魂の幻視者であるウィリアム・ブレイクの作品15点と2編の詩。ロマン主義の画家詩人 | メメント・モリ -西洋美術の謎と闇-

魂の幻視者であるウィリアム・ブレイクの作品15点と2編の詩。ロマン主義の画家詩人

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Cherubim and Eyed Wheels - 1803-05 -

 ウィリアム・ブレイクは1757-1827年(満69歳)に活動した、ロマン主義の画家と詩人です。
 彫刻家に弟子入りし、始めは銅版画家として生計を立てていましたが、国家扇動の罪に問われて裁判にかけられてしまいます。勝訴をしたものの、この事件はブレイクに大きな影響を与え、シンプルなものを難解な、象徴的なものとして表現するという技法をあみ出しました。
 「幻視者」という異名を持ち、ブレイクは次々と神秘的、霊的な作品を作っていきます。初期は神秘思想家エマヌエル・スウェーデンボリの影響を受け、「ミルトン」「エルサレム」など独自の象徴的な神話を構築していきました。詩人としても活躍し、「無心と経験の歌」「天国と地獄の結婚」等の神秘的で深層的な詩を生み出しました。
 幻想に彩られた、未知なる世界の挿絵15作品と詩二編をご覧ください。






「ニュートン  1795年」

ニュートンの身体は岩(自然)に溶け込んでいます。科学社会を風刺した作品。
Blake's Newton (1795)

「大いなる赤い龍  18世紀」
ヨハネの黙示録で登場する悪魔の化身である赤い龍。
龍の背面がムキムキです。ブレイクが描く人物がマッチョなのは、
彼がルネサンスの画家ミケランジェロを崇拝していたからだとか。
blasfh-the-red-dragon-and-woman-cothing

「大いなる赤い龍と、太陽の衣を纏った女性  18世紀」
黙示録の終盤辺りで子を宿した女性が登場します。女性は龍に
襲われそうになりますが、無事に逃げ延び、男の子を出産します。
龍は地の底に投げ落とされてしまいます。
→ ヨハネの黙示録の絵画を見たい方はこちら
The Great Red Dragon and the Woman Clothed with Sun (1805)

「エニサルモンの夜の喜び(ヘカテ)  1795年」
ギリシャ神話に登場するヘカテは夜や地下、月などを象徴する女神でした。
未来を幻視する能力を持ち、魔術思想の深い女神であり、
夜の十字路などの交差点に表れると考えられておりました。
The Night of Enitharmon's Joy, 1795

愛の園

私は愛の園へはいって行き、
かつて見たことのないものを見た―
私がいつも遊んでいた芝生の真中に
礼拝堂がつくられているではないか

この礼拝堂の入口は閉ざされて、
扉には「汝…すべからず」と書いてあった。
それで 私は愛の花園へと向った。
かぐわしい花のかずかずが咲いていたところの。

しかし 私は見た、園いっぱいの墓、
咲いているべき花の代りの墓石
そして 黒い法衣の僧が、
めいめいの持場を歩きまわり、
私の喜びや望みをいばらで縛りつけているのを。

引用元―ブレイク詩集―無心の歌、経験の歌、天国と地獄との結婚 (平凡社ライブラリー)


「Sconfitta (敗北)  1795年
月に祈りを捧げている男。絵画のストーリーは不明ですが、
月の深い神秘性と、男の切実な祈りが感じられる作品です。
Sconfitta - Frontispiece to The Song of Los 1795

「イヴを歓待しているサタン  18世紀」
知恵の実を食べて罪を得てしまったイヴには凶悪そうな
蛇が巻き付いており、サタンは上空を飛来しています。
→ アダムとイヴの原罪の絵画を見たい方はこちら
Satan_Exulting_over_Eve

「ヨブを責めるサタン  18世紀」
「ヨブの信仰心は偽りである」とサタンは神に進言し、ヨブの敬虔さを
試す為にサタンはヨブに様々な試練を与えます。
しかし、ヨブはあらゆる苦難を乗り越えて信仰心を示したのでした。
1826

「ドラゴン(サタン)を縛る聖ミカエル  
龍の姿をしたサタンを、天使ミカエルが地の底へ落とそうとしています。
ミカエルの腰の捻り方が半端ないです。
→ サタンとミカエルの戦いの絵画を見たい方はこちら
Michael Binding Satan 1805

「善と悪の天使  18世紀」
襲い掛かる堕天使から子供を守っている善の天使。ブレイクの作品は
光と闇の葛藤というか、その二つの比較と融和が感じられます。
天国と地獄の結婚をテーマにした詩もありますしね。
Good and Evil Angels

毒の木

私は友に対し腹を立てた、
私はその怒りを告げた、怒りはとけた。
私は敵に対し腹をたてた、
私はだまっていた、私の怒りはつのった。

私は恐れをいだき、私の涙で
朝な夕なそれをうるおした
またほほえみでそれを暖め、
柔らかなかけひきのいつわりで それを育てた。

私の怒りは 木となって 昼も夜も成長し、
遂にりんごのような美しい実をむすんだ。
私の敵はそれが日にてり映えるのを見、
それが私のものであると知った。

ある夜 闇が空を覆うたとき、
彼は私の庭にしのびこんだ、
そして 次の朝 よろこんで私は見た
私の敵が木の下でのびているのを。

引用元―ブレイク詩集―無心の歌、経験の歌、天国と地獄との結婚 (平凡社ライブラリー)

「サタンの栄光  18世紀」
かつては神の直属の部下であったサタン(ルシファー)。
非常に美しい容姿をしていましたが、嫉妬や己惚れによって神に反逆し、
共謀の天使達と地に落とされて悪魔になってしまいます。
→ 堕天使の絵画を見たい方はこちら
satan glory


「ヨブの書よりベヒーモスとリヴァイアサン  1793年」
旧約聖書に登場する巨大な陸の怪物と海の怪物。
二頭は陸と海の最強の生物とされ、世界の終末の際には、
両者は矛と盾の物語のように戦い合うとされます。
Behemoth and Leviathan-1805

「ケルベロス  1920年」
ギリシア神話に登場する三つの頭を持った地獄の番犬。
ブレイクが描くと非常に不気味にみえます。
→ ケルベロスの絵画を見たい方はこちら
Cerberus

「蚤(のみ)の幽霊  1820年」  
幻視者であるブレイクはこの怪物を見たそう。
蚤の幽霊がこんなムキムキ姿だったら怖すぎる!
でも、星が散って案外ポップな幽霊さんなんですね。
The Ghost of a Flea, 1819–1820

「旋風 -エゼキエルのヴィジョン-  18世紀」
バビロン捕囚で連行されたエゼキエルが、神の幻視を見たという物語より。
ブレイクはこのような幻視を想像したのでしょう。個人的に好きな絵です。
Cherubim and Eyed Wheels - 1803-05

 ブレイクの作品を見て、「異常だ」と彼の精神状態を疑う人もいますが、私はそう思いません。
 一目見て「ブレイクの作品だ」と思わせるような強烈な個性を出すのは、努力だけで培えるものではなく、相当難しいと思います。そういった個性を出せるブレイクを尊敬します。詩に関してもバイロンやハイネとは異なり、美しさや哀愁をテーマとしておらず、象徴的で神秘的なフレーズが散りばめてあるのが良いと思いました。
 「画家は聞いたことあるけど、作品は知らないなぁ」より「名前は忘れたけど、この作品知ってる!」と思っていただけるような、作品を描いていきたいなぁと私は思います。



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