シェイクスピアの悲劇リア王の絵画14点。コーデリアを捨てた王は狂気の道を進む | メメント・モリ -西洋美術の謎と闇-

シェイクスピアの悲劇リア王の絵画14点。コーデリアを捨てた王は狂気の道を進む

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 「リア王」はシェイクスピア作の四大悲劇の一つで、三女を信じなかった為に悲劇を招いた王の物語です。
 ブリテン王リアは、三名の娘に王国を譲ることにしました。ただし、「わしに愛を告げてくれるなら」という条件がありました。上の二人はおべっかを使ってリア王を褒めちぎり、思うままの領地を手に入れましたが、三女コーデリアだけは父を思うあまり、上辺だけの甘言を言う事ができませんでした。王はコーデリアの態度に激怒し、庇ったケント伯共々勘当してしまいます。コーデリアはそのままフランス王妃となりました。しかし、それが悲劇の始まりでした。娘二人はリアを邪険にし、居場所を与えなかったのです。一方、リアの重臣グロスターには二人の息子エドガーとエドマンドがいました。エドマンドは領地を狙っており、父を騙してまんまと相続権を手に入れ、エドガーは追放されてしまいます。

 リアは道化と嵐吹く荒野をさまよう羽目になり、それを発見したケントは二人を小屋に引き入れます。その中には変装したエドガーもおりました。三女コーデリアは父を救うべく、フランス軍を進軍させていましたが、グロスターはフランスと通じているとエドマンドに密告され、両目をえぐられて追放されてしまいます。絶望に陥ったグロスターをエドガーが慰めます。コーデリアは父と再会し、二人はやっと和解したのです。しかし、ブリテン軍との戦争によってコーデリアとリアは捕虜になってしまいます。ここから、悲劇の連鎖は続いていきます。長女は次女を毒殺し、自らは自害しました。エドマンドはエドガーと決闘して打ち倒され、コーデリアは刺客に獄中で殺されてしまいます。リアはコーデリアを抱きながら嘆き悲しみ、命尽きてしまうのでした・・・。
 王位と愛と狂気が渦巻く「リア王」の絵画、14点をご覧ください。

 

「ヨハン・ハインリヒ・フュースリ作  1784-90年」
リア王が気まぐれで「誰が一番わしを愛している?」と言ったら、
二人の娘は褒めちぎってくれたのに、三女コーデリアだけがそっけない
返答をしたのでリアは激怒し、彼女を勘当してしまいます。
考え直すよう進言したケント伯共々です。

「作者不詳  1770年」
こちらも激おこなリア王、止めようとする部下、余裕そうな姉二人、
うなだれるコーデリア、異論を唱えるケント伯が描かれていますね。
その後、コーデリアはフランス王妃となり、ケント伯は変装してまた
舞い戻ってきます。

「グスタフ・ポープ作  1875-76年」
権力に目がくらんだ姉ゴネリル&リーガンと、実直に正論を言った
コーデリア。双方の対照的な性格は、表情と衣服の色によって
表されています。

「ウィリアム・ブレイク作  1757-1827年」
リアは姉二人に裏切られ、快適な余生どころか嵐吹く夜の荒野に
追い出されてしまいます。罵詈雑言を吐きながら、リアは道化と
共に荒野を歩き続けます。
→ ブレイクの他の作品を見たい方はこちら

「アリ・シェフェール作  1834年」
両手を広げて天へと呼び掛けているかのようなリア。
傍らには背中の曲がった道化がおり、彼の愚かさを揶揄しています。

「ジョージ・フレデリック・ベンセル作  1837-79年」
目に狂気は宿っているものの、その風貌は王の威厳を称えています。
それに、道化がやたらとイケメンです。見栄えのある格好いい作品
なのですが、物語の背景を知っていると恐ろしく感じてしまいますね・・・。
→ 道化師についての絵画を見たい方はこちら

「ジョージ・ロムニー作  1761年」
リアは狂気に陥る余り、嵐の中で服を脱いで裸になろうとします。
エドガーは裸のトムと名のって狂気に陥ったふりをしていたので、
人間の化けの皮を剥ぎ取る、真実に迫り正直になるという意味で
服を脱ぐシーンを入れたのでしょうか。

「ジョン・ランシマン作  1767年」
嵐の中、リアはケント伯と合流し、小屋に入るとエドガーと、
重鎮であるグロスターと出会います。セピア調の色彩で、
テンペストの荒々しい感じが表れていますね。

