ミノタウロスの絵画12点。迷宮ラビリンスの奥に幽閉された、悲しき牛頭人身の怪物 | メメント・モリ -西洋美術の謎と闇-

ミノタウロスの絵画12点。迷宮ラビリンスの奥に幽閉された、悲しき牛頭人身の怪物

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 ミノタウロスはギリシャ神話に登場する、頭が牛で身体が人間の怪物です。
 クレタ島のミノス王は後に生贄に捧げよという誓約で、海神ポセイドンから白い雄牛を授けられます。しかし、王は牛の余りの美しさに手放したくなくなり、異なる牛を生贄に捧げてしまうのでした。それに怒ったポセイドンは、雄牛を愛すという呪いを王妃パシパエにかけてしまいます。恋煩いに陥った王妃は名工ダイダロス(イカロスの父)に相談し、雌牛の模型を作ってもらいます。それに入った彼女は雄牛と思いを遂げ、牛の頭をした赤ん坊を産みました。

 ミノタウロスと呼ばれた子供は日に日に成長し、その凶暴さが目に余るようになってきました。ミノス王はダイダロスに命じてラビリンス(迷宮)を作らせ、奥地に幽閉してしまいます。ミノタウロスの食料として、占領地のアテナイから7名の少年少女が毎年迷宮に送られました。三度目の生贄が行われようとした時、アテナイの英雄テセウスが退治に名乗りをあげ、ミノタウロスを倒す事に成功しました。ミノス王の娘アリアドネから授けられた毛糸を使って、テセウスは脱出不可能とされたラビリンスからも脱出したのでした。
 神の罰によって産まれた悲しき怪物、ミノタウロスの絵画12点をご覧ください。

 

「ギュスターヴ・モロー作  1876-80年」
ポセイドンの怒りにより、雄牛に恋した妃パシパエ。
ダイダロスに作ってもらった雌牛の模型の中に入って、愛し合います。

「古代ギリシャの壁画  340年頃」
その結果、牛頭人身の怪物が産まれたのでした。
本名はアステリオスですが、ミノス王の牛という意味のミノタウロスと
いう名で呼ばれるようになりました。ムッキムキの赤ちゃんですね・・・。

「Jean-Baptiste Peytavin 作  1808年」
ミノタウロスは成長するにつれ、強大になり凶暴になっていきます。
ミノス王はダイダロスに迷宮を作るよう命じ、怪物を閉じ込めることに
しました。このミノタウロスはちゃんと服を着て武器を持っていますね。

「Jean-François-Pierre Peyron 作  1744–1814年」
しかし、我が子であるミノタウロスを餓死させる事もできず、毎年
アテナイから7名の少年と7名の少女を生贄に出すことに決めました。
人々は嘆き悲しむだけで、成す術がありません。

「Campana Cassoni の巨匠作 1500-25年」
そこに現れたるは英雄テセウス。彼は自分から生贄になると名乗って、
ミノタウロスを退治することにしました。この絵画は異時同図法で
描かれており、テセウスが依頼を受け、ミノタウロスを退治する場面が
表されています。

「リチャード・ウェストール作  1765–1836年」
ラビリンスに入る際、ミノス王の娘アリアドネは剣と迷わないように
毛糸をテセウスに渡します。脱出不可能とされたラビリンスでも、
これを伝っていくことで生きて帰ることができたのです。

「ギュスターヴ・モロー作  1855年」
第三の生贄として入ったテセウスは、遂にミノタウロスを発見します。
生贄にされた他の少年少女も一緒ですね。ミノタウロスがセクシー
ポーズをしているように見えるのは私だけだろうか・・・。

「エドワード・バーン・ジョーンズ作 1861年」
毛糸を持ちながら慎重に迷宮を歩くテセウスを、じっと見ている
ミノタウロス。にょきっと出ている顔が可愛いですねw

「古代ギリシャの壺に描かれた作品  年代不明」
ミノタウロスと出くわしたテセウスは格闘の末、剣で倒します。
個人的に3mくらいの巨体かと思ったら、人並みのサイズで描く作品が
ほとんどです。頭をホールドし、剣で眉間をぐさっ!です。

「ウィリアム・ラッセル・フリント作 1912年」
ごつごつとした岩場の中、口に剣を突っ込むテセウス。
ミノタウロスは「ぎょえっ!」と言った感じに目を剥いています。

「チーマ・ダ・コネリアーノ作  1505年」
それ、ケンタウロスだから!何度この絵画のタイトルを調べても
「ミノタウロスを退治するテセウス」。うーん、作者さんが間違えたのか、
ネットで何か勘違いが起こったのか・・・。ミステリーな絵画です。

「ジョージ・フレデリック・ワッツ作 1885年」
狂暴で手に負えなくなり、生贄を食べていたとはいえ、元を正せば
ミノス王が雄牛を生贄に捧げなかったのが原因。それなのに
ミノタウロスは閉じ込め退治されてしまい、なんだか可哀想です。
「僕の人生って・・」と寂しげな背中が語っています。

 この記事を書いていて、ふと思いついた事があります。それは「一年で少年少女14名って、ミノタウロスの食料としては少なくない?」ということ。
 調べてみると、牛(乳牛だけど…)が一年間に食べる量は約5800kg、人間が一年間に食べる量は約550kgだそうです。牛と人間では10倍くらいの差があるんですね。ミノタウロスが牛と人間50%ずつの遺伝子なら、約2750kgの摂取が必要と考えられます。生贄の少年が50㎏、少女が40kgと平均して考えても、50×7=350と40×7=280で350+280=630kgになります。うーん、毎日1.5kg以上は食べられる計算で、人間の一年間の食べる量よりは多いけれど、牛人間であることを加味すると、足りないご飯になりそうです。生贄は恐ろしいことですが、少年少女30名ずつは必要になってきてしまいます。
 テセウスに負けてしまった原因は、もしかして空腹にあったかもしれませんね・・・^^;

