カストルとポルックスはギリシャ神話に登場する、ふたご座の元になった双子です。
ある日、スパルタのティンダリオス王の王妃レダの元に白鳥が現れました。白鳥はゼウスが変身したもので、毎度のことながら二人は逢瀬を重ね、やがてレダは二つの卵を産み落としました。一つ目から産まれたのがクリュタイムネストラ(姉)とカストル(弟)で、二つ目からはポルックス(兄)とヘレネ(妹)が産まれました。一つ目の卵から出た二人は人間の性質を、二つ目の卵から出た二人は神の性質を受け継いでおり、ポルックスとヘレナは不死でした。
カストルとポルックスは非常に仲良しで、何をするにしても一緒でした。妹ヘレネがテーセウスらによって拉致されると、二人は力を合わせて彼女を助けました。二人は叔父の娘のヒラエイラとポイベをさらって妻にし、合同結婚式をあげましたが、徒弟であるイダスとリュンケウスによってその事を突っ込まれてしまいます。二人と徒弟たちの仲は険悪となって殺し合いにまで発展し、カストルは槍に突かれて死んでしまいます。怒り狂ったポルックスは二人を殺し、父ゼウスに命と引き換えでも弟を生き返らせてくれるよう懇願しました。ゼウスはその事を聞き入れ、ポルックスの命の半分をカストルに与えることにしました。こうして半神半人となった二人は天界と人間界を行き来することになり、強い兄弟愛がふたご座となったと言われています。
強い絆で結ばれているカストルとポルックスの絵画と彫刻、12点をご覧ください。
「Guido Durantino 作 1550年」
レダとゼウスの真ん中には愛の神エロスと、卵から産まれた赤子がいます。
産まれた子供は四つ子とされる説が多いですが、姉のクリュタイムネストラ
は物語には登場しない為、省略される場合があります。
「レオナルド・ダ・ヴィンチの絵画によるチェザーレ・ダ・
ダ・ヴィンチ特有の微笑みを称えたレダと、異様にでかい白鳥ゼウス。
足元には卵から産まれた四つ子がいます。色使いや背景は「モナ・リザ」を
彷彿とさせますね。
「古代ギリシャの赤絵式の壺」
赤絵式は紀元前500年ごろに使われていた技法なので、カストルと
ポルックスの神話はそれほど古いものなのだと実感します。
どちらかは分かりかねますが、服を着ている方がカストルで、着ていない
方がポルックスでしょうかね。神って着ていないイメージがあるので…(笑)
「イングランドの挿絵 1170年頃」
こちらは顔だけではなく、洋服から武器までそっくりさんのお二人。
盾を一緒に使って、「戦場でも一心同体だぜ!」と言った感じですね。
「Giuseppe Porta 作 1553年」
妹ヘレネは絶世の美女で、トロイ戦争を引き起こした女性として有名です。
ゼウスの血を引いた不死の存在だったので、問題事を起こしてしまうのも
必然だったのかもしれません。
アテナイの王テーセウスはヘレネを拉致してしまいます。
「Amable-Paul Coutan 作 1792-1837年」
テーセウスはヘレネをの母親の元へ預けましたが、双子は彼の母ごと
妹を取り返してしまいます。兜とマントだけで何も身につけていない
古代ギリシャルックをしており、上手く剣の鞘が使われています。
「Jean Bruno Gassies 作 1817年」
左側でしょんぼりとうなだれているのが、テーセウスの母親です。
彼女はヘレネの召使となりますが、トロイが陥落した時に息子ではなく
孫と再会します。
「Léon Cogniet 作 1817年」
作者は違うのに、皆一様に剣の鞘を活用しているところが気になって
しまいました・・・。ポルックス(?)は、いぇい!と剣を振り上げています。
「ピーテル・パウル・ルーベンス作 1617年」
双子は悪いこともしちゃっています。叔父レウキッポスの娘で、婚約者も
いたヒラエイラとポイベを誘拐して、自分たちの妻にしております。
古代ギリシャは女性をさらう内容が多すぎるような・・・。
「ジョヴァンニ・バッティスタ・チプリアーニ作 1783年」
二人は合同結婚式を挙げますが、徒弟の二人に侮辱され、大乱闘に
なります。徒弟たちとは以前から因縁がありました。戦いの末、カストルは
死んでしまい、ポルックスはゼウスに助けてくれるよう懇願します。
「古代ローマの彫像 3世紀頃」
同情したゼウスはポルックスの神性をカストルにも分け与え、半神半人と
しました。全く同じになった二人は大喜びをして、一日ごとに天界と
人間界を行き来する生活をしたとされています。
「ジョゼフ・ノレケンズ作 1767年」
二人の強き兄弟愛は星になり、ふたご座(ツイン、ジェニミ)が生じたと
されています。彼等は戦場の神とされ、戦争中に純白の馬と鎧に
身を固めた双子の姿を見た方は、必ず勝利を収めたそうです。
悪天候の時などに船のマストの先端が発光する「セントエルモの火」という現象がありますが、それは双子の物語と深く結びついています。カストルとポルックスはアルゴ―船に乗って、英雄たちと共に航海に出かけたことがありました。大嵐に見舞われてしまった時、二人の頭上に光が灯ったところ嵐が静まったので、彼等は航海の守護神としても崇められました。船乗りの間では、セントエルモの火が二つ出現すると嵐が収まると信じられたと言われています。
ちなみに「セントエルモ」という名前は「聖エラスムス」という船乗りを守護する聖人から由来しており、双子とは関係がありません。古代ギリシャではこの現象を「カストルとポルックス」と呼んでいたそうです。
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