「ベンジャミン・ウエスト作  1788年」
天を見上げるリアを中央にして、囁くようなそぶりを見せる道化、
粗末な身なりをしたエドガー、赤い衣服を着たケント伯、その下に
グロスターが描かれています。演劇の舞台のような、劇的な感じですね。

「フォード・マドックス・ブラウン作  1821-93年」
ケント伯らの必死の努力により、リアはフランス側にいるコーデリアと
再会を果たします。しかし、リアは狂気に陥っており、訳の分からない
ことを話すのでした。

「ベンジャミン・ウエスト作  1793年」
コーデリアの必死な声かけにより、彼は目を覚まします。
勘当した自分の非を詫び、娘への愛を告げるリア。
彼女も父への愛を語り、二人は和解したのです。

「ロバート・スマーク作  1792年」
その時、リアは地位や土地、金も一切虚しいものだと悟ります。
上手なおべんちゃらや美辞麗句には中身がなく、コーデリアの
控え目な愛こそが真実だと理解するのです。

「ジョージ・W・ジョイ作  1844-1925年」
親子は束の間の平和を味わいます。
しかし、フランスとブリテンは激突してフランス軍が敗北してしまい、
リアとコーデリアは捕虜となってしまいます。

「ジェームス・バリー作  1786-8年」
コーデリアは獄中で絞首刑にされてしまい、愛しい娘の亡骸を抱き、
リアは嘆き悲しんで命尽きてしまいます。姉ゴネリル(?)とエドマンド
の死も描かれているようです。
その後、エドガーとケント伯によって王国は再建されるのでした。

 リア王の物語は「ブリタニア列王記」に登場するブリテン王レイアをモチーフにしています。
 レイアはゴルノリラとレガウ、コルデイラという三名の娘がおり、彼女らに国を継がせようと考えていました。二人の姉は父のご機嫌を取ったのに対し、妹だけは父を愛すのは当然と思い無言だった為、レイアを激怒させてしまいます。彼は二人に国を与え、コルデイラには何も与えませんでした。コルデイラはフランク王国へ嫁ぎ、レイアは姉たちの元で余生を暮らそうとします。しかし、姉たちは父を冷遇したのです。悲しんだレイアは海を渡り、三女のいるフランクへと向かいました。コルデイラは父を篤くもてなし、復権の為に力を貸すことを約束し、レイアは大軍を率いて姉たちの国へと進軍して打ち倒します。王位を復活させたレイアは三年間ブリテンを統治し、その後はコルデイラに権威を譲ったとされています。

 話の骨子としては非常に類似しておりますが、最も異なるのはラストの展開でしょう。「ブリタニア列王記」ではハッピーエンドで終わらせていますが、シェイクスピア作ではバッドエンド以上の悲劇。登場人物をほとんど殺しています。シェイクスピアでは人間の欲望や脆さ、愚かさ、狂気が如実に語られています。悲劇の展開になるからこそ、人間の真実が浮き彫りになるのかもしれませんね。

 

【 コメント 】

  1. 管理人:扉園 より:

     >> 待ってました。様へ
    こんばんは^^
    エドマンドやコーンウォールとの諍いより、味方が集ったシーンやリア王の狂気の方を重視しているんですよね。
    真夏の夜の夢なら読んだ事があるのですが、皆が順番に立て続けに話していると、訳が分からなくなった部分がありました^^;
    やはり本で読むのと舞台で観るのでは異なりますよね。
    エドマンドとエドガーの兄弟は、旧約聖書のヤコブとエサウをなんとなく思い出しました。
    ただ、ヤコブとエサウは後に仲直りをしますけど、シェイクスピアは悲劇に…。
    1985年のだいぶ古い映画でも、最近上映されているんですね。しかも4K。
    まだ4K映画を観たことがないなぁ…。
    画像を見ると結構怖そうな感じですね(笑)

  2. 待ってました。 より:

    待っておりました、『リア王』特集^^
    嵐のシーンが人気なのですね。
    私が一番衝撃を受けたのは、コンウォール邸での暴虐のシーンなのですが。
    『リア王』は、例の嵐のシーンで複数の人物が会話をしているところの構造がおもしろいな、と。
    文字で読むと誰に対してのセリフかというのが一瞬わからなくなるときがあったりしますが、
    そういやこの人は、この人の正体をまだ知らなくて……
    と、情報を整理して読むと、シーンが浮かんできてより楽しめます。
    あ、そばにいることを知らずに言ってるのだな、と(笑)
    実は私、まだ劇場で観たことがなくて……^^;
    黒澤明監督の翻案した『乱』という映画なら、最近 4K上映があって観ましたが。

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