ハムレットの恋人オフィーリアの絵画13点。理性を失って命を落とした悲劇の女性 | メメント・モリ -西洋美術の謎と闇-

ハムレットの恋人オフィーリアの絵画13点。理性を失って命を落とした悲劇の女性

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Ophelia di Arthur Hughes, 1863 -

 オフィーリアはシェイクスピアの四大悲劇の「ハムレット」に登場する王子ハムレットの恋人です。彼が狂気を装って父親を殺したせいで理性を失い、川へ流されて亡くなってしまいました。
 現王を暗殺して父親の復讐を果たす為に狂ったふりをしているハムレットを、オフィーリアはとても心配します。それなのに彼は暴言を吐き、「修道院へ行け」と言って彼女を酷く傷つけます。悲しむオフィーリアに追い打ちをかけるように、父親である宰相ボローニアスがハムレットに殺されたことを知ります。狂ってしまった恋人と父親の死。悲哀は最長に達し、正気を失ってしまいました。

 オフィーリアは歌を歌ったり、取り留めもないことを口走ったり、皆に花を配ったりし、フランスから帰国した兄レアティーズの姿さえ分からなくなってしまいました。そのまま彼女はふらふらと柳の木がある小川のほとりへ行き、枝に花輪を吊るそうと手を伸ばして登ろうとしました。しかし、枝は無惨にも根元から折れ、彼女はキンポウゲ、イラクサ、デイジー、蘭で作られた花輪もろとも川へと落ちてしまったのです。気がふれていたオフィーリアは水から上がろうとせず、歌やうわごとを零しながら人魚のように川を漂っていました。そのまま彼女は沈んでいき、こと切れてしまいました。彼女の死は登場人物の誰もが悲しみ、ハムレットは己の行動を深く後悔し、彼女への強い愛を今更ながらに気付いたのです。
 儚き悲劇の女性、オフィーリアの絵画13点をご覧ください。





「アーサー・ヒューズ作  1863年」
一見健康そうに見えるオフィーリアの姿。しかし、手には花輪を持ち、
枝へ掛けようとしています。悲しみの末に狂気に陥ったその心は、
どこまでも純粋で美しいものでした。
Ophelia di Arthur Hughes, 1863

トーマス・フランシス・ディックシー作   1873年」
白い衣服の肩は破れ、彼女は花々を落としながら、やつれた表情で
鑑賞者をじっと見つめています。「崩れゆく私を助けて・・・」とか細い声
が聞こえてきそうです。
Thomas Francis Dicksee  1873

アルフレッド・ステヴァンス作   1887年」
金髪をなびかせ、花輪を被るオフィーリア。その瞳は虚ろげで、
何処を見ているのか判然としません。なんとなくこのオフィーリアを
見て、ブラム・ストーカー作の小説「ドラキュラ」に登場するルーシーを
思い出しました・・・。穏やかだけど恐ろしい表情です・・・。
Alfred Emile Leopold Stevens  1887

「ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス作  1889年」
地面に横たわり、絶望しているように見える彼女。
オフィーリアは圧倒的に象徴派の画家に描かれており、特に
ウォーターハウスは何枚もの作品を手掛けています。
John William Waterhouse, 1889

「ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス作  1894年」
二枚目の作品は睡蓮が咲き乱れる中、彼女は花を髪に付けて物憂げな
様相をしております。彼が描くオフィーリアは眼差しに悲しみや絶望など
の感情が宿っており、まだ理性があるように感じます。正気を失ったと
されていても、彼女の心の中は葛藤でいっぱいだったのでしょうか。
John William Waterhouse, Ophelia, 1894

「ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス作  1910年」
三作目の作品はいっぱいのお花をドレスで持ち、真顔で小川へ
向かっているようです。背後では二人の女性が「あの人どこへ向かう
つもりかしら?」と不思議げに見つめています。
John William Waterhouse  1910

「ジョン・エヴァレット・ミレー作   1852年」
一番有名なオフィーリアの作品。確か、物語に忠実にキンポウゲ、
イラクサ、デイジー、蘭の花々が描かれていたと思います。細密な描写を
徹底したミレーは、穴を掘ってそこに入って花々を観察したという逸話が
あります。
ジョン・エヴァレット・ミレー  1852

「ウジェーヌ・ドラクロワ作  1844年」
ドラクロワもオフィーリアの死の作品を描いています。
こちらは枝が折れた瞬間でしょうか。流されようとする姿が
暗闇から浮かび上がっています。
Eugene Delacroix  1844

アレクサンドル・カバネル作  1883年」
こちらも似たポーズをとって、これから流されゆくオフィーリアを
描いています。柳の枝の隙間から差し込む光を受けて、静かに
水面へと目を落とす彼女の心情やいかに。
Alexandre Cabanel   1883

「Leopold Burthe 作  1851年」
ルネサンス期のような古典的な作風を意識しているのが分かります。
胸をはだけたオフィーリアは枝を掴みながらも、瞳を閉じて流れに
逆らおうとする意志がないことが伝わります。
Ofelia di Leopold Burthe, 1851

「 Gaston Bussiere 作  1900年」
「うふふ・・・」と薄く微笑んで、歌っていそうなオフィーリア。
目に狂気が宿っているように見えます。花を持つ手も合わさり、
ちょっとホラーですね・・・。
Ofelia di Gaston Bussiere, 1900

ポール・アルバート・ステック作  1894年」
水底へと沈んでいく人魚のようなオフィーリア。この時の彼女の心は
もはや何の感情も浮かんでおらず、ただ静寂に満ちていたのでしょうか。
Paul Albert Steck  1894

「オディロン・ルドン作  1903年」
奇才の画家ルドンも美しいオフィーリアを描いています。
淡く優し気な色遣いと背景を使い、儚く散っていく彼女を表現しています。
La bambina predestinata (Ofelia)  Odilon Redon

 オフィーリアの作品は象徴派(ラファエル前派)の画家が圧倒的に多く、いかにそれ以前に文学に関する絵画が少ないかが分かりました。それにしてもオフィーリアは人気のある主題であったようで、ハムレットより彼女の作品の方が多いくらいでした。 物語の主軸はハムレットの復讐であるのにも関わらず、オフィーリアが絶大な支持を受けるのは、「薄幸で儚い女性」というイメージが象徴派の人が求める美意識と上手く合致したからでしょうか。また、人をたぶらかす悪女や、人の運命を狂わすファム・ファタール、運命に翻弄されて命を絶つことになった悲劇の女性はいつの時代でも人気のある主題のように思います。

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