ギリシャ神話に登場するカリストはアルテミスに化けたゼウスによって妊娠し、本物のアルテミスによって熊に変えられてしまった美女です。
カリストは恋愛やお洒落に興味を示さず、アルテミスの従者として狩りを行っていました。しかし、ある日ゼウスが彼女を見初め、アルテミスに化けてカリストに近付き、想いを遂げてしまいます。彼女はこの事実に恐怖し、妊娠したことをずっと女神に隠していました。しかし、数か月後にアルテミス達と沐浴する機会が訪れ、衣服を脱いだことにより妊娠がばれてしまいます。アルテミスはその事実に怒り、恐ろしい呪いを掛けました。(ゼウスの妻ヘラの呪いという説も)美しいカリストの容姿は真っ黒な剛毛に覆われ、爪は鋭くなって牙が生え、うなり声しか出せなくなりました。彼女は恐ろしい熊に変えられてしまったのです。
変身物語によるとカリストはその後、数十年間熊のままで生き続け、残酷な苦しみを味わいました。彼女とゼウスの息子であるアルカスは、マイアに預けられて立派に成人しました。ある日、アルカスが狩猟をしていたところ、巨大な熊と出会って射ようとしました。それを見ていたゼウスは二人を不憫に思い、カリストをおおぐま座、アルカスをこぐま座として天へと上げたとされています。
偽アルテミスに迫られ、本物には糾弾されるカリストについての絵画13点をご覧ください。
「アンソニー・ヴァン・ダイクの工房作 1599–1641年」
絶世の美女カリストは恋愛に全く興味がなく、アルテミスの従者として
狩猟ばかりを行っていました。しかし、史上最大の色魔爺さんゼウスに
見初められてしまうのです。ゼウスは怪しまれないよう、アルテミスに
化けて近付きます・・・。
「フランスの画家作 18世紀」
何も知らないカリストは、親愛なる女神に対してすっかり警戒を解き、
接近を許してしまいます。全てはゼウスの思う壺に・・・。
「フランソワ・ブーシェ作 1763年」
そうしてゼウスはまんまと思いを遂げてしまうのです。
(アルテミスに化けた状態でどうやったんだというツッコミはゼウスには
効きません。黄金の雨に化けながらの時もありましたから・・・^^;)
「フランソワ・ブーシェ作 1759年」
ロココの巨匠ブーシェは同テーマを二枚描いています。カリストに
密着しまくるアルテミス(ゼウス)の図。当時はまだ依頼製作であった
ので、このような女性同士のセクシーな姿の絵画は需要があったの
でしょうかね。
「Jean-Simon Berthélemy 作 1743-1811年」
毛皮はアルテミスのアトリビュート。上のブーシェの作品にも
豹柄の毛皮が描かれていますね。
画面右奥にはゼウスの象徴である鷲がいます。
「Karel Philips Spierincks 作 1609-39年」
物語によってはゼウスの妻ヘラが介入し、カリストを虐め抜きます。
カリストとゼウスのいちゃいちゃに、クピド達は祝福をしているよう
ですが・・・。右側ではヘラが髪掴んでカリスト引きずってる。怖い・・・。
「アンドレア・スキャヴォーネ作 1550年頃」
まんまゼウスだーー!!
