「神曲」の絵画14点。イタリアの詩人ダンテ・アリギエーリが書した中世最大の詩篇 | メメント・モリ -西洋美術の謎と闇-

「神曲」の絵画14点。イタリアの詩人ダンテ・アリギエーリが書した中世最大の詩篇

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 「神曲」は13、4世紀のイタリアの詩人、政治家であるダンテ・アリギエーリが書した作品です。
 自分自身を主人公とした、一万以上の韻文から成る長編叙事詩であり、煉獄篇、地獄篇、天国編の三部に分けられています。中世イタリアの代表作と言っても過言ではなく、文学界でも特に有名な存在です。原題はLa Divina Commediaであり、英語だとThe Divine Comedy。日本語だと「神聖喜劇」と訳せます。だからと言って笑える話という訳ではなく、俗語で書かれたハッピーエンドの物語という事から付けられたそうです。

 内容としては、1300年の金曜日にダンテは深い森の中へ迷い込んでしまいます。そこで彼はローマの詩人ヴェルギリウスに出会い、地獄、煉獄、天国と三つの世界に案内されるのです。地獄の九圏には有名な英雄や歴史人が罰を受けており、彼等の物語を訊き、地球の中心部には魔王ルチーフェロが封印されております。ダンテは煉獄の頂上でヴェルギリウスと別れ、山頂でかつて愛した女性の現身である淑女ベアトリーチェと再会します。彼女の導きで天国へと昇天していき、天を巡って至高の天上へと昇りつめていき、天使や聖人達と出会いました。ダンテは永遠なる存在を前にして、見神の域へと達したのでした。
 では、「神曲」にまつわる絵画14点をご覧ください。

 

「サンドロ・ボッティチェリ作  1480-90年」
「神曲」の地獄は漏斗状の穴になっていて第一圏から第九圏まであり、
下へ行くほど罪が重くなっていきます。ダンテはヴェルギリウスに
導かれ、罪人の説明を受けながらこの地獄を下っていきます。

「サンドロ・ボッティチェリ作  1480-90年」
ボッティチェリは神曲を愛読していたそうで、自発的に100点近い
挿絵を描いています。こちらは地獄の情景。赤と青の衣服の人物が
ダンテ&ヴェルギリウスで、異時同図法となっています。

「ドメニコ・ディ・ミケリーノ作  1465年」
多分教科書にも載っていた、最も有名なダンテの絵画。
サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂に描かれた壁画です。
左側は地獄、右側は出身地フィレンツェ、奥側は天上を表しています。

「15世紀の中世写本の挿絵」
ダンテとヴェルギリウスが死者の川アケロンを渡っている場面。
神曲はギリシャ神話由来の伝説の人物が多く登場しており、
アケロン川の渡し守カロンもその中の一人です。

「ウジェーヌ・ドラクロワ作  1822年」
ダンテは昏睡しながら船を渡ります。物語中、ダンテはしょっちゅう
昏睡状態に陥りますが、それは「生き人であり善人である」ダンテが
神の意志によって地獄より先に進む為の手段とされています。
恐怖でバタバタ倒れているかと思ったら、そんな理由があったのね。

「フェリックス・ヒダルゴ作  1887年」
憐れな亡者たちを虐める渡し守カロン。
ギリシャ神話では1オボルス(500円くらい)を渡せば、船を漕いでくれる
不愛想な老人ですが、神曲のカロンは暴力的で恐ろしい存在として
表現されています。

「Rafael Flores 作  1855年」
地獄の深部へと進もうとする二人。ダンテは奥を眺め、険しい表情を
浮かべていますね。地獄は9階層に分かれており、辺獄、愛欲者、
暴食者、貪欲者、憤怒者、異端者、暴力者、悪意者、裏切者などの
罪に分けられています。

「15世紀の中世写本の挿絵」
第6圏の罪は異端者の地獄。あらゆる宗派の異端の信徒たちが、
炎によってさいなまれているそうです。正規のキリスト教以外の
宗教は全て罪で地獄行きだ!という考えは、現代の私達日本人
からしたらとんでもない思想ですよね・・・^^;

「15世紀の中世写本の挿絵」
左側の朱色の服を着た角が生えた者は冥府の神プルート。
彼等はこの神が咆哮しているのを目撃します。次にダンテ達の目に
飛び込んできたのは貪欲者の群れ。ケチと浪費の悪徳の者達が
金貨の袋を転がしながら、悪口を言い合っているのです。

「アリ・シェフェール作  1855年」
地獄第二圏にいるパオロとフランチェスカの霊を見学する二人。
彼女は政略結婚をする事になったものの、義弟のパオロを愛して
しまいます。二人は政略結婚の相手に殺されてしまい、
禁断の愛は破れてしまうのでした。

「ウィリアム・アドルフ・ブグロー作  1825-1905年」
「死人から盗んだな!」と怒って、錬金術師アポッキオの首に
噛みついたスキッキの場面。ダンテとヴェルギリウスがドン引きの
様子で眺め、奥では悪魔が楽し気に見ていますね。

