
「エルサレム解放 (解放されたエルサレム)」は1581年に出版された、イタリア詩人トルクァート・タッソ作の叙事詩です。第一回十字軍へ赴くキリスト教の騎士たちが、エルサレムを奪い返す為にムスリムと戦ったり、恋に落ちたりする様子が書かれています。
キリスト教徒の恋人達が互いを護ろうと「私が犯人です」とムスリムの王に嘆願していたところ、ムスリム側の女騎士クロリンダが二人を救いました。その後、クロリンダはキリスト教騎士タンクレーディを愛してしまいます。しかし、アンティオキアの王女エルミニアも彼を愛してしまい、クロリンダに対して激しい嫉妬を感じました。彼女がクロリンダの武具を盗んだところ、キリスト教徒に間違われて攻撃されてしまい、逃げて羊飼いの一家に助けられました。クロリンダは夜襲の際、誤って恋人タンクレーディに殺されてしまいます。彼女はこと切れる際、キリスト教に改宗しました。
一方、魔女アルミーダは魔法で一部の騎士を動物に変え、彼女は最強の騎士リナルドを誘拐してしまいました。リナルドを愛したアルミーダは、骨抜きにして魔法の島で一緒に暮らすことにしました。彼の友人二人が塔に潜入し、愛に溺れたリナルドを正気にして戦場へと戻すことに成功します。怒ったアルミーダは復讐を誓ったのでした。軍に戻ったリナルドはムスリムの魔術師を破り、十字軍は兵器を使ってエルサレムの奪還に成功します。
魔女アルミーダはリナルドを殺した者と結婚すると宣言しますが、彼を破る者は誰もいませんでした。しかし、タンクレーディが宿敵との決闘で大きな傷を負ってしまいます。キリスト教に改宗していたエルミニアは自らの髪を切って傷口を縛り、それを癒しました。破れ絶望するアルミーダは自ら命を絶とうとするものの、リナルドはそれを止めてキリスト教に改宗するよう懇願します。アルミーダもそれを受け入れたのでした。
では、戦と愛と改宗の叙事詩「エルサレム解放」についての絵画13点をご覧ください。
「Louis Ducis 作 1819-22年」
エレオノーラ王女に「エルサレム解放」を聞かせるタッソ。彼女は
エレオノーラ・デ・メディチさんか、エレオノーラ・ダウストリアさんか
どちらかだと思われます。
「ヨハン・フリードリヒ・オーファーベック作 1819-27年」
ゴドフロワ・デ・ブイヨンの聖別を描く作品。第一回十字軍の
指導者の一人です。彼は死後英雄として考えられ、その武勲を
詩人に詠われています。
「ウジェーヌ・ドラクロワ作 1856年」
罪を自分に着せて互いを庇おうとした恋人のオリンドとソフロニア。
二人が刑に処された時、颯爽と現れて助ける女騎士クロリンダ。
立派な馬に乗り、勇ましいお姿です。彼女はムスリム側ですが、
キリスト教の騎士タンクレーディを愛してしまいます。
「ジョバンニ・デ・ミン作 1823年」
タンクレーディに思いを寄せるエルミニアは恋人クロリンダに嫉妬を
覚え、彼女の武具を盗んでしまいます。そのせいでキリスト教側に
攻撃を受け、逃げ延びている間に羊飼いの家にかくまわれたのでした。
「ドメニコ・ティントレット作 1585年」
悲劇は突然訪れます。タンクレーディは誤ってクロリンダを攻撃してし
まったのです!彼女はキリスト教に改宗し、こと切れてしまいます。
こちらは有名画家ジャコポ・ティントレットの息子さんの作品。
彼の姉と弟も画家になっており、父の工房をサポートしていました。
「アンソニー・ヴァン・ダイク作 1599-1641年」
魔女アルミーダは騎士を動物に変えて悪事をしていたものの、
最強騎士リナルドがすやすやと眠っているのを一目惚れ。
彼を魔法の島に拉致し、骨抜きにしてしまいます。
最強の騎士なのに脆すぎるって!
「ジョヴァンニ・バッティスタ・ティエポロ作 1742-45年」
「俺、アルミーダ大好き!」「うふふ~永遠に一緒よ」と魔術で
べろんべろんにされているリナルドの元へ、友人であるカルロと
ウバルドが助けに来ます。
「Matteo Rosselli 作 1627年」
愛に溺れたリナルドに「お前の顔はこんなにみっともないぞ!」と
友人はダイアモンドの盾に映る自分の姿を見せています。
リナルドがなんだか乙女チックですね^^;
「フランチェスコ・マッフェイ作 1650-55年」
こちらもすっかり頭がお花畑になってしまっているリナルド。
盾に映る顔を見ても、まだぽやーんとしているようです。
「早く目を覚ませリナルド!戦場がお前を待っている!」
「Charles Errard 作 1640年」
「はっ、俺は何をやっていたんだ!」と目覚めたリナルドは、
追いすがるアルミーダを見捨て、戦場へと戻る事にしました。
魔女は「私を捨てた罪は重いわよ・・・」と復讐を決意します。しかし、
リナルドの誠実な愛に負けた彼女はキリスト教に改宗したのでした。
「ジョバンニ・アントニオ・グアルディ作 1750年」
一方、タンクレーディは宿敵アルガンテとの決闘で大怪我を
追ってしまいました。瀕死の彼を見つけたエルミニア。
慌てて彼の介抱を行います。
「二コラ・プッサン作 1634年」
エルミニアは自らの髪をばっさりと斬り、タンクレーディの傷口に
髪を巻き、治療をしました。このテーマはリナルドとアルミーダの
愛の作品と並び、よく描かれています。
「Alessandro Turchi 作 1630年」
傷付いて死にそうなタンクレーディを膝に置き、泣きながら髪を
切ろうとしているエルミニア。 愛する人を助けた後、彼女はそっと
修道院へ行ったそうです。なんだか切ないですね。
ふざけた様子で書いてしまいましたが、結構この物語は陰惨でシリアスな描写が多いそうです。(実際に読んでなくてすみません^^;)
それにしてもリナルドとアルミーダの物語、ギリシャ神話の英雄オデュッセウスの物語に似ているような気がします。魔女キルケの住む島に着いたオデュッセウス一行。キルケは部下達を豚に変えてしまい、オデュッセウスはキルケの魅力にやられて一年間一緒に過ごします。部下達の「故郷に帰りたい」という声にやっと我に返ったオデュッセウスはキルケと別れることにしたのでした。
男を動物に変える魔女に骨抜きにされた英雄。かなり共通していますね。ただ、この先の展開が異なり、アルミーダが「許せない!」と復讐に走ったのに対し、キルケは「気を付けてね」と彼にアドバイスをしてくれています。
また、ギリシャ神話にもう一人魔女メディアがいます。ストーリーこそ違えど、彼女は英雄イアソンの裏切りに対し、これでもかというくらい恐ろしく陰惨な報復をします。アルミーダはキルケのメディアの物語を基盤にして生まれた魔女なのかもしれませんね。
→ 魔女キルケについての絵画を見たい方はこちら
→ 英雄イアソンとメディアについての絵画を見たい方はこちら
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