パリスはトロイの王子であり、ヘレネはスパルタ王メネラオスの妃でした。彼がヘレネを誘拐したことにより、トロイ戦争が勃発してしまいます。
プリアモスとヘカベの間に生まれたパリスには、兄ヘクトルと妹カサンドラがいます。凶兆が出た為にイデ山に捨てられ、パリスは羊飼いの家で育てられますが、後に王宮に迎えられます。そんな彼の前にヴィーナス、ヘラ、アテネの三美神が現れ、誰が一番美しいかを選ぶよう命じられたので、彼は「私を選んだら地上で最も美しい女を授けよう」と言ったヴィーナスを指名しました。世界一の美女というのがスパルタ王の妃ヘレネであり、パリスは女神の導きにより妻を捨てて彼女を誘拐してしまいます。勿論夫のメネラオス王は怒り、兄のアガメムノンと協力してギリシャ勢を集めてトロイに攻め込みました。ヘクトルがヘレネを返却させろと言っても、弟は聞く耳を持ちません。二人は相思相愛となり、戦争は泥沼状態と化して10年間続けられました。
ヘクトルは英雄アキレスに殺され、パリスはアキレスを殺し、パリスは英雄ピロクテテスに射られて瀕死の重傷を負います。パリスは元の妻オイノネに治癒を求めたものの、「私を捨てた男なんか治したくない」と拒絶されて死んでしまいます。その後、パリスの弟のヘレノスとデーイポボスがヘレネを巡って戦い、後者が勝ちました。ヘレノスは弟を深く恨んでギリシャ側に寝返り、トロイの内部事情を伝えてしまいます。かくしてオデュッセウスが木馬の作戦を思い付き、トロイはあっけなく陥落してしまうのです。ヘレネは夫のメネラオスによって殺されかけますが、魅力深さ故に殺されず、メネラオスは再び彼女を妻としました。その後、ヘレネはスパルタの妃として平穏に暮らしたとも、アガメムノンの息子オレステスによって殺されたともされています。
女神が介入した禁断の愛により破滅を起こした、パリスとヘレネの絵画13点をご覧ください。
「イーヴリン・ド・モーガン作 1898年」
ヘレネは世界で一番の美女と言われていました。
主神ゼウスと王妃レダの間に生まれた半神で、兄にカストルとポルックス、
姉にクリュタイムネストラがいます。ゼウスは白鳥の姿で誘惑した為に、
ヘレネ達は卵から産まれたとされています。
「フランスのシュヴェルニー城にあるタペストリー 17世紀」
パリスはヴィーナスの導きにより美女ヘレネを見初め、拉致して
しまいます。男たちが剣で戦う中、ヘレネの服を引っ張り合っこを
しています。パリスは両手を上げている若者でしょうか。
「Giovanni Scaiaro 作 18世紀」
こちらは少数人数の静かな拉致。一国の妃様を誘拐するのだから、
少数人数で行った方がばれにくいかもしれませんね。ヴィーナス様の
御加護があるので、恐らく楽勝に拉致できてしまったのでしょう。
「ティントレット作 1578–79年」
ヘレネを船に乗せて、どんぶらこっこと船をこぎ出す男たち。
向こう岸には、海を泳いでまで妃を取り戻そうとする人々がいます。
「ギャビン・ハミルトン作 1782-84年」
トロイの国に付き、顔を合わせる二人。「僕の方へおいで」と言っている
パリスにヘレネは恥ずかしそうにしています。ヴィーナスが「さぁ・・・」と
布を掴んで彼の方へと誘っていますね。女神の髪形や布が
日本の天女様に見えるのは気のせいだろうか・・・。
「アンゲリカ・カウフマン作 1790年」
今度はお二人がどぎまぎしています。「あの、僕・・・」「あ、貴方は・・・?」
と口をもごもごさせている二人に、ヴィーナスとキューピッドは
「積極的になりなさい!」と言い聞かせています。
「シャルル・メニエ作 1768-1832年」
あっという間に二人の距離は縮まっていき、パリスには妻オイノネ、
ヘレネには夫メネラオスと娘ヘルミオネがいるにも関わらず、二人は
相思相愛となりました。「おお・・・なんと美しいヘレネ・・・」
「ふふふ、嬉しい・・・」と二人の世界に浸っちゃっています。
「ジャック・ルイ・ダヴィッド作 1788年」
新古典主義のダヴィッドが神話画を描くイメージがないものの、
こちらの作品は華やかでロマン主義のような雰囲気がありますね。
私たちは時代や様式で美術を分類しがちですが、そればかりに
こだわっていてもいけないように思えます。
「ベンジャミン・ウエスト作 1772年」
「おいお前!ヘレナを返してこい!」と兄であるヘクトルがいさめますが、
パリスは聞く耳を持ちません。ヘレネといちゃいちゃを続けており、
イケメンなヘクトル兄さんが死んだ目をしておりますね・・・。
→ ヘクトルについての絵画を見たい方はこちら
「フランスの画家作 17-18世紀頃」
スパルタと神の血を引くヘレネは純ギリシャ人で、世界一の美女と
謳われただけに肖像画を描く画家がたくさんみえます。
目鼻立ちがしっかりとしたギリシャ彫刻風のヘレネですね。
「Enrico Fanfani 作 1824-85年」
こちらは少し豊かな肉体をしたヘレネ。美女を描くときは作者の好みが
反映されていると邪推してしまいます。男を誘惑する悪女とされる時も
ありますが、ヘレネは地域に順応して生き延びようとしただけのように
