鍛冶するヴァルカン(ヘパイストス)の絵画13点。神話と鍛冶場の狭間にいる男達 | メメント・モリ -西洋美術の謎と闇-

鍛冶するヴァルカン(ヘパイストス)の絵画13点。神話と鍛冶場の狭間にいる男達

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 ヴァルカンはローマ神話に登場する火と鍛冶の神です。ウルカヌスとも呼ばれ、ギリシア神話のヘパイストスと同一視されています。
 ヴァルカン自身の神話はほぼ現存しておらず、ヘパイストスの物語がほとんどです。彼は単眼の怪物サイクロプスを従え、鍛冶場で様々な武器や宝物を作っているとされています。ゼウスの雷と盾アイギス、アポロンとアルテミスの矢、アキレスの武具や盾などの武器から、青銅の巨人タロス、美女パンドラなどの生命を持つ存在まで幅広く製作しています。

 ヘパイストスは美の神アフロディテ(ヴィーナス)を妻にしていますが、足が不自由であまり魅力的ではない為に浮気されてしまいます。浮気相手は軍神アレス(マルス)で、怒ったヘパイストスは妻とアレスもろとも開発した網で捕縛して、恥を与えたとされています。また、妻に相手にされない不満から、彼はアテナを追いかけまわしたという話もあります。

 画家達は鍛冶を仕事としている者達を、ヴァルカンの工房としてなぞらえました。製作している途中に、ヴィーナス、またはアテナが現れるというシチュエーションは画家の間で流行ったようで、何枚かの作品が残されています。
 では、ヴァルカンについての絵画13点をご覧ください。ヘパイストスやウルカヌスであっても、ヴァルカンと名称を統一させていただきますのでご了承ください。

 

「ディエゴ・ベラスケス作  1630年」
月桂冠を被るアポロンがヴァルカンの元へ来て、
「ヴィーナスがマルスと不倫しているよー」と告げています。
この後、不倫を摘発させる為にヴァルカンは網を使ったのでした。
髭のおじさん、ムッキムキですね…。

「フェリス・リッチオ作  1542-1605年」
ハンマーを手に持ち、鉄を叩きまくる男たち。
その隣にいる、場違いなほどセクシーなヴィーナス。
鍛える男達と美女の構成は人気であったようで、
同様のテーマの作品が何枚も残されています。

「ホアン・デ・エスピナル作  1760年」
ヴァルカンの鍛冶場に訪れたヴィーナス。マッチョおじさんと
美女、赤と青の対比が鮮やかに描かれています。
ヘラの第一子で位としては低くない神ですが、足が不自由で
イケメンではなかった為に、浮気されてしまうのでした。

「Nicolaas Marten Fierlants 作 1622-94年」
この作品はヴァルカンの物語をテーマとしながらも、大砲や
甲冑など、近世の戦争に使われたものが並べられている
ようですね。「こんな物が作れるぜ!」と鍛冶場の宣伝目的と
しての絵画だったのかしら。鈍器を持つ姿がナイスです。

「ルカ・ジョルダーノ作  1634-1705年」
中央で懸命に槌を振るう漢たち。カーテンの影には
セクシーなヴィーナスと…右側に軍神アレスが!
この画家さんは宗教画のイメージが強いので、神話と宗教と
現実の鍛冶場の空間フュージョンが感じられます。

「コルネリス・ファン・ハールレム作  1562-1638年」
こちらは珍しく、二人を夫婦らしく共に描いていますね。
ただ、女神の目はどことなく冷たく、手は盾のようなものを
指さしています。推測ですが、貴方は愛より鍛冶なのねって
いうメッセージなのでしょうか。

「ヤン・ブリューゲル (父)作  1568-1625年」
これはもう、鍛冶場の道具を全力で描きたかったとしか思えない
作品。左側にヴァルカンとヴィーナスがちょこんといます。
左右には市民感100%の鍛冶師たちがいますね。

「Louis de Boullogne 作  1654-1733年」
ヴァルカンの鍛冶場へ雲に乗って従者を引き連れて派手にやって
来た女神。「なんで来たんだ!?」と驚いているようです。
まぁ確かにこんなタクシー乗ってきたら驚きますね…^^;(ぇ
こちらも赤と青の対比が鮮やかです。

