三美神は、ギリシアとローマ神話に登場する三名の女神です。
一般的には古代ギリシアの詩人ヘシオドスが述べた、アグライア(花のさかり)、エウプロシュネ(喜び)、タレイア(輝く女)とされています。彼女らは「カリス」と呼ばれ、ゼウスとエウリュノメの間に生まれました。ヴィーナス(ウェヌス)の従者として表されることが多く、神話では脇役となっているものの、絵画の世界では寓意画として多く描かれています。ギリシア神話では「魅力」「美貌」「創造」を司り、ローマ神話では「美」「愛」「貞節」の擬人化と考えられています。
「ギリシアのパトラ史跡のモザイク壁画 3世紀」
手を取り合う三名の美女。初期の頃は衣服を着て表していた
そう。起源は相当古く、豊穣神として崇拝されていた可能性が
あります。祭壇のような場所を囲み、儀式めいた事を行っていますね。
「ポンペイのフレスコ画」
彼女たちの姿は様式化され、裸で互いの肩を取り合うように
なります。三位一体を彷彿とさせる三美神を表すこのポーズは、
現代までずっと受け継がれてゆきます。
「ラファエロ・サンツィオ作 1483-1520年」
イタリアルネサンスの巨匠である彼も、古典的な様式で描いて
います。妖艶な姿である彼女達ですが「徳」や「節操」も司り、
美徳の象徴として表されます。手に持つのは黄金の林檎。
「ルーカス・クラナッハ(親)作 1530年」
セクシーな絵画が得意(?)のクラナッハは何枚もの三美神の
作品を残しています。精神的な節操や美しさを司るはずが、
危険な雰囲気を醸し出してしまっています。
「ハンス・バルドゥング・グリーン作 1480-1545年」
「三美神の調和」…かも?と紹介されていた絵画。
三名の美女と子供、本や楽器が描かれています。
彼女たちの特質である「創造」を表したのでしょうか。
「イタリア出身の工房作 17世紀」
豪華なアクセサリーを手に、セクシーな三美神。
今でこそ色彩が色あせていますが、当時は輝くような色彩で
お肌つやつや(?)だったのではないでしょうか。
「ピーテル・パウル・ルーベンス作 1635年」
ルーベンスらしい豊満な肉体ですね。古典的な世界観で
美女たちが手を取り合っています。このモチーフは
言い方はあれですが、内容よりも視覚的な意味で人気のある
画題であったように思います。\
「アントニオ・カノーヴァ作 1798年」
ヴィーナスとマルスの前で踊る三美神。この画家は
寓意画ではなく、女神の従者として彼女達を描いています。
「ピエトロ・リベリ作 1650年」
くるくる金髪の三美神。パリスの審判の物語により、三美神は
ヘラ、アテナ、ヴィーナス(アフロディテ)とも関連づけられます。
「セバスティアーノ・マッツォーニ作 1650年」
異国的な匂いを感じさせる、セクシーな座る三美神。
古典的な存在である彼女たちも、当時の流行や画家の風情が
如実にでていますね。
「フランソワ・ブーシェ作 18世紀」
ロココな雰囲気たっぷりな三美神。
柔らかなタッチ、淡い色彩で輝くばかりの肌が描かれています。
推測になりますが、純粋や無垢を司る子供が聖なる炎を
掲げており、崇高な精神、美徳を表現しています。
「Charles Etienne Leguay 作 19世紀」
クピドを抱っこした、家族写真のような平和な三美神。
盲目とされているクピドは目が見えており、愛の弓は百発百中。
「慈愛」という言葉がぴったりですね。
ユニセフ募金や盲導犬募金、赤い羽根募金などの慈善的な援助活動である「チャリティー(英 charity)」という言葉は、古代ギリシア語「カリス」から由来しており、カリスは三美神の総称です。
「慈愛・慈善・博愛または同胞愛の精神に基づいて行われる公益的な行為・活動」であるチャリティーは、彼女たちの象徴そのものなのでしょう。
「魅力、美貌、創造」という外面的な美しさ、妖艶でアーティスティックさを司る反面、「美、愛、節操」という精神的な清き美しさ、奥ゆかしさを司る三美神。真逆とも思える性質を身にまとい、現代でも名称がずっと受け継がれているなんて、興味深いですね。
【 コメント 】
>> 季節風様へ
ルーベンスはとても沢山の作品を手掛けているので、全ての女性が豊満な姿であるとはいえませんが、ボリュームのある女性を多く描いています。弟子のヴァン・ダイクは画風の雰囲気こそルーベンスを匂わせますが、女性は普通体型です。
ルノワールもなかなかの豊満な女性を描きますよね^^
ルーベンスの美女は豊満でフワッとした顔が特徴なんでしょうか。
>> オバタケイコ様へ
こんばんは^^
私もこの記事を書くまでは、パリスの審判の三美神とごっちゃになっていました…。
裸体のイメージのあるギリシアのモザイク画では服を着ているのに、様式化されて服がなくなり、ルネサンス以降でセクシーになっちゃっているのは、画家とパトロンの陰謀(?)を感じますね。
ルーベンスの女性はふくよかすぎて、一目で彼の作品だって分かっちゃいます^^;
宗教抗争が荒れる時代に、よく描けたなぁと思います。
(クラナッハはプロテスタントで、ルターの肖像画も描いていますし…)
とても面白い話ですね。カリスの存在知りませんでした。しかもチャリティーの語源とは!
作家ごとにかなり趣きが違って興味深いです。「ラファエロ・サンツィオ作」は構図も安定してエロさを感じませんが、クラナッハやハンス・バルドゥング・グリーンの作品は、節操があるどころか、妖艶で男どもを誘惑しそうな勢いで好きですww
ルーベンス作はどう見ても、中性脂肪たっぷりの中年のおばちゃんにしか見えません。自分も中年のおばちゃんですが。ww