Giaquinto 作 1703-66年」
激戦の末、大敗となったアブサロムはラバに乗って逃げようとします。
しかし、そこで悲劇が起こります。自慢の長髪が木の枝にからまり、
宙づりになってしまったのです。
「Francesco Pesellino 作 1422-57年」
もがいて逃れようとするアブサロム。それを知ったダヴィデの部下は
腹心ヨアブに報告し、「息子に手を出すな」と厳命をされていたにも
関わらず、ヨアブはアブサロムを殺してしまいます。
「ジェームズ・ティソ作 1836-1902年」
最も自慢にしている髪が自分の破滅を引き起こすなんて、なんだか
皮肉ですよね。戦場なんだから、見てくれなんて気にせず、髪を
縛るか、ばっさりと切るかすれば良かったのに・・・。
「フランスパリの時祷書の挿絵より 1500年頃」
アブサロムは槍(矢とも)を三本打ち込まれて絶命し、
くぼ地に遺体を投げ込まれ、石塚で覆われてしまいました。
虚空を見上げるその表情がシュールです・・・。
「フランスの聖書の挿絵の一部より 1250年頃」
兵士も馬もめっちゃいやらしい顔をしていますね(笑)
「ぐえへっへへ~。討ち取ったぜ~」と言っているのでしょうか。
「ジェームズ・ティソ作 1836-1902年」
物凄く切ない雰囲気を醸し出しているアブサロムさん。
息子の死にダヴィデは深く嘆き悲しんだとされています。
王位の欲望は親子関係をも崩壊させてしまったのでした・・・。
旧約聖書にもう一人、髪の毛が元で破滅した人がいます。英雄サムソンは髪が力の源であり、立派な髪を生やして、かなりの怪力を持っていました。しかし、その秘密を愛人の女性デリラにばらしてしまい、敵側に知れわたってしまいます。デリラの側で眠っている間に敵はサムソンの頭を丸刈りにしてしまい、捕まえてしまいました。すっかり力を失くしたサムソンは目をえぐられて見世物にされましたが、最期の力を振り絞って神殿を倒壊させ、敵もろとも命を落としたとされています。
アブサロムもサムソンもそうですが、些細な不注意で身の破滅を起こしてしまっているような気がします。旧約聖書の時代では、髪の毛にはよくよく気を付けなければいけませんね・・・。
→ ダヴィデとゴリアテについての絵画を見たい方はこちら
→ 英雄サムソンについての絵画を見たい方はこちら
【 コメント 】
>> 季節風様へ
こんばんは^^
ティソの作品は髪と矢がなかったら、日向ぼっこ立ち昼寝をしているようですよね。←ぇ
「髪の毛が絡まって絶命」だと現代の私たちだと「ドジだなぁ」みたいな印象を抱きがちですが、ティソは彼を立派な英雄として描いていますね。
ダヴィデは息子の真意を聞いてから、正規に法で裁きたかったのかもしれません。
あのままでは彼はただの逆賊みたいな扱いですから…。
外国での事故は知っていましたが、日本でもあったのですね。
髪の毛恐ろしやです^^;
ジェームズ・ティソ作 1836-1902年はまるで和む為の絵かと思うくらい美しいです。よく見ると貴人が処刑された絵だから戦慄です。ダヴィデの部下のヨアブの判断は仕方ないと思います。許していたらまたアブサロムは謀反を興すか担ぎ上げられるかだったでしょう。
日本でも髪の毛またはマフラーが長いせいでおきた死者の出た事故はあります。
>> ありがとうございます^^様へ
こんばんは^^
一瞬だけ、アブサロム女傑じゃないですよ!って思いかけたけど、名前がそのままなのかなと直ぐに思い直しました(笑)
そうなんです。オレステイアに関する絵画を集めている最中だったので、アイスキュロスが出てきてほんのりなシンクロに驚きましたw
ソクラテスもそんな頭しているのに、アイスキュロスだけそんな伝説が生じて可哀想ですよね^^;
もし本当の事だったら理不尽すぎる世の中ですがw
あ、名前この前のままでした。他意はありません(笑)
お、アイスキュロスというと、以前お話ししたブグローのオレステースもそうですね^_^
>> 心配性の人様へ
こんばんは^^
車輪にスカーフが巻き込まれ…考えただけで恐ろしい事故ですね(>_<;) 巻き込まれると言えば、芝刈機も使い方を間違えると悲惨な事故を招きますよね。 電動のこぎりとかチェーンソーとか見ているだけでハラハラします。 「まぁ大丈夫だろう」が事故を招くので、心配しすぎるぐらいが丁度良いと思います。 かくいう私も結構な心配性ですw
>> 美術を愛する人様へ
こんばんは^^
あの馬はダークホース的な存在として出しました(笑)
アイスキュロスってハゲ頭のせいで絶命したんですか!?始めて知りました。
ハゲワシに石と間違えられて亀を落とされてしまったんですね。
自ら書いた悲劇より悲劇的のような…orz
ちょっと調べてみたところ、油彩はありませんでしたが版画はありましたので、また記事にしますね。
ゆっくりとお待ち下さいませ^^
扉園さん、こんにちは。
そう、長いものには注意が必要です。
イサドラ・ダンカンが長いスカーフを車の車輪に巻き込まれて死んでしまったことを思い出します。
こんばんは。
13枚目の馬の顔に全てもってかれました。
悲劇的な場面でのあの顔は卑怯です。
アブサロムはロン毛ゆえの悲劇でしたが
逆にハゲ頭のせいで頭に亀を落とされ落命したというアイスキュロスの絵とかも世の中にはあるのでしょうかね?