ディオメデスはギリシャ神話に登場する、女神アテナの加護を得た英雄です。
父はテーバイ攻めの七将の一人であるテュデウス、母はデイピュレ。都市テーバイを陥落させる戦争は失敗となり、父を含む殆どの者が戦死してしまいます。当時4歳であったディオメデスは、他の父を喪った息子達と「いつかテーバイを落とす!」と誓いを立てたのです。エピノゴイと呼ばれた彼等は、10年後に誓いを果たし、その名を轟かせる事となりました。
ディオメデスは戦死したアイギアレウスの娘、アイギアレイアと結婚してアルゴスの王となり、長きに渡って平和な国を構築しました。トロイ戦争にも参加し、オデュッセウスやアキレスとも肩を並べて戦いました。ヴィーナスやアレスを傷付けたという伝説も残っています。戦争はギリシャ連合軍の勝利に終わり、ディオメデスが国へ帰ろうとしたところ、なんと妻アイギアレイアに拒否されてしまいます。その理由は様々な説があり、オデュッセウスの奸計で死んだパラメデスの弟が「仲間だから陥れてやる」と、妻に「奴はトロイから女を連れてくるぞ」と吹き込んだという説や、妻が別の男を愛人としていたからという説や、怪我したヴィーナスが怒って妻に不倫するよう吹き込んだという説などがあります。いずれも彼は国へ帰れなくなり、南イタリアで生を終えたそう・・・。
また、ヘラクレスの伝説では全く異なるディオメデス像が描かれています。彼は残虐なトラキア王で、人肉を食べる凶暴な牝馬を飼っていました。ヘラクレスは罰によって難事を果たしている最中で、その馬を奪おうとしていました。ヘラクレスはディオメデスと戦って殺してしまい、なんと牝馬のご飯にさせてしまったそうです。善政を敷いたアルゴス国の王だったはず彼が、なんとも悲惨な設定となってしまったことか・・・。もしくは全くの別人なのかな?
では、双方のディオメデスの絵画13点を見ていきましょう。
「ピーテル・パウル・ルーベンス作 1577-1640年」
英雄アキレスはトロイ戦争へ行きたくがない為に、女装してやり
過ごそうとしますが、オデュッセウスの案で装飾品の中に武器を
混ぜ込み、その正体を見破ってしまいます。ディオメデスはよく
オデュッセウスと共にいたようで、右側にディオメデスが描かれています。
「Corrado Giaquinto 作 1703-66年」
また、オデュッセウス&ディオメデスの二人は都市を守護する木製像
パラディウムをトロイから盗み出します。パラディウムはトロイの
建国者イーロスが女神パラスに祈りを捧げた時、天から降って来た
とされています。
「Gaspare Landi 作 1756-1830年」
よいしょとパラディウムを持ち上げようとする二人。ディオメデスが
貧相な姿に描かれていますが、パラディウムを最初に触ったのは
彼と言われており、けっこう活躍しているんです。
「Arthur Fitger 作 1840-1909年」
ディオメデスは女神ヴィーナスを傷付けた唯一の人間としても
知られています。戦争で彼が敵将アイネイアスを討ちそうになった時、
ヴィーナスは息子であるアイネイアスを助け出そうとしました。
しかし、ディオメデスはヴィーナスをも攻撃してしまったのです。
「ジョゼフ=マリー・ヴィアン 1775年」
ヴィーナスとアイネイアスはアポロンによって助け出されると
されていますが、この絵画は女神イリスを描いているようです。
手前の英雄は息子のアイネイアスさんかな?
「ドミニク・アングル作 1800年」
新古典主義のアングルもロマン風なギリシャ画を描いています。
こちらはイリスによってオリュンポスに連れられてきたヴィーナスが
「怪我したわ!ほんと腹が立つ!」と悪口を言っているようですねw
足元で馬車に轢かれているのは・・・。ん?ディオメデス??
「ルイス・モリッツ作 1810年」
ディオメデスと老ネストルはトロイの軍勢を切り崩そうとしますが、
そこへ主神ゼウスの介入が入ります。雷撃が相次ぎ、味方が黒焦げで
バタバタと倒れていきます。二人は悔しい思いをしながらも、
撤退を余儀なくされたのでした。
「アントワーヌ=ジャン・グロ作 1771-1835年」
と、ここで絵画はヘラクレスの方へ移ります。ディオメデスの帰国に
関する物語の絵画は残念ながらありませんでした。トラキアの
ディオメデスは残虐な王であり、ヘラクレスにやっつけられてしまいます。
「ルカ・ジョルダーノ作 1680-90年」
ここからディオメデスやられラッシュが続きます。
ヘラクレスに絞め殺された彼は、自分の育てた凶暴な馬の食糧に
されてしまうのでした。英雄の時と違い、なんたる憐れな展開・・・。
「ジャン=バティスト・マリー・ピエール作 1752年」
ヘラクレスに掴まれ、ぐぇっとなっているディオメデス。
ディオメデスや馬の目がなんだか漫画チックに見えるのは
私だけでしょうか・・・?
「ギュスターヴ・モロー作 1826-98年」
象徴派の巨匠モローは話を変え、三頭の馬に殺されるうら若き
ディオメデスを描いています。足元にはもう一人の犠牲者が。
橋に座っているのはヘラクレスでしょうか?
「ギュスターヴ・モロー作 1866年」
モローはこの題材を気に入っていたようで、これらの絵画以外にも
ディオメデスの絵画を描いています。こちらは背後でヴィーナスの
ような女性が「清々するわ」と言った感じに見つめています。
神話の内容を超越した、画家の世界が展開されておりますね。
「ヴェネツィアにある国立マルチャーナ図書館所蔵の作品 1500年頃」
こちらはもっと話が変わって、ダンテ・アリギエーリ著「神曲」の一場面。
ダンテとヴェルギリウスはオデュッセウスとディオメデスの霊に会い、
彼等から冒険譚を訊きます。二人は地獄の第八圏にいるので、
ダンテから見たらディオメデスは重罪人なのでした・・・。
なんだか一括しない記事になってしまいましたね(笑)
神を傷付けた英雄ディオメデスは妻に入国を拒否され、南イタリアへ渡って都市を建設し、その土地の王ダウヌスに殺されたとされています。その為、ヘラクレスに殺された王ディオメデスとは別人物だと思いますが、全く異なる人物なのか、英雄ディオメデスから派生した人物であるのかが判然としません。何はともあれ、神話は矛盾があって当たり前の物語ですし、別々の土地で語り継がれた伝説が混じり合った結果なのかもしれませんね。
【追記】
詳しい方からコメントをいただきました!二人のディオメデスは別人のようです。
ヘラクレスにやられたトラキア王のディオメデスの方が古い人物で、トロイ戦争で活躍したディオメデスの方が後の時代の人物のようです。全く違う二人を一緒くたにしてしまって、ますます一括しない記事になってしまいましたが、ノープロブレムでお願いいたします( ノvノ)
→ トロイ戦争についての絵画を見たい方はこちら
→ オデュッセウスについての絵画を見たい方はこちら
【 コメント 】