シェイクスピアの悲劇ハムレットの絵画12点。狂気を装う王子が父の復讐を果たす | メメント・モリ -西洋美術の謎と闇-

シェイクスピアの悲劇ハムレットの絵画12点。狂気を装う王子が父の復讐を果たす

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 「ハムレット」は1600年頃に書かれた、シェイクスピア作の悲劇です。
 デンマーク王が急死をすると、弟クローディアスが王位に就き、王妃と結婚します。父親の死と母の再婚に深く悲しむ王子ハムレットは、従者から夜に王の亡霊が現れると聞き、その場へ向かいます。父の亡霊に会ったハムレットは「私は弟に毒殺をされた」と真実を告げられました。彼は父親の復讐の為に狂気を装い、事件の証拠を掴もうと探りを入れます。王子の変貌に人々は心配し、宰相ポローニアスは娘オフィーリアに原因を突き止めるよう言いました。彼女はハムレットの恋人でした。そんなオフィーリアにも王子は冷たく当たり、彼女は深く傷付きます。

 やがて、毒殺の証拠を掴んだハムレットでしたが、母と会話をしているところを聞いていたポローニアスを刺し殺してしまいます。そして、オフィーリアは重なる悲劇に心を乱し、事故で溺死をしてしまい、兄であるレアティーズは怒り狂い、父と妹の仇を取ろうと考えます。王クローディアスもレアティーズと結託してハムレットを殺そうと画策します。毒剣と毒入りの酒を用意し、剣術試合に招いてハムレットを殺そうとしたのです。しかし、毒の酒を王妃が誤って飲んで死亡、ハムレットとレアティーズは毒剣で互いを傷付けてしまいます。ハムレットはレアティーズと和解してクローディアス王を殺し、この事を後世に伝えて欲しいと親友に頼み、命を落とします。
 四代悲劇の中の一つに数えられる、ハムレットの絵画12点をご覧ください。

 

「フランシス・ヘイマン作  1708-76年」
悲劇ハムレットの演技をしている作品。王の広間でハムレットが狂気
じみたことをしゃべっている場面でしょうか。実際に劇場に足を運んで
描いたのでしょうね。

「ダニエル・マクリース作  1842年」
こちらも舞台上でハムレットの演技をしている作品。ハムレットは
デンマークの事績に掲載されている伝説の人物アムレートを下敷きに
しているとされています。北欧のサガは読んでいると血みどろです・・・。

「ペドロ・アメリコ作  1843-1905年」
エルシノアの城壁にて父親の亡霊と会うハムレット。
霊は弟のクローディアスによって、寝ている間に耳の後ろに毒を塗られて
暗殺をされたことを語ります。
その後、ハムレットは復讐を決意し、狂気を装うのでした。

「ベンジャミン・ウエスト作  1792年」
何故ハムレットが狂気に陥ってしまったのかを知る為、恋人オフィーリア
は尋ねますが、彼はオフィーリアに酷い言葉をぶつけ、「修道院へ行け」
と有名な言葉を吐きます。

「ジョン・リチャード・コーク・スマイス作  19世紀」
狂気は王妃である母親にも向けられ、親子は言い争いになります。
壁飾りの裏でポローニアスが「誰か来てくれ!」と言おうとした時、
ハムレットは「ねずみが、死ぬがいい!」と宰相を刺し殺してしまいます。

「ウジェーヌ・ドラクロワ作  1854-56年」
ポローニアスの亡骸を前にするハムレット。彼は宰相をクローディアス
だと思って刺したのでした。「運が悪かったな、あばよ」と彼は軽ーく
言葉を残します。それは酷すぎるような・・・。背後では王妃が悲しんでいます。

「ウィリアム・ソルター・ヘンリック作  1807-91年」
またもや親子は言い争いになり、ハムレットは暗殺した相手と
再婚した母親の不節制をなじります。そこで現れたのが父の亡霊。
ハムレットは「あの姿が見えるか!」と言いますが、母には全く
見えていません。

「Nicolai Abraham 作   1743-1809年」
「それは想像の産物よ」という母に対し、ハムレットは自らの正しさを
力説しようとします。母の容姿が半抽象的で、独特の描き方をしていますね。
どうやらフュースリに影響を受けているようです。

「ヨハン・ハインリヒ・フュースリ作  1785年」
こちらがフュースリの作品。彫像のような父の亡霊を目の当たりにした
ハムレットは頭を総毛立たせて狂気に陥っているように見えます。
→ フュースリの絵画をもっと見たい方はこちら

「W・G・ウィルズ作  1828-91年」
ポローニアスが死に、オフィーリアは気がふれてしまいます。その姿に
兄レアティーズは悲しみ、父の復讐を深く誓い、クローディアスと共に
ハムレットを倒す計画を考えます。

「ジョン・エヴァレット・ミレー作   1852年」
しかし、その直後、オフィーリアが誤って川に落ちてしまい、溺死して
しまったのです。葬儀の際にハムレットが乱入し、レアティーズと大喧嘩に
なります。