カリストさんの虚無ってる表情がじわじわと来ます・・・。
「ティツィアーノ作 1559年」
そんなこんな事件があり、カリストは妊娠してしまいます。必死に
それを数か月間隠していたのですが、アルテミス達と沐浴しなければ
ならず、自らのお腹が大きい事がばれてしまいます。
「セバスティアーノ・リッチ作 1712-16年」
アルテミスは貞潔の女神。被害者であれ、処女を失ってしまった
カリストを許してはくれませんでした。怒った女神は彼女を糾弾します。
「ピーテル・パウル・ルーベンス作 1635年」
ルーベンスの描く女性は相変わらずむっちむちです。
「あなた、やってくれたわね?」という感じのアルテミスに対し、
他の婦人たちはカリストを庇っているようですね。
「Gaetano Gandolfi 作 1734-1802年」
嫌がるカリストに対し、女性達は髪や腕を掴み、妊娠したお腹を
アルテミスに見せています。女神は「出ていけ」と言わんばかりに
指を外へと指しています。女性は怖いお・・・。
「ピエトロ・リベリ作 1605-87年」
見下し感が凄いアルテミス様。怒りの余り、女神はカリストに呪いを
かけ、恐ろしい熊に変えてしまったのです。(一説には恐妻ヘラの呪い)
熊になったカリストはアルテミスに殺されたとも、そのまま放浪の旅へ
出たとも言われています。
「ヘンドリック・ホルツィウス作 1589年」
カリストは熊の姿のままで数十年放浪し、成長して逞しくなった
我が子と再会します。しかし、息子アルカスは自分の母親だとは
つゆ知らず、射ようとしてしまいます。それを不憫に思ったゼウスは、
二人を天へと上げて星座に変えたのでした。
私の捜索力が足りないからなのか、熊になって自らの息子に射られてしまうシーンの絵画を探しても、全く存在せず、アルテミスに化けたゼウスがカリストを誘惑するシーンと、純潔ではなくなったカリストをアルテミスが追放するシーンの二つしかありませんでした。やはり当時は王侯貴族に依頼された作品が多くを占めるので、飾って美しい鑑賞して美しいという、視覚的に「美」を意識させている作品が目立つような気がします。もしくは自戒や皮肉が込められた作品ですね。
熊に変身させられたカリストが息子アルカスに射られようとしている作品は、ギリシャ神話の物語を知る上での挿絵としては描かれるものの、美麗な宮廷に飾るテーマとしてはちょっと視覚や内容的に違っていたのかな~と思いました。
<追記>
読者様からカリストとアルカスの絵画があることを教えていただきました。感謝です。私の捜索力の問題でしたね^^; 熊さんも息子さんも芸術的なテーマとしてちゃんと使われていました。
以下に掲載します。
「Louis Chéron 作 天井画(?)の部分 1660-1725年」
→ アルカディアの王リュカオンについての絵画を見たい方はこちら
→ ゼウスの被害者の一人イオについの絵画を見たい方はこちら
【 コメント 】
>> 美術を愛する人様へ
物語は様々なバージョンが存在するようです。
アルテミスがカリストであった熊を殺してしまい、遺体から子供を取り上げてから星座としたとか、息子は弓ではなく槍で突こうとした、とかあります。
射てしまってから星座にするバージョンと、射る前に星座にするバージョンがあるのだと思います。
あれ? これって撃って絶命➡親子熊で天の星
だったような?
>> 幻様へ
こんばんは^^
今も昔もそのようなキャッキャウフフ系シチュエーションは人気なのでしょうねw
そうなんですか!どうせなら最後までアルテミスと思わせたままにして欲しいところですよね。
突然、「ふはは、実は儂だったのだ!」と敬愛するアルテミス様から色魔爺さんに変わったとか、悪夢以外の何物でもありません…。
カリストが事件のあった直後にアルテミスに相談していたら、もう少し展開が良くなったのかしら?熊じゃなくて追放くらいまでに…。
加害者が最高神だから言い出せなかったのかな…完璧にパワハラですよね^^;
「ある神が行ったことを、別の神が取り消すことは出来ない」というルール、はじめて知りました!
