ルツ記の絵画11点。嫁姑、貧富も幸福に。たおやかな麦穂の如く心慎ましき男女 | メメント・モリ -西洋美術の謎と闇-

ルツ記の絵画11点。嫁姑、貧富も幸福に。たおやかな麦穂の如く心慎ましき男女

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EDUARD HOLBEIN  RUTH AND BOAZ 1807-75 -

 ルツ記は旧約聖書に記載されている、モアブ人女性ルツを主人公とする物語です。
 ユダのベツレヘム出身のエリメレク、妻ナオミと二人の息子はモアブに移り住み、息子の一人はルツと結婚します。やがて男たちは皆死んでしまい、自国へと帰るナオミにルツはついていくことを決心します。ルツがベツレヘムの畑にて貧しく麦の落穂を拾っていた時、その畑の所有者に「落穂を沢山拾って。さぁ食べて水を飲みなさい」と食事を勧められ、多くの麦をもらいました。所有者はボアズという人物で、図らずもエリメレクの遠縁だったのです。ルツとナオミは深く感謝し、慎ましく暮らしました。

 やがてナオミは「あなたは主人の元へゆくべきです」と、ルツにボアズの床へ行くよう勧めます。ルツはそれに従いますが、彼は「私の他に権利の高い親戚がいる」と床を共にすることをよしとせず、何事もなく翌朝ルツに贈り物を持たせて家に帰らせます。ボアズはその親戚と会い、親族の贖いの責任を自身が負い、エリメレクの土地や息子の妻を譲り受ける事を、証人のもとで承諾させました。

 こうしてルツはボアズの正式な妻となりました。ルツは息子オベデを産みます。オベデは将来ダヴィデ王の祖父となる人物なのです。この物語は「異邦人でありながらも姑についていき、敬虔な心で仕事をした慎ましきルツ。欲望に負けず、知恵を以て正式な契約にのっとってルツを妻としたボアズ」を讃えています。血なまぐさいシーンがある聖書内において、争いのない穏やかで静かな物語と言えますね。
 では、ルツ記の絵画11点をご覧ください。



「ジョージ・ドー作  1804年」
モアブの地にて皆の旦那が命を落としてしまい、姑である
ナオミは言います。「あんた達は老いた私を放っておきな。
新しい夫を探すんだよ」ナオミの説得に一人の娘は泣く泣く
承諾しますが、ルツは納得しません。
George Dawe 1804

「ピーテル・ラストマン作 1624年」
レンブラントの師匠の作品。「私はベツレヘムへ戻る。
やっぱりあんたは残りな」という説得にも、ルツは
「私はついていきます!」と返すのでした。
Ruth and Naomi, Pieter Lastman, 1624

「アリ・シェフェール作 1870年」
「私は貴女に尽くします」どんなにナオミが説得しても、
ルツはそう言って聞かなかったのです。やがてナオミが
折れ、二人はベツレヘムへと向かいます。
Ruth and Naomi  Ary Scheffer, circa 1870

「ウィリアム・ブレイク作  1795年」
なかなか個性的な表現ですねw
「絶対に離れない!!」と身体をぐわしっ!っと掴むルツに、
ナオミはちょっと困っています。気迫負けしちゃいました。
Ruth and Naomi’, William Blake, 1795

「フランチェスコ・アイエツ作 1835年」
ルツは畑にこぼれた麦の落穂を拾って、老いたナオミと
生活しました。来る日も来る日も落穂を懸命に拾ったのです。
Portrait of a woman as Ruth 1853 by Francesco Hayez

「ヨーゼフ・アントン・コッホ作 1768年」
そんな彼女に気付いた畑の所有者ボアズ。従者に素性を
聞きだし、ルツに話しかけます。「ずっと私の畑にいなさい。
働く人の後ろにすぐ後ろについて。自由に食べ物も飲み物も
利用しなさい」と。
Landscape with Ruth and Boaz Josep Anton Koch 1768

「バーレント・ファブリティウス作 1660年」
「どうして、外国人の私にこんな親切に?」不思議がるルツに
ボアズは「君の勤勉さは耳に届いているよ」この後、ルツは
食事に招待され、お土産になる麦穂も拾わせてもらったのでした。
 Barent Pietersz Fabritius 1660

「ヤン・フィクトルス作 1653年」
その事をナオミに話ししばらくして、ナオミは「主人の元へ
あんたは行くべきだよ」と、なんとボアズの寝床の足元で
寝るよう言いました。彼女は承知してやってのけますが、
ボアズは「親戚がいるから待って」と静かに夜を明かしました。
Ruth swearing to Naomi by Jan Victors, 1653

「ユリウス・シュノル・フォン・カロルスフェルト作 1828年」
翌日、ボアズは親戚とエリメレクの遺産を譲渡する話し合いを
付け、土地や妻を手にする権利を有します。そして、ルツに
「我が妻となってくれ」と正式にプロポーズをするのでした。
Ruth in Boaz Field Julius Schnorr von Carolsfeld 1828

「エドゥアルト・ホルベイン作 1807-75年」
「妻よ…」とそっと美しいルツの手を取るボアズ。
滑らかで煌めく色彩で綺麗な作品なのですが、後ろの従者が
セクシーで気になってしまうのは、私だけでしょうか・・・。
EDUARD HOLBEIN  RUTH AND BOAZ 1807-75

「トーマス・マシューズ・ルーク作  1876年」
出発するナオミ&ルツ、ルツに話しかけるボアズ、ルツの子供
オベデを育てるナオミと、構図が三部に分かれています。
戦争が多い聖書とは思えないくらい、穏やかに満ちた
ハッピーエンドですね。
Thomas Matthews Rooke 1876

 ナオミの夫エリメレクの土地を譲渡するにあたって、ボアズは「第二の権利者」でした。その彼が第一の権利者を説得し、土地を手にルツを妻にすることができたのは、ユダヤの思想があります。
 私もちゃんと理解しているわけではありませんが、神を信仰するユダヤの民において、この世の土地を有することは一種の罪であり「責任」を持つことになります。土地を所持し、運用するにはそれ相応の「贖い」が必要なのです。第一の権利者は、土地に対する「贖い」の覚悟はできていました。

 しかし、ボアズは「土地だけではなく、エリメレクの息子の寡婦の責任も必要だ」と言いました。ルツはモアブからやってきた異邦人で、民族的にはそこまで仲が良くなかったようです。ユダヤには死んだ夫の代わりに、夫の兄弟が結婚する「レビラト婚」という習慣があります。この慣習から「土地はいいけど、妻は嫌だ」と言う訳にもいきません。第一の権利者は、異邦人ルツと結婚することで贖いきれない罪を持ち、神の元へ行けないかもしれないと思い、「責任」が持てずに断ったのです。ボアズはルツの美しく信心深い心を知っているのですから、むしろ彼女といることで正しい信仰を持てると確信しています。
 こうしてボアズは第二の権利者でありながら、土地とルツとの結婚を手に入れることができたのです。「贖い」や「レビラト婚」の思想は現代日本の私達にとって馴染みが薄いですが、異邦人であっても関係ない、というボアズの素敵な姿勢を見習いたいですね。



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