 

【 コメント 】

  1. 管理人:扉園 より:

     >> 幻様へ
    こんばんは。
    コメントありがとうございます^^
    本当ですね。ミノタウロスも可哀想な存在ですが、一番の犠牲者は奥さんのパシパエさんかもしれませんね。
    ミノス王自身を牛人間にかえる呪いをかければいいのに、奥さんの方に呪いをかけて、牛人間を産み出させるなんて遠回りの嫌がらせをするなんて。
    女性も生きるのが大変な時代ですが、ギリシア神話に登場する人達は男女関わらず悲劇と化す確率が高すぎですよね^^;
    (それが神話というものなのでしょうが…w)

  2. より:

    このエピソードで可哀そうなのはパシパエさん。
    彼女自身は何もしていないのに旦那がやったインチキの報いとして特殊性癖を植え付けられた挙句に奇怪な子供を産まされる、酷い連帯責任。
    この時代には妻が夫から独立した人格としては認められていなかった事情もあるんでしょうかね。

  3. 管理人:扉園 より:

    >> ドッキリ大成功~♪様へ
    こんばんは^^
    バーン・ジョーンズさんのミノタウロス驚かせる気満々ですよねw
    床に転がる骨さえも可愛らしく、なんだか和んじゃいます。
    脱出ゲームとか謎解きとか大好きなので、生贄にされないならラビリンス探検してみたいです。
    でも曲がり角から突然「わっ!」ってミノタウロスが出てきたら、腰抜かして驚きますw
    そのままパニくって走り回って、永遠に出られなさそうです…^^;

  4. ドッキリ大成功~♪ より:

    「エドワード・バーン・ジョーンズ作 1861年」
    は、ふっと左を見たら、絶対絶叫するヤツやないですか!!笑
    すーごい用心しながら前方に集中して進んでる時、ふいに横道に牛顔の人間が居たら、驚いて叫んじゃいますって!!
    ミノタウロスのユーモラスな表情が可愛らしいですね。
    「いつ僕に気付くかなぁ~?」とワクドキしながら待ってるみたいです。

  5. 管理人:扉園 より:

     >> 美術を愛する人様へ
    こんばんは^^
    作者がケンタウロスと間違えちゃったのかと思っていましたが、ひづめを見るとちゃんと牛なんですね!
    上下逆なのは、画家の勘違いなのか、または「私は他の作品と被らないように逆転させる!」という画家のプライドなのか、はたまた鑑賞者にツッコんで欲しくてわざと描いたのか…。
    永遠のミステリーですね^^;

  6. 美術を愛する人 より:

    「チーマ・ダ・コネリアーノ作  1505年」
    は、よく見ると牛の体なので、ミノタウロスっちゃミノタウロスですが…
    頭と身体を逆転させたのはなぜなんでしょうね?
    本当に謎な絵です。

  7. 管理人:扉園 より:

     >> 美術を愛する人様へ
    こんばんは。
    ご覧下さりありがとうございます^^
    確かに!言われて気付きました。どんな凶暴な闘牛でも草食ですよね。
    もしかしてテセウスに負けたのはお腹壊しっぱなしだったのが原因…?w←ぇ
    そうですよね。アステリオスという素敵な名前がある王子様なのに、牛人間として短い人生を終えて…。お姫様のキスで人間に戻るとかいう、おとぎ話にはならなかったのでしょうかね^^;

  8. 美術を愛する人 より:

    こちらはあまり知らない絵も紹介されていますので平素より楽しく拝見しております。
    小さいころからミノタウロスが牛頭なのに草でなくて人間食べてお腹壊さないのかと疑問でした。王子様なのに怪物名で可哀想に思ってましたが正式な名前あったんですね。
    星という綺麗な名前でどこか救われた気がしました。

  9. 管理人:扉園 より:

     >> 久しぶりのラビリンスですね^^様へ
    ディオメデスは自分の馬にがぶりとされて亡くなってしまったんですね。
    絵画を調べると、やられているシーンが思ったよりも多かったです…^^;

  10. 久しぶりのラビリンスですね^^ より:

    あ、ディオメデスは人の名前でしたね^^;
    ディオメデスの馬……だったみたい(笑)

  11. 管理人:扉園 より:

     >> 久しぶりのラビリンスですね^^様へ
    こんばんは。
    名工ダイダロスも自分の発明で息子を失ったと思うと、切ないですよね…。
    これからギリシャ系はテセウスやアリアドネなど、その周辺の特集みたいになります^^
    確かに牛&馬の神話は多いですね。
    北欧神話でも原初の牛アウズンブラや、女神ゲフィオンの牛犂きの物語、オーディンの軍馬スレイプニル、アースガルズの城壁づくりの馬スファジルファリなど、沢山出てきます。
    その時代の人々にとって、食糧や移動などで生活に欠かせない存在だったからでしょうか。
    ディオメデスの絵画了解いたしました^^
    ちょっと先になると思いますが、記事にしますね。

  12. 久しぶりのラビリンスですね^^ より:

    ラビリンスというと、イカロスを思い出しますね。
    それもあの曲のおかげなのですが^^
    そうそう、ちょっと前から思っていたのですが、牛や馬って結構描かれているものなのですね。
    ギリシャ神話だけでも、ケンタウロス、ミノタウロス、ディオメデス、イオ、変身したゼウス、トロイの木馬(これは違う? 笑)……
    個人的にはディオメデスの絵が見てみたいです^^
    あ、戦場の軍馬の絵画とかも調べてみようかな……

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