思えます。彼女も悩み多き人生だったのでしょう。
「フレデリック・サンディーズ作 1867年」
眉はハの字になり、口は引き結んで物凄く不機嫌そう・・・。
個人的にですが、サンディーズさんはヘレネの事を悪女だと思って
いそうですね。容姿は美女でも、こんな表情をされたら怖いです・・・。
「ルカ・フェラーリ作 1605-54年」
この絵画は「ヘレネを殺そうとするアエネアス」と紹介されていましたが、
メネラオスである可能性が高いです。災厄を呼んだ彼女を殺そうと
剣を持つメネラオスに、ヴィーナスが「止めよ!」と留めています。
女神様の御力は偉大なりですね・・・。
日本で流通している世界三大美女と言えば「クレオパトラ、楊貴妃、小野小町」ですが、「クレオパトラ、楊貴妃、ヘレネ」とする場合の方がポピュラーなようです。生前の肖像画が残っていないらしい小野小町が入っているのも不思議ですが、実在ではなく神話上の人物であるヘレネが入っているのも不思議ですねw 男性をたぶらかした女性は物語や史実でも数多くいるものの、ヘレネはその原点であり、中核を成すというイメージなのでしょうか。
と、ここで他の「世界三大〇〇」が気になったので、幾つか調べてみました。以下に抜粋します。
【世界三大秘宝】
ツタンカーメン黄金のマスク、ミロのヴィーナス、モナ・リザ【世界三大宗教空間】
サン・ピエトロ大聖堂、パルテノン神殿、法隆寺【世界三大美術館 】
メトロポリタン美術館、ルーヴル美術館、エルミタージュ美術館【世界三大叙事詩】
イーリアス、オデュッセイア、マハーバーラタ【世界三大肖像画家】
ディエゴ・ベラスケス(ピーテル・パウル・ルーベンス)、東洲斎写楽、レンブラント・ファン・レイン【世界三大宗教】
キリスト教、イスラム教、仏教【世界三大聖人】
イエス・キリスト、孔子、釈迦――Wikiより
これはあくまでも言い伝えによるもので、統計的なものではありませんし、世界共通ではないこともご了承ください。
個人的には「そうだね」「そう来たか」と思うものもあれば、「え!?」と思うものもありました。モナ・リザって紀元前に並ぶ秘宝レベルなんだ・・・。イリアス&オデュッセイアはどちらもギリシャだから、個人的にはニーベルンゲンの指環やエッダ、ベーオウルフやカレワラを入れて欲しかったなぁ・・・。肖像画家に写楽さんが入ってる・・・?宗教はこの三つなのに、聖人は孔子が入るんだ・・・。と眺めていて色々考えさせられましたw 世界三大といっても、やはり自分の好みが一番ですね!(笑)
あなたの世界三大〇〇は、一体どんな感じでしょうか?^^
→ パリスの審判についての絵画を見たい方はこちら
→ カストルとポルックスについての絵画を見たい方はこちら
【 コメント 】
>> 季節風様へ
こんばんは^^
神の血筋のせいで絶世の美女になってしまったヘレナ。
容姿が原因で男達が波乱を起こし、わざと国を破滅させようとしている訳ではないのに、国が崩壊していく。
そして悪女とされて「お前のせいだ!」と剣を向けられるのは理不尽ですよね。
ヴィーナスの誕生にも布をふわっとさせている絵画が中にはありますが、ハミルトンさんの作品は、布の位置や髪形が東洋的な天女を思わせますよね。
オリエンタリズムが生じたのは18世紀頃なので、東方趣味の影響で画家が中国や日本の天女伝説を知り、ヴィーナスに反映させてみたという可能性もありますね^^
私は今の今までヘレネが神の娘だとは知りませんでした。ヘレネは楊貴妃と共通点があると思います。政治に無関心だけど傾国の悪女にされてしまう絶世の美女。ヘレネもたいていは受け身でパリスとの恋しか考えてなさそうに描かれています。
ハミルトン作のヴィーナスさんは確かに日本の天女に似てます。飛鳥時代風の髪形と風に吹かれたような形になってる長い布ですね。
>> トロイ戦争は……様へ
こんばんは^^
Amazonで「トロイ戦争は起こらない」という本があって気にはなっていました。近代のお芝居だったんですね!
しかも最近東京で上演されていたとは…!
ヘレネはファムファタールではないと思っていましたが、魔性の女とされてしまったんですか^^; どんな感じなのかちょっと気になります…。
クレオパトラやルクレチア・ボルジアのように国を動かした美女は、表現する人の解釈の仕方によって悪女にもなり、ヒロインにもなりますよね。
そういうことありますよね(;_:)
少しニュアンスは違いますが、以前3000円近くした古書をAmazonで買ったら、最近になって700円くらいで売られていました…。ショック!
こんばんは。
ちょうど先週、東京でやっていた『トロイ戦争は起こらない』というお芝居を観てきました^^
ジャン・ジロドゥというフランスの外交官の書いたお芝居で、第二次世界大戦前の不穏な空気の中で書かれたもの。
ヘレネーのファムファタルぶりがすごいです(本人には悪気はないと思う……)。
『イーリアス』では普通にかわいそうな人なんですけどね。
私はこのお芝居を楽しみにしていたので、事前に古書を探して読みましたが、先月、今回の新しい翻訳が文庫で出たみたいです。
先月まで待てば……と思うと……^^;