オディロン・ルドン(1840-1916)は、幻想的で個性あふれる作品を手掛けたフランスの画家です。
本名はベルトラン・ジャン・ルドン。名は父から由来しているものの、ルドンは母の愛称「オディーユ」からとった「オディロン」という名前を終始用いていました。彼は南フランスの都市ボルドーで裕福な家庭に生まれた次男でしたが、母親は長男を溺愛しており、ルドンは生後二日目にして田舎町ペイル・ルバードへ里子に預けられます。11歳になるまで親元を離れて寂しい思いをして育ったルドンは、絵を描いたり、森を歩いたり、本を読んだりして一人遊びをする内向的な子供となりました。
厳しい父の言いつけで建築家の試験を受けたものの不合格となり、20歳の頃に植物学者と知り合って微生物の魅力に憑りつかれたルドンは版画を手掛けるようになります。24歳の頃に単身パリへ出た彼は何人かの芸術家の指導を受けました。普仏戦争を生き延びた後はパリで定住し、カミーユ・ファルグと結婚します。個展の開催や画集を出したルドンは徐々に名が売れていくようになりました。彼の作風は独特で、誰も真似ができないものでした。ルドンは孤独な心に住まう無意識を作品に反映させたのです。
ルドンが46歳の時に待望の長男ジャンが生まれたにも関わらず、直ぐに亡くなってしまいます。この頃の画風はかなり暗く、鬱々としたものでした。しかし、3年後に次男アリが誕生した事でルドンの作風は一変します。色彩が踊るかのようなカラフルなパステル画を手掛けるようになったのです。世間からも作品が認められ、現代美術の最先端として有名な展覧会にも出品しました。ルドンの最期は風邪による免疫力の低下でした。元々病弱だったのと、次男アリが従軍して行方不明となった為に心配が祟ったのでした。死後もルドンの作品は人々に不思議な感覚を与え続け、シュールレアリスト達は彼を偉大な先駆者として見なしているのです。
では、オディロン・ルドンの絵画17点をご覧ください。
「ダヴィデとゴリアテ 1875年」
旧約聖書より。青年ダヴィデは石を投げて巨人ゴリアテを倒し、
首を斬って手柄を示したのでした。ルドンの作品は物語と全く異なり、
男が巨人の首の髪を触っておりますね。その背中は後悔しているかのよう・・・。
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「ノーム(地の精) 1879年」
火水地風を司る四大精霊は、16世紀の錬金術師パラケルススが
提唱した存在です。ルドンはその中の地の精霊ノームを描いています。
人面のノームは耳から羽が生え、毛かパワーかに包まれているかの
ようです。実際にルドンはこれが見えていたかもしれませんね。
「イカロスの墜落 1876年」
ギリシャ神話のイカロスは蠟で固めた翼で飛ぼうとしたものの、
太陽に近付きすぎた為に墜落した少年です。巨大な首が・・・。
神秘的で言語の粋を超越しているので、見て感じましょう。
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「水面のオルフェウスの頭部、または神秘主義者 1880年」
ギリシャ神話の吟遊詩人オルフェウスはトラキアの女達に八つ裂きに
され、頭と竪琴は河に流されてしまうのです。この作品の頭部は
ただ静かであり、無意識の水面を漂っているかのよう・・・。
→ オルフェウスの死についての絵画を見たい方はこちら
「泣いている蜘蛛 1881年」
ルドンはたびたび人面蜘蛛を描いており、こちらは涙を零しております。
蜘蛛は物陰に潜んでこそこそっと動くので、それが無意識の暗闇の
中を這っていると連想したのかもしれませんね。
「子供の顔をした花 1882年」
無表情でじっとこちらを見つめる子供の顔・・・。寂れた田舎町で幼少期を
過ごしたルドンは、動かない植物と自分を重ね合わせたのでしょうか。
昔の鬱屈とした感情、寂しさ、心苦しさを表した作品なのかもしれません。