「Roberto Bompiani 作  1893年」
ダンテとヴェルギリウスは第8圏へ行くために、人間と蛇と蠍と怪獣が
合わさったかのような、怪物ゲリュオンの背中に乗って飛行します。
かなり乗り心地が悪そうですね・・・。

「ギュスターヴ・ドレ作  1832-83年」
第9圏の地獄コキュートスは、最も重い罪である裏切りを罰しています。
罪人は絶対零度の氷に首まで漬けられ、永遠に苦しむそうです。
そして、その最奥にはあの存在が・・・。

「ヘンリー・ジョン・ストック作  1923年」
コキュートスの中央には、かの裏切者の堕天使ルチーフェロ(ルシファー)が
半身氷漬けで幽閉されています。三つの頭を持つ悪魔はユダと
カッシウス、ブルートゥスの三人に噛み付き、世を恨んでいるのです。

 「神曲」はもともと、専門書ではなく民衆に読んでもらうような一般書でした。その故、ダンテはラテン語ではなく、俗語のトスカナ語を使ったそうです。しかし、日本へ神曲が紹介された際に文人の間へ広まった為、難しい文章が並んだ専門書のような扱いにされてしまいました。
 実際、2、3年前にリサイクルバザーで昭和51年出版の神曲を購入したのですが、文章が固すぎて内容についていけなくなり、ダンテが地獄の門についた辺りで挫折してしまいました。(私の読解力がなさすぎるだけかもしれませんが^^;) 昔の日本語の言い回しって難しいですよね・・・。 もうちょっと勉強しなおしてから再トライするか、新訳のものを入手して読んでみようと思います。

→ ルチーフェロについての絵画をもっと見たい方はこちら
→ カロンについての絵画をもっと見たい方はこちら

 

【 コメント 】

  1. 管理人:扉園 より:

    >> 季節風様へ
    こんばんは^^
    ダンテは詩人ヴェルギリウスに案内されて入っていったので、カロンに運賃を払ったとしたらヴェルギリウスの方かもしれません。
    ダンテは彼に付き添ってばかりで、地獄に恐怖して気絶もしちゃっておりますので…^^;
    「神曲」の作者という点においては、誰よりも内部事情を知っている感じですけれど。
    冥府に機械系を持っていくと全て壊れてしまいそうですね。
    安全冥府ツアーだとしても、うっかり冥府のレテの泉の水を飲んでしまって記憶喪失になったり、うっかり亡者に憑りつかれて帰ったりしちゃいそうです。
    「何があっても当社は責任を負いません。自己責任でお願いします」というサインを書かされそうですw

  2. 季節風 より:

    こんばんは。
    生きてるけどダンテはカロンに船賃を払ったのかもしれません。元から教養深いダンテはガイドブックも持たず手ぶらで見学ですね。もし現代で安全で生きて帰れる冥府ツアーが再現されるとしてもカメラも双眼鏡もスマホも禁止だろうと思います。

  3. 管理人:扉園 より:

     >> 読んでいませんが…様へ
    こんばんは^^
    アラクネの絵はギュスターヴ・ドレの挿絵ですかね。
    あのアラクネの姿は少しトラウマを植え付けそうですが、紹介すれば良かったかな…。しまった。←ぇ
    ファウストは前編を読んで、後半を挫折しましたw
    家にあってもそのまま状態に…^^;
    ヴェルギリウスは私も未読です。
    いつかは読むぞ!と決心して、結局読まない。そんなんばっかりです(笑)

  4. 管理人:扉園 より:

     >> 美術を愛する人様へ
    こんばんは^^
    ダンテは14世紀の人物なので、描かれた時代が広いですよね。
    神曲で中世、ルネサンス、アカデミズム、象徴派と時代の流れが感じられます。
    中世の挿絵ももっとあったのですが、紹介しきれませんでした…。
    私も古めかしい物に惹かれてしまうタチなので、昭和の本が並んでいます(笑)
    ミルトンの「失楽園」も古い岩波文庫で読んだのですが、読破に苦労しました^^;

  5. 読んでいませんが…… より:

    私はダンテというと、ブグローの強烈な絵と、ドラクロワの荒っぽい船旅の絵を思い出しますね。
    あとは、挿絵? あの……、アラクネの絵が……
    『ファウスト』しかり、『新曲』しかり、大作にはたくさんの絵画が描かれるのですね。私はどちらも読んでませんが^^;
    (ちなみにヴェルギリウスも読んでない笑)

  6. 美術を愛する人 より:

    神曲の絵というとドレとブレイクくらいしか知らなかったので新鮮でした。
    私も煉獄に行く前で目下挫折しています…
    口語訳だと読みやすいのですが文語訳の言い回しが何だか好きでつい無謀と思いつつそちらを選んで結局進んでいません。

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