ネッソスの絵画14点。ヘラクレスの妻をさらい、殺されるも復讐を果たすケンタウロス | メメント・モリ -西洋美術の謎と闇-

ネッソスの絵画14点。ヘラクレスの妻をさらい、殺されるも復讐を果たすケンタウロス

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 ネッソスはギリシャ神話に登場するケンタウロスです。
 ある日、ヘラクレスとその妻デイアネイラと息子はエウエノス川を渡ろうとしていました。その川は流れが急で、母子は自力で横断できません。するとそこにネッソスが現れ、「俺が女性を担ぎましょう」と申し出たので、ヘラクレスが息子を担ぎ、ネッソスがデイアネイラを担いで川を渡りました。しかし、早く川岸に着いたネッソスが彼女をさらおうとした為、ヘラクレスはそのケンタウロスを矢で射殺したのでした。

 ネッソスは死の間際、彼女に「俺の血は媚薬効果がある。奴の愛が離れた時、服に浸して着せてやるんだ」と言い残します。デイアネイラはそれを信じ、ヘラクレスの心が他の女性の元へ行くと知るや、服にネッソスの血を浸して、ヘラクレスに送り届けます。しかし、それを着た途端、ヘラクレスは想像を絶する痛みに襲われました。その血には毒が込められていたのです。くっついてとれない衣服を自分の皮膚ごと引きはがし、彼は山に登って火葬の準備をして、火に包まれて最期を遂げたのでした。
 ギリシャいちの英雄ヘラクレスの死の原因となったケンタウロス、ネッソスの絵画14点をご覧ください。(といっても、ネッソスがデイアネイラを誘拐しようとするシーンばかりです^^;)

 


「中世時代の彩飾写本の挿絵 年代不明」
物凄くゆるーい誘拐現場。楽しそうなデイアネイラに、タクシー
代わりで不満そうなネッソス、服装とポーズが謎すぎるヘラクレスが
弓を構えています。


「ダヴィド・ヴィンケボーンス作  1576-1632年」
デイアネイラが攫われようとした途端、ヘラクレスの矢が川越しから
放たれ、ネッソスに直撃します。一説には矢には毒が塗られていた
そうです。

「ピーテル・パウル・ルーベンス作  1577-1640年」
足を組んで「ちょっと止めてよ~」と言った風の強気なデイアネイラさん。
ネッソスはクピドにも攻撃され、困った表情をしています。
足元のお爺さんと女性はエウエノス川の象徴?
じーっと事の成り行きを見守っております。

「グイド・レーニ作  1619年」
こちらはいえーい!と言った感じの楽し気なネッソス。デイアネイラは
飛びあがっている風ですね。ケンタウロスは茶や白の馬として
描かれることが多いのですが、この絵画は牛のようなブチ柄です。

「ノエル・コワペル作  1628-1707年」
なんか物凄い大所帯ですね。ネッソスが本来持っていないはずの
血が塗られた布を掴んでおり、物語を克明にする為に未来の事柄
も挿入していますね。というか、ヘラクレス猟銃持ってるんですけど!
ギリシャ神話なのに猟銃ですと!?

「ルカ・ジョルダーノ作  1634-1705年」
ケンタウロスは粗暴で好色とされ、ネッソスもその例に漏れませんが、
くるくるヘアーの青年や髭を生やしたちょい悪オヤジ風に表現され、
酷い容姿では描かれていませんね。

「Louis De Boullogne 作  1654-1733年」
ネッソスの足元には矢が置かれ、「俺の血を布に浸せば愛のまじないに
効くぞ」と伝えているようです。デイアネイラさんはそれをする気満々の
ようですね。川の象徴のおじいさんが肘を壺に起きながら、
「大変じゃのう」と人事として眺めているようです。

「Gaspare Diziani 作  1689-1767年」
腰辺りに矢が刺さり、ぐえっとなっているネッソス。
おじいさん、こんなところに横たわっているとケンタウロスに
轢かれちゃいますよ~。

「Karl Haase 作  1845年」
逃げるネッソスに追うヘラクレス。それにしても、物語だとヘラクレスは
息子ヒュロスを担いで川越えしているのですが、息子の姿らしき人が
描かれた絵画は一枚もありません。構図を描くうえで不要なのは
分かりますが、ヘラクレスよ、放り投げたのか・・・?

「イタリア出身の画家作  18世紀」
何故かネッソスの肉体美が前面に押し出された絵画。表情も
真面目気味で、格好付けちゃっています。牧神パンもそうですが、
作者によって耳を尖らせて描いております。この尖り耳の由来を
知るのも面白そうですね。

「セバスティアーノ・リッチ作  1706年」
ヘラクレスと言えば棍棒だろ!英雄は遠距離攻撃はしない!
という作者のポリシーなのか(?)、ヘラクレスがネッソスを殴って
倒している作品も存在します。背後で薄笑いを浮かべる、
デイアネイラさんが怖いお・・・。

「セバスティアーノ・リッチ作  1700年頃」
こちらもお腹を蹴り、打撃攻撃を加えようとしているヘラクレス。
ケンタウロスも棍棒を使うとされ、足元に置かれていますが、
使う暇もないようですね。

「ロマン主義の画家作  18世紀」
こちらはお尻に矢がぷすっと刺さっており、矢と棍棒のダブルパンチ。
構図がリッチさんの作品に似ているので、参考にした部分も
あったのかな?

