オレステスの絵画14点。母親とその愛人を復讐の為に殺めた、ギリシャ神話の英雄 | メメント・モリ -西洋美術の謎と闇-

オレステスの絵画14点。母親とその愛人を復讐の為に殺めた、ギリシャ神話の英雄

スポンサーリンク



 オレステスはホメロスの叙事詩「イリアス」やアイスキュロスの悲劇「オレステイア」、エウリピデスの「タウリケのイピゲネイア」に登場する、ギリシャ軍側の総大将アガメムノンの息子です。
 トロイ戦争に勝利し、10年ぶりにミュケナイに凱旋するアガメムノン。しかしトロイアを陥落させる際、アガメムノンは娘イピゲネイアを生贄に捧げており、それを恨んでいた妻クリュタイムネストラは愛人アイギストスと共に彼を殺してしまいます。オレステスは姉のエレクトラと母への復讐を誓い、旅人に扮してクリュタイムネストラの元へ行きました。オレステスはまずアイギストスを殺害し、息子だと察した母が命乞いをするも、彼女を殺害してしまいます。復讐を果たしたオレステスですが、恐ろしい復讐の女神達(エリーニュス)が彼を取り囲んでパニックに陥ります。

 アポロンの神託でアテナイのアテネの神殿へ向かったオレステス。アポロンはオレステスを弁護し、エリーニュス達は告発します。裁判長のアテナが彼を無罪とした為、彼の罪は許されたのでした。復讐の連鎖は断ち切られ、復讐の女神は慈しみの女神へと姿を変えたのでした。
 では、母殺しの罪を背負ったオレステスの絵画14点をご覧ください。

 

「 ジョン・ダウンマン作  1750–1824年」
父アガメムノンの墓前に髪の房を捧げたオレステス。それを見た
姉エレクトラはその青年が我が弟であることを知ります。
オレステスは里子に出されていたので、二人は初めて出会ったのです。

「Jacopo Alessandro Calvi 作  1740-1815年」
エレクトラから父の仇の相手が母とその愛人だという事を聞きます。
殺める対象が実の母。それでもオレステスは復讐を誓うのでした。

「Bernardino Mei 作  1654年」
オレステスは旅人に扮装し、「息子は死にました」と嘘を付いて
クリュタイムネストラに近付きます。旅人になり切って警戒が
ゆるんだところで、オレステスは愛人アイギストスと母親を
剣で殺したのでした。

「カール・ラール作   1852年」
「俺はアポロンの導きで正義の復讐を果たした!」とオレステスは
思うものの、突然復讐の女神達が現れ、彼はパニック状態に
陥ります。どんなに逃げても、女神は追っかけてきます。

「Jacques Francois Ferdinand Lairesse 作  1850-1929年」
寝ている時も現れる復讐の女神たち。
女神が担いでいるのは母の遺体の幻影だと思われます。
お顔がくわっとして怖すぎます。

「ウィリアム・アドルフ・ブグロー作  1825-1905年」
「お前のしでかした事を直視しろ!」と復讐の女神達は母の遺体を
指さし、オレステスは耳を塞いで目を背けています。
夜中に本物の絵画を鑑賞したらトラウマになるかも・・・。

「Philippe-Auguste Hennequin 作  1762-1833年」
女神が大挙してやってきて、オレステスを狂気に陥れようと
しています。オレステスは逃げながらアテネの神殿へ行き、
神々の間で裁判となったのでした。

「アレクサンドル・カバネル作  1823‐89年」
肉体美を見せる非常に危ないアングルのオレステス。
その奥の暗闇に復讐の女神と母の遺体の幻が潜んでいます。
恐怖や狂気よりも、肉体に目が行ってしまいます・・・。

「ギュスターヴ・モロー作  1891年」
裁判長アテナの判決により、オレステスの母殺しの罪は赦される事に
なりました。復讐の女神達は慈しみの女神達(エウメニデス)に
変化し、世界に平和と調和がもたらされたのです・・・。

「Bertholet Flemalle 作  1646-47年」
アガメムノンによって生贄にされているイピゲネイア。
しかし、オレステスの後日談としてこんな話も語られています。
エウリピデスの「タウリケのイピゲネイア」によると、生贄にされた
はずの娘イピゲネイアは生きていたというのです。

「Nikolaas Verkolje 作  1732年」
イピゲネイアはケルソネソスの地でアルテミスの巫女をやって
いました。そこへオレステスと親友ピュラデスがアルテミスの神像を
求めてやって来ます。

