猿の絵画13点。17世紀のフランドルで流行した、人を猿に置き換える風刺&民衆画 | メメント・モリ -西洋美術の謎と闇-

猿の絵画13点。17世紀のフランドルで流行した、人を猿に置き換える風刺&民衆画

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 猿がまるで人間のように描かれた絵画を見たことがあるでしょうか。
 猿が絵を描いていたり、彫刻をしていたり、お茶をしていたり、煙草を吸っていたり・・・。猿の絵画が登場したのは16世紀頃で、ブリューゲルなどのフランドル画家が始まりとされており、17世紀にダフィット・テニールス(子)が多く手がけると猿画の流行が起こりました。
 西洋において、猿はあまり良いイメージを持たれておらず、「ケチ」「見栄っ張り」「ずる賢い」「物まね師」などの負の性格を象徴しています。時に悪魔の化身として描かれ、鎖に繋がれた猿は「悪の敗北」を意味します。猿は人間や社会の不合理で愚かな面を風刺するのに使われ、テニールス(子)や他の画家達は人間を猿に置き換えた猿画を描きました。しかし、猿画は悪い面ばかりではありません。滑稽な人々を温かい目で見て、冗談や茶目っ気の気持ちを込めて描いた作品もあるのです。
 では、猿の風刺&民衆画の絵画13点をご覧ください。

 

「ピーテル・ブリューゲル(子)作  1564‐1636年」
ブリューゲルの息子は部屋いっぱいに群がる猿を描いています。
勿論これは人間社会を猿化したもので、ブドウをこぞって食べたり、
喧嘩したり、遊び合ったりと賑やかな感じですね。

「Hieronymous Francken (子) 作  1578‐1623年」
猿の理容師が猫のお客さんを散髪している絵画。
猫は気難しい客を表しており、見よう見まねでやる下手な散髪には
我慢ならないと言った感じでしょうか。動物でも感情豊かな表情ですね。

「Frans Francken (子)作  1581‐1642年」
猿たちが遊んでいるのはバックギャモンというボードゲームであり、
自軍の駒が全てに向こう側へ行った方が勝ちとなります。
賭博も行われましたが、画家は猿の表情を個性的に楽し気に描いて
いるので、批判しながらも温かい目で見ていそうですね。

「セバスチャン・ヴランクス作   17世紀」
猿の兵士に捕まる猫の捕虜たち。猿たちは猿の惑星のように武器を
操り、異種の者を取り調べしようとしています。。画家は兵士という
存在をあまり良く思っていなかったのでしょうかね。

「フェルディナンド・バン・ケセルの追随者作  17世紀」
煙草を吸う猿たち。当時、お父さんたちはこうして煙草を吸いながら、
たむろして色々喋っていたのでしょうね。
果物に手を出そうとしている子猿が可愛い^^

「ヤン・ブリューゲル(子)作  1640年」
チューリップ愛好者の寓意と題された作品。オランダと言えば
チューリップですが、トルコが原産地で16世紀頃にオランダに
輸出されたそう。伝わったばかりの美しい花は大ブームとなり、
風刺されてしまう程の人気ぶりがあったのですね。

「ダフィット・テニールス (子)作  1610-90年」
学校としての猿たち。一匹の子猿は何かをやらかしたようで、先生猿
にお尻ぺんぺんをされています。部屋の向こう側では大人たちが
話しており、当時の学校はこのような感じだったのですね。
テニールスの茶目っ気が伝わる作品です。

「ダフィット・テニールス (子)作  1610-90年」
「居酒屋」という題の作品。民衆画を多く手がけたテニールスに
とって人々は「楽しくあり賢くあり、愚かであり愛すべき人々」と言った
感じなのでしょうか。黄色い服の猿は店主に怒られているようですが、
食い逃げ常習犯!?

「ダフィット・テニールス (子)作  1610-90年」
テニールスは再び煙草を吸う猿を描いていますね。フクロウは
「知恵」と「邪悪」という善悪二つの象徴を持っており、悪だけど
良くもある猿と似た境遇であるように思います。

「ダフィット・テニールス (子)作   1690年」
「ご飯を待つ猿たち」。パンは既にできており、各々に切り分けて
食べていますが、肉はまだこんがりと焼けておらず待っているようです。
猿たちは行儀よく座っているし風刺する部分もないので、テニールスは
猿画が楽しくなってこの絵画を描いたのかもしれませんね。

「アブラハム・テニールス作  1629‐70年」
テニールス(子)の兄弟であるアブラハムさんも猿画を描いています。
煙草を吸っていたり、ゲームをしていたりと好き放題にくつろいで
いますね。こちらも批判精神の無いカリカチュアといった感じでしょうか。

「アントワーヌ・ヴァトー作  1710年」
雅な宮廷絵画を描いたロココ美術のヴァトーも猿画を描いています。
猿の表情は優し気でお仕事も上手そうなので、彫刻家を批判している
ようには見えませんが・・・。モデルの彫刻家が猿そっくりだったとか??

「エドウィン・ランドシーア作  1827年」
「世界を見た猿」と題された作品。明らかにこの貴族風情の猿を
風刺しているのが分かるのですが、一体誰なのかが分かり
ませんでした・・・。画家はイギリス人で、この絵画の年代が1827年
だと、当時の王ジョージ四世でしょうか?うーん分からない;;

 猿は意外にもヨーロッパやアラビア半島の北部、北アメリカ大陸や西アジア周辺には生息しておりません。西洋の人が猿を見ようとするなら、北アフリカやアラビア半島北部、東南アジア周辺から連れてくる必要があるのです。ローマ時代から北アフリカなどの交易があったことから、古代から猿を知っていたと思われますが、馴染みがない生物であったと推測できます。異教の国の獣であり更に知能がある猿は、悪魔の使いだと思われるのは自然な成り行きだったのかもしれません。
 しかし、珍しい猿を飼うことが貴族の一種のステータスになっていたという事もあり(テニールス(子)も猿を飼っていたという噂があります)、猿が全面的に嫌われていた訳ではないように思います。「猿画」というテーマは「ケチや猿真似をする人間を、低能だと批判している」というだけではなく、「人間もしょせん動物なんだ。楽しくいこうぜ」というような意味合いも含んでいるように感じられます。

 

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