ディオゲネスは紀元前4世紀の古代ギリシアの哲学者で、アンティステネスの弟子、ソクラテスの孫弟子とされています。キュニコス派(犬儒派)の思想を守り、彼は「徳」を積むことが人生最大の目的であり、肉体的、精神的な鍛練を重んじ、清貧することが重要だと考えました。物を所持することを拒否した彼はぼろを着て放浪し、大樽もしくは甕(かめ)を住処としていました。犬のような生活を送ったとされていた為、「犬のディオゲネス」とも呼ばれたのです。
有名なエピソードとして以下があります。ある日、アレクサンドロス大王がディオゲネスの元へ訪れます。彼は日向ぼっこをしていました。大王が「何か望むものはないか?」とたずねたところ「そこは日陰になるからどいてください」と答えました。その後少し会話をし、大王は去り際に「私がアレクサンドロスでなかったら、ディオゲネスになりたい」と感心の言葉を残したそうです。このエピソードは、何名もの画家によって描かれています。他にもディオゲネスは様々な逸話を持っています。
しかしながら、彼の最期に関してははっきりしていません。タコを食べて当たったからとも、犬に足を噛みつかれたからとも、息を止める修行をしたからとも言われているのです。犬のディオゲネスと言われた彼が、犬によって殺められてしまったとしたら、皮肉ですね…。真相は闇の中です。
では、ディオゲネスに関する絵画12点をご覧ください。
「ジョヴァンニ=ベネデット・カスティリオーネ作 17世紀」
ディオゲネスの逸話の一つ。彼が日中にランプを灯して歩き
回っているので「何をしているのだ」と誰かが聞きました。
彼は「誠実な人間を探しているのだ」と答えました。
左側の奥に、ランプを持ったディオゲネスがいますね。
「ヤーコブ・ヨルダーンスの工房作 1593-1678年」
ランプを持って探した彼ですが、嫌な人間しかいなかったそう。
絵画のディオゲネスは「お主は誠実か!?」と私達に語りかけて
いるようですね。誠実、では、ありたい、ですけれども…w
「ヨハン・カール・ロト作 17世紀」
この逸話により、ディオゲネスのアトリビュート(持物)として
ランプ(カンテラ)がよく描かれます。何も持たず何も隠さない
彼は、私達の心を見透かそうとランプを掲げます。
「Giovanni Battista Langetti 作 1625-76年」
賢者然とした老人のディオゲネス。
他の哲学者と同様に、若者の姿で描かれることはほぼないです。
「サルヴァトル・ローザ作 1650年頃」
手で水をすくって飲む少年を見て「わしはまだ甘かった!」
と唯一持っていたコップを投げ捨てたという逸話もあります。
どこまでも物に固執せず、使わないことを貫きます。
「Ivan Philippovich Tupylev 作 1758-1821年」
コリントスにやってきたアレクサンドロス大王。
ディオゲネスが挨拶に来ないので、大王自ら赴きます。
「望むものは?」という問いに、彼は「日陰だからどいてくれ」
という傍若無人ともとれる発言をします。
「ガエターノ・ガンドルフィ作 1792年」
逸話によると場所は体育場の隅とされているのですが、
ディオゲネス=大樽というイメージが先行してしまい、
殆どの絵画は大樽を描いています。
「ドイツ出身の画家作 17世紀」
「私は大王だ。恐くないのか?」と問うとディオゲネスは
「あなたは良い人ですか悪い人ですか?」と問い返します。
「無論、良い人だ」「ならば、どうして恐れるのでしょう」
このやり取りに、大王は感服してしまったのです。
「ジャン=レオン・ジェローム作 1860年」
珍しくイケメン風に描いていますね。乞食生活を続け
「犬のディオゲネス」と呼ばれたことで、傍には4頭の犬が
います。彼に対し敬意を感じる、知に満ちた作品です。
「エドウィン・ランドシーア作 1848年」
もう全部が犬になっちゃいましたw 白のわんこが大王で、黒の
わんこが「日陰にするな」と言っているのかな。手前には
カンテラが描かれています。ユーモラスな作品ですね。
「マクシミリアン・ピルナー作 1893年」
このわんこ噛みそう!逃げて逃げて!
上の女神様はディオゲネスの真理の正しさの祝福と、
天上への招待(死)の二つを表しているのかしら。
「マッティア・プレティの追随者作 17世紀」
映画のポスターであるかのような、素敵な一枚。
ディオゲネスの姿はキリスト教における隠者と結びつけられ、
宗教的な正しさ、真理も表現しているのかもしれません。
ディオゲネスは哲学者プラトンを目の敵にしていたようで、様々な喧嘩(?)エピソードが残されています。プラトンは正義や徳、善を理知的に追求する哲学思想の持主で、政治や教育に熱心でした。
なんというか、難癖つけまくりですねw プラトンも負けじと言い返してはいるものの、ディオゲネスの難癖パワーには少し押され気味に感じます。個性が爆発している哲学者、ディオゲネスなのでした。
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