「ベンジャミン・ウエスト作  1766年」
この地では他国人を生贄として女神に捧げることが掟とされており、
オレステスとピュラデスは捕らえられてしまいます。
イピゲネイアは彼を実の弟と知らずにいました。
「貴方達は女神様の贄になるの」と宣言しています。

「ピーテル・ラストマン作  1614年」
二人は生贄にされかかりましたが、イピゲネイアがオレステスが
弟だという事に気付き、彼女はオレステスと共に故郷へ帰ることを
決意。オレステスの目的であるアルテミスの神像を入手すると、
船に乗って三人は脱出を果たします。

「ヨハン・ハインリヒ・ヴィルヘルム・ティシュバイン作  1788年」
オレステスとイピゲネイアを描いた作品ですが・・・。
背後には復讐の女神さん達がガン見していますね^^;
一説には狂気を治す為に神像を入手したとされている為、
まだストーカーされているのですね。死んだ魚の目をしている・・・。

 また、神話の別の話によると、アテナにより無実を証明されたオレステスはさらなる復讐の旅へと出たそうです。
 手始めに、トロイ戦争の元凶を作ったスパルタ王妃である美女ヘレネを殺害。更にヘレネの娘であり元恋人であるヘルミオネが、アキレスの息子ネオプトレモスへ嫁いだため、決闘を申し込んでネオプトレモスを殺してしまいます。そうしてオレステスはミュケナイに戻って王となったそうです。
 折角アテナから無実の判決を受け、復讐の女神は慈しみの女神へと変化したのに・・・。復讐の連鎖はまったく断ち切られていませんね^^; しかもヘレネを殺めた理由が「父アガメムノンを戦争に連れ出し、家族崩壊の原因を作ったから」という、かなり一方的な感じ。元恋人がヘレネの娘だし、その婚約者殺したし、言い方は悪いですけれどオレステスをゲスに感じてしまうのは私だけでしょうか・・・?

→ パリスとヘレネについての絵画を見たい方はこちら

 

【 コメント 】

  1. 管理人:扉園 より:

     >> 季節風様へ
    こんばんは^^
    神話は複数の言い伝えが束ねられた物語になったという感じで、「実はイピゲネイアが生きていた話」と、「ヘレネ&ネオプトレモスを殺した話」は独立して考えた方がいいのかなと思います。
    確信はないですが、ヘレネを殺したバージョンのオレステスは「本当にイピゲネイアは生贄になっていた」パターンなのだと思います。
    もしイピゲネイアが生きていたとしても、殺したと思い込んでいる母は愛人と共謀して父を殺していたわけで、復讐が成り立つわけですが…。
    オレステスが生きたイピゲネイアを見たら、複雑な気分になって目が死にそうですね^^;
    これも運命の神の残酷な気まぐれなのかもしれません…。
    それにしてもドラマとして考えるのは面白いですねw^^

  2. 季節風 より:

    こんばんは。
    ドラマのシーズン3の終わりごろにイピゲネイア姉さんが実は生きていたと衝撃の展開と言いましょう。それならオレステスが母殺しにならなくても良かったのでは、オレステスの眼が死んでるのも無理ないです。エレクトラ姉さんは弟を見捨てたんじゃないでしょうけど不在。ドラマのシーズン4では自暴自棄になってヘレネやネオプトレモスまで殺害するようになったというとこでしょうか。

  3. 管理人:扉園 より:

    >> ちょうどオレステイア三部作を読み途中の人様へ
    こんばんは^^
    リアルタイムオレステイアですねw
    次回はアイスキュロスさんのご登場です。
    アトレウスの物語を今検索してきました。←ぇ
    親族殺し、不倫、人肉料理と禁断の要素がいっぱいですね。
    アガメムノン以上に血に塗れていたような…^^;
    あと、ここにもアイギストスが登場しているとは。
    オレステスよりもお姉さんの方が憎悪レベルが高いのかもしれません…w
    えっ「オレステイア」来年やるんですね!
    ちょっと今から検索してきます(笑)
    CMやるかな~^^

  4. ちょうどオレステイア三部作を読み途中の人 より:

    『アガメムノン』を読み終えて、いま『供養する女たち』の途中です。
    重厚な感じで、けっこう時間がかかる……中古本でなぜかタバコくさいし。←
    『イリアス』で「アトレウスの子」という表現をなんども見ていたものの、じっさいアガメムノン兄弟のお父さんがどういう人だったのか知らなかったので、そんな血塗られた家系だったのかと驚いております。
    それにしても、エレクトラの発する憎悪のことばが、悪魔のように思えてくるのは私だけでしょうか……(笑)
    そういえば、アイスキュロスのオレステイアを原作とした舞台『オレステイア』が、来年日本で上演されるらしい……

タイトルとURLをコピーしました