ギリシャ神話に登場するアスクレピオスは、物凄く腕の良い医者です。
父は太陽神アポロンで、母はラピテス族の王の娘コロニスです。カラスのせいで濡れ衣を着せられ、アポロンに射られてしまったコロニスは、身籠っていることを告げて息絶えてしまいます。アポロンはその赤ん坊を取り上げ、ケンタウロスの賢者ケイロンに養育を任せました。
アスクレピオスと名付けられた子供はみるみる知識を吸収していき、医学の才能はケイロンをも凌駕するほどでした。青年となった彼はアルゴ―船の探検隊に参加し、名医として数々の怪我人を治しました。そして、メデューサの血をアテナから授けられたアスクレピオスは、死者をも蘇らせる力を得たのです。ヒッポリュトスやテュンダレオス、カパネウスなど、多くの人を蘇生させています。これに怒ったのが冥界の神ハデス。「秩序を破壊する不届き者だ!」とゼウスに抗議し、アスクレピオスはゼウスの放った雷霆によって撃ち殺されてしまうのでした。しかし、アスクレピオスは良い事をしたのだし可哀想ということで、天へと引き上げられてへびつかい座となり、神の一員と認められることとなったのです。
名医アスクレピオスについての作品13点をご覧ください。
「Giovanni Tognolli 作 1786-1862年」
連絡係のカラスが「コロニスは浮気してるよ!」と言って、真に受けた
アポロンは彼女を殺してしまいます。しかし、それはカラスの嘘でした。
怒った彼はカラスから言葉を取り上げ、真っ黒に変えてしまいます。
コロニスのお腹に宿っていたのは、未来の医者アスクレピオスでした。
「Christopher Unterberger 作 18世紀」
アポロンは赤ん坊をケイロンに養育を任せます。ケンタウロス族
である彼はアキレスやヘラクレス、イアソンなどの英雄を育てあげた
賢者です。様々な事を教えられたアスクレピオスは医学の才能を
開花させました。
「ギリシャのエピダウロスの劇場に展示されている像」
独り立ちしたアスクレピオスは、イアソン率いるアルゴス船の探検隊に
参加し、医術の腕を磨きます。彼の腕前は相当なもので、数々の
病人や怪我人を治療しました。
「エドワード・ポインター作 1836-1919年」
アスクレピオスの元へ並ぶ人々。女性は彼に足を見せ、治療して
もらおうとしています。古代ギリシャ、ローマ時代にはアスクレピオスを
祀った病の治癒を祈祷する神殿が建てられ、その場所を
アスクレぺイオンと呼んだそうです。
「Jacques-Charles Bordier du Bignon 1822年」
アスクレピオスはメデューサの血をアテネから授けられ、死者の蘇生
をも可能にしました。こうして彼に治せないものはなくなったのです。
それが原因で、神話では命を落としてしまいましたが・・・。
→ メデューサについての絵画を見たい方はこちら
「Johannes Zacharias Simon Prey 作 1791年」
それが影響してか、アスクレピオスのシンボルは蛇であり、蛇が
巻き付いた杖は「アスクレピオスの杖」と呼ばれ、医術の象徴と
なっています。この絵画でも杖を持っていますね。
「セバスティアーノ・リッチ作 1718年」
神殿アスクレぺイオンで眠っていると、夢の中でアスクレピオスが
現れて治癒を施し、起床すると病気がすっかり治っていたという
逸話もあります。皆が寝静まる中、アスクレピオスがびゅわん!と
出現していますね。
「ピエール=ナルシス・ゲラン作 1803年」
「アスクレピオスへの奉納」と題された作品。病気のような顔をした
父親と、懇願の様子を見せる息子達に微笑みを見せる娘。
視線の先にはアスクレピオスの像で、足元には奉納品が置かれて
います。ギリシャ時代ではこのように祈りが捧げられたことでしょう。
「ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス作 1877年」
アスクレぺイオンに連れられてきた子供達。神殿には司祭のような
役割の医者もいたのだと思われます。
家族は子供達が健康に育つように、病気にならないように、と
アスクレピオスに祈ったことと思います。
「イライアス・マーティン作 1739-1818年」
アスクレピオスに生贄を捧げる女性。生贄といっても恐ろしいものでは
なく、動物や毛髪、食物などが捧げられたのだと思われます。
女性の手にはアスクレピオスの杖が握られていますね。
「ジョン・ラッセル&ジョン・オーピエ作 18世紀後半」
ロバート・ジョン医師が亡くなり、その方へ捧げられた作品。
中央の胸像はロバートさんであり、周囲にはアスクレピオス以下、
様々な神が彼を称賛しています。
とても慕われたお医者さんだったのでしょうね。
「作者不詳 19世紀頃(?)」
右側はアスクレピオスの娘ヒュギエイア。彼女も健康や衛生を司る
女神です。アスクレピオスの杖のシンボルは現代でも生きており、
世界保健機構や米国医師会などに使用されているそうです。
「グスタフ・クリムト作 1900-7年」
娘ヒュギエイアも病気に悩む女性達に人気があり、信仰されていた
そうです。蛇が巻き付いた盃を持っており、「ヒュギエイアの盃」
と呼ばれた盃は薬学のシンボルとなりました。
腕が良すぎて殺されてしまった医者はアスクレピオスだけではなく、ケルト神話にもいます。
ダーナ神族の王ヌアザは敵によって右腕を切り落とされてしまい、医者ディアン・ケヒトが義手を作りました。しかし、息子ミアハの方が腕が良く、ヌアザの腕を墓から掘ってこさせ、神経を繋いで元通りにしてしまったのです。それに怒ったのがディアン・ケヒト。「父より腕がいいとは何事じゃ!」と嫉妬に燃え、息子は斬り殺されてしまったのです。
これを知った時は、あまりの理不尽さに呆然としたのを覚えています。息子が父の技術を越えて喜ぶどころか、切り殺すとは・・・。その分、アスクレピオスが死んで怒り狂ったアポロンは良い父親ですね^^;
腕を完全に再生したり、死者を復活させたりと、現代の技術ではまだまだ神の領域ですが、もしかしたらその奇跡が起こる時が来るのもしれません。しかし、そこに倫理や嫉妬や陰謀が見え隠れするような気がします。
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