「作者不詳  20世紀頃の挿絵」
剣術試合にて王子を殺めようとしたものの、毒盃を飲んだ王妃は死亡、
レアティーズとハムレットは毒の剣で互いを傷付け、クローディアスは
ハムレットに殺されます。顛末を後世に伝えるよう従者ホレイシオに頼み、
彼は息を引き取るのでした。

 シェイクスピアの四大悲劇は「ハムレット」「オセロー」「リア王」「マクベス」です。
 そのいずれも愛と欲望、権力と嫉妬、疑惑と狂気に彩られ、王家の者達はバタバタと命を落としていきます。ハムレットは人間の闇や愚かさ、弱さ、浅ましさが皮肉や滑稽さで紡がれ、物語が構成されていますね。悲劇事態は嫌いではない(むしろ興味ある)のですが、どうしようもなく救いようがない悲劇は後味が悪いし、なんだか虚しくなってきます。でも、それだけシェイクスピアは人間の本質を見抜き、鋭い視点を持って物語を作ったのだと思います。上手い起承転結で感動的なラストだと、作為的なものを感じさせます。復讐や欲望の感情がいくところまでいって、悲劇を起こすのは非常に現実的な事だと思います。だからシェイクスピアの劇は現代まで愛され、上映され続けているのかもしれません。
 ですが、せめて完全な被害者であるオフィーリアだけでも救ってあげて欲しいように思います・・・。

→ オフィーリアについての絵画を見たい方はこちら

 

【 コメント 】

  1. 管理人:扉園 より:

    >> 季節風様へ
    こんばんは^^
    ハムレットは狂気を装う前は、美青年で人気のある王子であったようです。
    次期国王を指名する間もなく国王が急死してしまっては、世継ぎと言えども、血筋の近い叔父が国王になるのは止められなかったのだと思います…。
    母の判断は現代では理解しかねる部分もあると思いますが、王宮は陰謀で包まれた世界ですから「自分とハムレットの保身の為」であったのかもしれません。
    もし母親が叔父に嫁がず、別の者が王妃になれば彼女はあらゆる権限が奪われ、立場的に弱くなってしまいます。
    王妃によっては(叔父も企んでいそうですし)、母とハムレットは左遷されたり、最悪命に危険が及ぶ可能性があります。
    王宮にいる事が許されたのは、ハムレットが狂気に陥ったふりをした事もありますが、母が叔父に取りなした部分もあったのかなと考えてしまいます。
    そうであっても息子のハムレットにとっては「裏切り」以外の何物でもありませんね…。

  2. 季節風 より:

    ペドロ・アメリコ作のハムレットは若々しくて王子らしさが出ていると思います。
    国王が亡くなれば普通は息子が王位に就くと思います。それが叔父が王位に就き母までがさっさと叔父に嫁ぐということで観客はハムレットに同情します。母后もどうかしているなと思うんです。庶民のように貧しくてハムレットを自分で育てられないというわけでもないのに。

  3. 管理人:扉園 より:

     >> あれ、もしかして?様へ
    なるほど。ハムレットを匂わす感じなんですね。
    知識を持っている方なら「ああ、この事か」と分かるような文面に憧れます。絵画や文章も象徴などが散りばめられている方が、私は素敵に感じるなぁ^^

  4. あれ、もしかして? より:

    食いついてくださったので、補足。
    「誰かが言っていたなあ」と、ペールがハムレットのセリフを言う場面があるのです。
    ……だったように記憶してます。
    「蟹のように後退できれば若返れる」
    というやつです。

  5. 管理人:扉園 より:

     >> あれ、もしかして?様へ
    こんばんは。
    いえ、これは自発的です(笑)
    次にオフィーリア、もう少し後にマクベスが控えております。
    リア王とオセローはまだ記事にしておりませんが、書く予定です^^
    流石です。完全にシェイクスピアを網羅していますね。
    絵画がモチーフになって映像が作られたのでしょうか。
    静画と動画のシンクロがあるとなんだか嬉しくなります。
    ペール・ギュントにハムレットが出ているんですね!
    北欧の話でトロルとか出てきますし、グリーグの曲が可愛らしくせわしないので、イメージが結びつかないような…。
    戯曲繋がりだからなのでしょうか?
    と、ここまで書いてハムレットも北欧の王子だということに気付きました。
    繋がった!

  6. あれ、もしかして? より:

    こんばんは。
    リクエストしましたっけ?
    ちょうど四大悲劇作品を観たいなあと思ってたところでした。
    私の中では、『リア王』が一番衝撃的です。特に、リーガンとコンウォールのシーンが……。
    ちくま文庫で読んでいます。
    「ネズミだあ」のシーン、こないだ観たイギリスの映像作品と同じ構図でびっくりしました。右に王妃の椅子があって、左にカーテン、と。
    『ハムレット』は、私が知っている中でも、イプセンの『ペール・ギュント』やチェーホフの『かもめ』、ランボーの『オフィーリア』に出てきたりしていて、色褪せないものなのだなあと感じております。

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