「目は奇妙な気球のように無限に向かう 1882年」
ルドンの版画の中では有名な作品。彼はこの同モチーフを繰り返し
表現しています。視覚や思考の回路は飛翔し、無限へ向かうという
テーマなのかなと思いますが、ルドンは作品を解説したり決めつけたり
するのを嫌がりそうですよね。
「the distributer of crowns (冠の分配者?) 1882年」
題名からして分からなかった作品。スキンヘッドの男が二つの
冠を指さしています。様々な解釈が成り立ちそうですよね。
「起源(サイクロプス) 1883年」
上目遣いな巨大な一つ目に、にやっと笑う口。子供の頃にこの絵画を
見ていたら、間違いなくトラウマになっていましたw なんだか心の奥が
ざわざわする、不気味めいた雰囲気を出しておりますよね。
この深層心理の恐怖が起源に繋がる・・・!?←ぇ
「赤死病の仮面 1883年」
エドガー・アラン・ポーの短編小説に基づいた作品。疫病で多くの者が
死ぬ中、王達は城に籠って宴を開きます。そこへ疫病の擬人化が入り・・・。
象徴的に使われた時計、不気味な人々が表現されていますね。
象徴主義者ジャン・デルヴィルも同テーマで描いています。
「枝の上のキャリバン 1881年」
枝に座る小鬼のような怪物キャリバン。この怪物はシェイクスピアの
「テンペスト」に登場するそうです。劇中では「四本足で、魚と人間の間
のような怪物」とされています。ルドンが描くキャリバンは異形である
けれども、目に深い意志を称えた賢者のようですね。
「沼の花、悲し気な人間の顔 1885年」
沼の中に一輪の花。その花は老人の顔で、何かを訴える様子で
こちらを見ています。人面植物も彼が繰り返し描いたテーマ。
この時ルドンは45歳なので、もしかしたら自分を反映しているのかも・・・。
「森の精 1890年」
優し気な表情をした骨の姿の少年。不気味とも思える構成なのですが、
個人的に恐怖や不安は感じず、森の奥の静寂や奥底の生命の動き
と言ったものを感じます。この時代以降、ルドンの作風は一変します。
「アポロンの御車 1907年」
次男アリが産まれたのを転機として、ルドンは水彩やパステルを
用いた明るい色彩の作品を描くようになります。音楽や太陽を
司るギリシャ神話の神アポロンを描いたこの絵画は、色彩だけではなく
雰囲気も力強さが出ているようですね。
「聖セバスティアヌス 1911年」
キリスト教の聖人セバスティアヌスは敵に矢を射られても生き延びた
という伝説があります。ルドンは宗教画も幾つか残していますが、
この作品は花が咲き乱れ、美しくも感じますね。
→ 聖セバスティアヌスについての絵画を見たい方はこちら
「サイクロプス 1914年」
ルドン作で最も有名な絵画。某ドラマにも登場しましたね。
ギリシャ神話だと乙女をさらう獰猛な魔物なのですが、このサイクロプスは
恥じらいや憧れを以て優しく乙女を見つめているようです。
ちょっと可愛いかも・・・。
「深海生物 1916年」
深海は宇宙と同じく未知の領域でした。ルドンは想像力を膨らませ、
このような奇妙な生物を考え出したのです。ラブカとかメガマウスとか
メンダコとか、実際の深海生物をルドンに見せたらどんな反応を
示すのでしょうか。喜んで、もっと想像力が増すのかもしれませんね。
現在、東京の三菱一号館美術館にて「ルドン―秘密の花園」展が、5月20日まで開催されています。
この展覧会を受けて記事を書こうとしていたのですが、なかなか書けずにこんな日にちになってしまいました・・・。^^;遅すぎますね。(2月8日より開催) ルドンの作品に頻繁に表れる「植物」というテーマに焦点を当てた、前例のない展覧会となっております。まだ遅くはありませんよ。興味がある方はぜひルドン展へ!
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