「ヤコポ・バッサーノ作  1510-92年」
神話のヴェールは脱ぎ捨てて、もはや鍛冶場のお仕事の様子を
描いた作品。鍛冶師のギルドの室内に飾ってあったりしたら
お洒落ですよね^^ 左側にちょこっといるヴィーナスと、
キューピッドと思われる羽の子が辛うじて神話を伝えています。

「ジョルジョ・ヴァザーリ作  1511-74年」
すんごい危ない状態で鍛冶に勤しんでいる男たち。
手前で盾を作成しているヴァルカンのもとへ訪れたのは女神
アテナ。奥さんに相手にされず不満が溜まっていた彼は、
拒否るアテナに迫ります。

「ヤコポ・ツッキ作  1560-96年」
作者はヴァザーリの弟子との事で、作風が似ているのが分かりますね。
奥では働くムキムキおじさん、近景ではヴァルカンとアテナ。
彼の猛烈なアタックから無事に逃れたアテナでしたが、
足元に落ちた液から半人半蛇のエリクトニオスが生まれたのでした。

「テオドール・ファン・テュルデン作  1606-69年」
全力で盾を鋳造しているマッチョ三人組。
ハンマーを振り下ろす肉体美が描きたかった!という作者の
強い意志が感じられますね。おしり!おしり!

「Gerard Douffet 作  1645年」
実際の鍛冶屋さんを見ながら描いたという感じの作品。
左のヴィーナスと思われる女性と子供がどこかコラージュしたか
のように浮いているような。そこの部分は違う画家さんが描いた
のか、後世に加筆されたのか…。

 ヴァルカンという名と同様の響きをしている「バルカン半島」。
 バルカン半島はヨーロッパの東南に位置する半島であり、民族紛争などが過激化していた時代は「ヨーロッパの火薬庫」とも呼ばれていたそう。

バルカン半島
イタリアの右側にある半島です。(Wikiより画像をお借りしました)

 私はてっきりバルカン半島の由来は鍛冶の神ヴァルカンだと思っていました。しかし、この機会に調べてみたら、全然違いました^^;
 バルカン半島はオスマン語のBalkan(森深い山の連なり)から来ているとされ、14世紀のアラブの地図から表記がみられるとのこと。日本語表記だと響きが似ていても、バルカン(Balkan)とヴァルカン(Vulcan)。綴りを比べてみると双方の違いがあらわになりますね。

 また14世紀以前には、ヴァルカン半島は「ハイモス」という名がつけられており、ギリシア神話に登場するトラキア王が由来となっているとのこと。彼は「俺はゼウス!妻はヘラだ」と自らを神と称した為、神の怒りを買って山に姿を変えられてしまったとされています。
 バルカン半島はヴァルカンに関係がありません…。一つ勉強になりました!^^;

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【 コメント 】

  1. 管理人:扉園 より:

     >> 美術を愛する人様へ
    画家によっては、鍛えられし鍛冶師たちを描くのに集中していて、ヴァルカンそっちのけですよね。
    聖セバスティアヌスやエンデュミオンなどの美青年の肉体だけではなく、ヘラクレスやヴァルカンなどのガチムチ系の肉体美…。画家の興味は尽きません^^;
    分かります。ヴァルカンは神パワーで熱さを弾き返せたとしても、モデルの方はきっと熱いですよね。火の粉とか飛んだらめちゃくちゃ熱そうです…。

  2. 管理人:扉園 より:

     >> 季節風様へ
    神話の神様って程度はあれど、割とお仕事をこなしていますよね。
    確かに、ヴァルカンはその中でも大変な方…。お疲れ様です。

  3. 美術を愛する人 より:

    人が多く描かれてる作品だと、「どれがヴァルカン…?😅」ってなっちゃいます笑
    鍛冶場での仕事は肉体美を表現するのに適したモチーフの一つみたいですね!
    みんな裸で、ヤケドとかちょっと心配になってしまいますが…笑

  4. 季節風 より:

    ヴァルカンは神なのに重労働なんですね。
    妻のビーナスが夫の職場が気になりよく顔を出しているんですね。

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