神と言えども制約があるのですね。
だからゼウスは母子共々星座に打ち上げた。なんというか、カリストさん報われないです…(汗)
ゼウスの化けた偽アルテミスとカリストの絡みって、今時の百合アニメ好きだったら悶絶しそうなシチュエーションかも。
『変身物語』だと、ゼウスは思いを遂げる直前に正体を現してますね。憧れのアルテミスお姉さまにキャッキャウフフ可愛がってもらえてサイコー……と思ってたカリストのショックといったら。
どんな事情であれ妊娠なんかしたら許してもらえるわけが無いってカリストもわかってたから隠し続けるしかなかったんでしょう。で、結局バレる。
アルテミスがちゃんと事情を聞いて「私の可愛いカリストちゃんに手を付けるなんてお父様サイアク!」って展開になってたら……。
ゼウスがカリストを元の姿に戻してやれないのはちゃんと理由があって、ギリシア神話では「ある神が行ったことを、別の神が取り消すことは出来ない」というゼウスでも破れないルールがあります。彼女を元の姿に戻せるのは熊に変えたヘラあるいはアルテミスしかいないのですが、その気が全くなさそうですから。
>> 季節風様へ
こんばんは^^
被害者なのに罰せられて熊に変えられてしまうなんて、理不尽感が凄いですよね…。
貞潔の女神であってもカリストの言い分を聞いてあげて欲しかったと私も思います。
ゼウスの対応っていつも遅いですよね(汗)
しかも、カリストを人間に戻して「私は母親です。愛しい我が子よ!」と感動の再会を
させるのではなく、息子の方を子熊に変身させて二人とも星座にしてしまうなんて。
神話だとしても、対応が酷すぎるような気がします…。
お腹を晒し物にしたり大奥苛め物語という感じです。アルテミスさんは事情を聞いてやればよかったのに。アルテミスはゼウスの娘じゃなかったですか。もしそうならカリストのお腹の子はアルテミスの弟妹となるでしょう。
ゼウスも助けに来るの遅すぎます。熊のまま星座になって嬉しいはずないでしょう。可哀想なカリストさん。
>> 頭がヤバい人様へ
こんばんは^^
私は血液型で言うと、胃や心臓、脳も気を付けなければならず、占星術の腰も合わせると全身が病むかもしれません(笑)
アルテミスのアトリビュートに毛皮もあるんですね!
確かに狩猟の女神だから毛皮もアリですか。
本能を解き放つとか、大法螺吹きしちゃいましたw
だってゼウスが怪しいことするから…。←ぇ
ありがとうございます。こっそりと直しておきます^^;
どうも私は、占星術のみならず血液型でも「頭がヤバイ」ようです。←
アルテミスのアトリビュートに毛皮というのがあるので、それがたまたま豹柄だっただけかもしれないですね。
アントワーヌ・コワペルさんのディアヌもたしか、豹柄をまとっていました。
>> この画題……様へ
こんばんは^^
とある女子校。女子に絶大な人気を誇るアルテミス嬢。
プールの授業中にカリストの妊娠が発覚し、取り巻き達が携帯で路地裏に呼び出す。
「ここは恋愛禁止よ。自分のやった事が分かっているんでしょうね、カリスト?」
と取り巻き達と共にアルテミス嬢は凄みをきかせる―……。
なんていう映画ができるかもしれません。←ぇw
エスカレートした究極がバラバラ事件に皮剥ぎ…。
もう放送禁止になっちゃいますね^^;
そうですね。メメント・モリはダークブログなので、牧歌的な絵画は場違いです。
ただ、レスボス島のサッポ―の伝説ような、牧歌的の中に潜む妖しくも哀しい雰囲気の絵画は喜んで載せちゃいます^^
そういえばオレステスの絵画もまだ紹介していませんでしたね。
さり気なく二つとも紛れ込ませておきます(笑)
この画題、現代の映画とかで参考にされそうですね。
路地裏に集まった中高生たち……携帯電話で同級生を呼び出し……みたいな^^;
映画のモティーフはだんだんとエスカレートしていき、
カリストの画題→ブグローのオレステス→オルペウスの死→マルシュアス
と、猟奇的になってゆく……
もはやヤクザ映画……?
ああ、牧歌的な絵がほしい〜
なんていっても、扉園さんのダーク絵画ブログでは、のんびりレスボスのサッポーの絵とかやってくれないのでしょうね……( ̄▽ ̄)
>> 検索が好きな人様へ
こんばんは^^
カリストとアルカスの絵画があるとは…教えていただきありがとうございます!
私の捜索力が足りないだけでしたね^^;
記事に追記で紹介させていただきます。
扉園さん、こんばんは。
お探しになってる種類の絵とは違うかもしれませんが参考までに。
http://www.langues-anciennes.org/modules/les%20deux%20ourses/callisto_et_arcas.html
http://jeanlouis.vial.free.fr/geneamytho/galerie_gauche.php?gene=mytho&nom=ARCAS&num=2