北欧神話の雷神トールは、神の国アスガルドを巨人から護る守護神ですが、彼が巨人にこっぴどく騙された話があります。
ある日、トールと狡知の神であるロキ、従者シャールヴィとその妹は巨人の国で馬鹿でかい巨人スクリューミルと出会います。成り行き上、トールはハンマーで彼の額を三回殴りつけますが、全く効いておりません。いら立ちを隠せないトールに巨人は「ウトガルザ・ロキの館は俺よりでかい奴がゴロゴロいるよ。お前は敵わないだろうね」と残して何処かへ消えていきます。
トール一行はウトガルザ・ロキ(神のロキとは無関係)の館へ行き、5つの挑戦を行いますが、ことごとく巨人に敗れてしまいました。悔しがるトールに巨人は種明かしをします。「実は魔法でお前達を騙していたんだよ」と。しかし、トールの実力は巨人の想像以上のものがあり、何度も術を破られそうになった為、ウトガルザ・ロキは「お前の恐ろしさは分かった。二度と相手にしたくない奴だ」と言って姿を消してしまいました。
北欧神話の中ではユーモラスで、とても面白い物語です。ウトガルザ・ロキとトール一行の絵画、12点をご覧ください。
「C.E. Brock 作 1870-1938年」
巨人の国で見つけた小屋で休んでいると、突然大きな地響きが。
外へ出てみると、超巨大な巨人が寝ているではありませんか。
「Louis Huard 作 1891年」
巨人はむっくりと起き上がり、「あっれー。お前、俺の手袋の中に入ったな~」
と言います。トールたちが寝ていた小屋は、彼の手袋だったのです。
巨人スクリューミルはトールたちとしばらく旅に出ることになりました。
「Frederick Richardson 作 1913年」
神と巨人は敵同士。もちろんトールはスクリューミルが気に入りません。
トールは彼が寝ている隙を見計らい、額にハンマーをめり込ませます。
「Wilhelm Ernst Wagner 作 1882年」
一度、二度、三度!殴る度に力は強くなり、威力はハンマーの
柄まで額にめりこんでしまうほど。
「パットン・ウィルソン作 1869-1934年」
しかし、スクリューミルは死にません。起き上がって「あれ、今
木の葉が落ちて来た~? 枝が落ちて来た~?」と言うだけです。
トールは内心怒り心頭です。
「E. Boyd Smith 作 1902年」
スクリューミルは大笑いし「これから先にあるウトガルザ・ロキの館は
俺より凄いのがごまんといるぞ。お前なんか一捻りだな」と言って
何処かへと行ってしまいます。トール達はそれでもその館へと向かいます。
トール一行は館に到着します。
館の巨人たちはスクリューミルが言うように、どえらい大きな巨人ばかりでした。そこでは館の主ウトガルザ・ロキが登場します。彼はトールたちに能力比べをしてみようと提案し、神々はそれを受けて立ちました。しかし、ロキは肉の早食い競争、従者シャールヴィは徒競走を行い、いずれも負けてしまいます。残るはトールのみ。トールは三つの能力比べを行いました。
「作者不明 1872年頃の挿絵」
1.酒の飲み比べ。ウトガルザ・ロキは一回で角杯を飲み干しましたが、
トールは三回でも飲み切れず。敗北。
「作者不明 1872年頃の挿絵」
2.猫を持ち上げる。ウトガルザ・ロキの飼い猫を持つという試練ですが、
猫が信じられない程重たくて、敗北。
「Katharine Pyle 作 1863-1938年」
トールは非常に踏ん張り、猫を持ち上げられる一歩手前まできましたが、
どうしても猫を床から離すことができませんでした。その正体は・・・。
「ロバート・エンゲルズ作 1919年」
3.お婆さんとレスリング。ウトガルザ・ロキの乳母のエリさんと
取っ組み合い、どえらい強くて踏ん張ったものの、トール敗北。
「C.E. Brock 作 1870-1938年」
長い時間取っ組み合い、こらえきれずにトールは膝をついてしまいます。
超強いのは当たり前、その正体は・・・。
力自慢のトールはこの惨敗でかなり凹みますが、ウトガルザ・ロキにより種明かしが行われます。
魔法を使い、最初に会ったスクリューミルはウトガルザ・ロキが変装して巨大に見せており、トールが殴ったのは山だったこと。(それによって三つの巨大な谷ができた)
ロキと戦ったのは火炎 (肉が燃えつきた)。シャールヴィと戦ったのは思考(シナプス伝達は高速)。トールが飲んだ酒は海(それによって引き潮が起きた)で、戦った猫はヨルムンガンド(トールの仇敵の蛇さん)、レスリングしたお婆さんは年齢の具現者(誰にも年月には勝てない)で
した。
しかし、トールはそれら最強の相手にも善戦し、ウトガルザ・ロキをおののかせました。「ちょっとした小手調べのはずが、全力で館を守る羽目になった。もう二度とお前を館には入れまい。互いが不干渉の方が身の為だ」と彼は言いました。トールはそのペテンに怒り狂い、ウトガルザ・ロキにハンマーを投げようとしますが、巨人とその館はこつぜんとその姿を消してしまったのでした。
「1893年のスウェーデンの挿絵」 おまけ。トールと愉快な仲間たち。
この物語を最初呼んだ時、面白いと思ったと同時に凄いなぁと思いました。魔法でトール達に普通と違うまやかしを見せているトリックはもちろん、「火」や「海」という自然が相手となるだけではなく、「思考」や「年齢」という概念的なものが相手となるという部分に驚嘆しました。
戦っている相手は最強なのですが、猫を持ち上げたりお婆さんとレスリングしたりと、絵画的には少し笑えるシチュエーションですよね。それも魅力の一つだと思います。
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