「中世彩飾写本の挿絵より  年代不明」
物語は180度変わり、ダンテ作の「神曲」より。彼は地獄編にネッソスを
登場させています。彼はケンタウロス族の賢者ケイロンに命じられ、
ダンテとヴェルギリウスの道案内をしたそうです。手前で弓を持って
歩いているのがネッソス。遂に、ただの馬と化してしまったか・・・;

 ヘラクレスはネッソスの血を浸した服を着たのが原因で絶命する訳ですが、その血はヒュドラの猛毒が込められていたらしいです。ヒュドラは9つの首を持った大蛇で、その怪物を退治したのはヘラクレスです。彼はヒュドラの毒を塗った矢を用いていたそうです。アキレスの恩師ケイロンは、ケンタウロスとの戦いの際にヘラクレスが誤って射った毒矢が膝に命中し、命を落とす原因になりました。不死であるケイロンは猛毒の激痛に耐えきれず、不死性をプロメテウスに譲って死を選んだそうです。ケイロンさん、飛んだとばっちりや・・・。
 もしネッソス相手に射った矢もヒュドラの毒であったのなら、その猛毒がネッソスに回り、その血をヘラクレスが着て猛毒が回り・・・。
 ・・・あれ、もしかして英雄は自滅したのかな?ヘラクレスを倒したのはネッソスではなく、巡り巡ったヒュドラの猛毒なのかもしれません。 ヒュドラさん最強だ!

→ ケンタウロスについての絵画を見たい方はこちら

 

【 コメント 】

  1. 管理人:扉園 より:

     >> ナカイケイラ様へ
    こんばんは^^
    ネッソスの作品を削るのが勿体なくて、二つの記事にすることにしましたw
    神曲だとネッソスはケイロンに命ぜられ、ダンテを乗せています。チェンタウロはケンタウロスのイタリア読みなのですね。こんな凄い戦車があるとは知らなかったです!
    「美しいケンタウロスがいてもいいじゃないか。よし、自分が表現しよう」というナカイケイラ様の行動は素晴らしいと思いました。そのような新しい思想が芸術を生み出すのだと感じます。
    ナカイケイラ様の作品を拝見させていただきました。
    とても素敵なケンタウロスさんばかりでした^^
    ケンタウロスだけではなく他の幻獣や神話、動物、機械等を織り交ぜており、独特の美しい雰囲気が漂っておりました。
    個人的に好きな北欧神話のお馬の作品もあり、ネイティブアメリカン系の民族的な作品も素敵すぎて細かい~!美しい~!と惚れ惚れしました。眼福すぎます♪
    自分好みの子ばかりなので、これからも覗かせてください(*ノωノ)
    初心を忘れず、こんな調子でメメント・モリを続けていくつもりでありますので、これからもよろしくお願いいたします^^
    本当にありがとうございました♪

  2. ナカイケイラ より:

    扉園さま!
    先日、ケンタウロスの絵の特集をリクエストさせていただきました、ナカイケイラです。
    この度は前の記事にして頂き、そして個人的に大好きなネッソスまで!
    本当にありがとうございました。
    とてもケンタウロスの美しい肉体を拝見できて眼福です。
    ネッソスといえば、ダンテの神曲の渡し守…?でしたっけ?のチェンタウロのモデルなのでしょうか?とも思ったりしました。
    ネッソスが、若いヤンキーみたいに描かれていたり、ひげもじゃの酔っ払いみたいだったり…写本では上品な姿のように見えましたね。
    あと記事を見て確かに思った事が…ケンタウロスはやはり粗野な生き物でどちらかといえば醜く描かれている事が多くて、それをとても疑問に思っていて、美しいケンタウロスがいても良いじゃないか、と思って、10代の頃から美しいケンタウロスを表現したいと思い、ずっと日々美しいケンタウロスを研究していつのまにか個展まで開いてしまいました。。
    本当にメメント・モリさまのブログには、自分のルーツを振り返れるような、考察と、でもユーモアも忘れない、素敵なブログだと思いました。
    本当にありがとうございます!
    これからもたくさん楽しみにしております!
    (恐縮かもしれませんが…ナカイケイラで検索頂くと…いろいろなケンタウロスが出て来ると思います…。主にツイッターやpixivで投稿しています…もしよかったら遊びにいらして下さい!)

  3. 管理人:扉園 より:

     >> ケンタウロスといえば……様へ
    こんばんは^^
    本当ですね。シムズは似たような構図でケンタウロスとパンの2バージョン描いているみたいです。
    テーブルに乗ったケンタウロスを少年以外気にしていない風に感じますが、少年にしか姿が見えていないのでしょうかね?左上のケンタウロスのお父さん風な影も気になります。
    見えないだけで案外神話の生物は身近にいるのよ、というメッセージなのかな?←適当に言いましたw
    上体が曲げられている彫刻はジャンボローニャ作のものでしょうか?
    背骨がぼきーん!といってしまいそうなカーブですよね^^;
    このポーズをよく彫刻で表現できたなぁ…と思います。流石は芸術家。

  4. ケンタウロスといえば…… より:

    もうひとつ思い出しました。
    「怖い絵」展で観た、チャールズ・シムズの『小さな牧神』の牧神は、なんだかケンタウロスっぽいです。調べてみると、パーンになっているバージョンもあるらしいのですが。
    ケンタウロスとヘラクレスというと、彫刻を思い出します。上体が捻じ曲げられてるやつ……^^;

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