オイディプスはギリシャ神話に登場す悲劇的な人物です。
テーバイの王ライオスは「子が自分を殺す」という神託を受けましたが、妻イスカオテとの間に男児が生まれてしまいました。ライオスは子供のかかとを刺して、従者に山中へ置けと命じたものの、従者は羊飼いに子供を渡します。羊飼いは彼をオイディプス(腫れた足)と名付けます。青年となったオイディプスは出生に疑問を感じ、アポロンの神託を受けました。そこで「父を殺すから故郷には近寄るな」という預言を受け、彼は羊飼いの両親の元を去りました。戦車に乗って旅をしている途中、ライオスの乗る戦車と出くわします。道を譲らなかったら馬を殺された為、オイディプスは怒って実父と従者を殺してしまいました。
誰を殺めたか知らないまま、彼はテーバイへと逃亡します。そこは怪物スフィンクスに悩まされていました。怪物は「朝には四つ足、昼には二本足、夜には三つ足で歩くものは何か」という謎かけをして、答えられない者を喰らっていました。ライオスの代わりに王となったクレオンは困り果てて「スフィンクスを倒した者には町とイスカオテを与える」とお触れを出します。そこへ現れたのがオイディプス。「人間だ!」と彼は答え、スフィンクスは悔しさのあまり死んでしまいます。こうしてオイディプスは無自覚のまま父を殺し、母を妻としたのです。
王となった彼は母との間に四人の男女を生みましたが、国内は飢饉と疫病が続きました。その理由を神託で聞くと「ライオスを殺した者を追放せよ」と出ました。調査している内に出生について知ることとなり、遂にオイディプスは犯人が自分であったことを突き止めます。恐ろしい事実に母は命を絶ち、彼は両目をえぐって放浪の旅に向かいます。その後、「コロノスのオイディプス」によれば彼は娘アンティゴネーに手を引かれてコロノスの神域まで辿り着き、そこで一悶着あった後息絶えたとされています。
父を殺し母と契り、盲目となり放浪者となったオイディプスの悲劇の絵画15点をご覧ください。
「ジョゼフ・ブラン作 1867年」
旅をしている途中に従者とライオス王の乗った戦車と出くわします。
「どけ」という居丈高な態度と馬を殺されたことに激高し、オイディプスは
実の父を殺してしまいます。
絵画のオイディプスはトラの毛皮を被っていますね。
「ギリシャ時代の赤絵壺 470年頃」
女神ヘラの陰謀でスフィンクスがテーバイに住み着いてしまいます。
女の顔、獅子の身体、鳥の羽を持った怪物は謎々を出して不正解
だった者を喰らっていました。
「ドミニク・アングル作 1808-27年」
ちりちりヘアーとモミアゲが気になるオイディプスが「答えは簡単だ。
人間だろう」と答えます。スフィンクスは悔しさのあまり命を絶って
しまいます。それにしても背後のおじさんは誰でしょう・・・。
クレオンか一般の人?
「ギュスターヴ・モロー作 1864年」
象徴派の巨匠モローは妖艶で異国情緒溢れるスフィンクスと美青年風
オイディプスを描いています。謎かけをしているというより、
美しさで誘惑しているといった風情ですね。手前には犠牲者の手足が・・・。
「ギュスターヴ・モロー作 1888年」
24年後にモローは再び同テーマを描いています。右側に犠牲者が並び、
オイディプスでさえも頭を垂れてスフィンクスを崇めているかのようです。
「フランソワ=グザヴィエ・ファーブル作 1766-1837年」
結構小ぶりなスフィンクスさんですね・・・。オイディプスは「撃ってやるぜ」
みたいなジェスチャーをして、回答しています。
「Eugène Ernest Hillemacher 作 1818-87年」
意外にもオイディプスの絵画はソポクレス作のギリシャ悲劇
「コロノスのオイディプス」のシーンの方が多かったです。両目をえぐって
盲目となった彼は乞食となり、娘アンティゴネーに連れられています。
「Charles Jalabert 作 1819-1901年」
オイディプスはテーバイを飢饉と疫病に陥れた、罪深き呪われた者
として忌み嫌われていました。放浪してコロノスのエウミニデスの神域
へと付いた彼等は、コロスに早く立ち去ってくれと言われます。
「Benigne Gagneraux 作 1756-95年」
ここでもう一人の娘イスメネーと合流したオイディプス。
しかし、神託で「死んだ場所の守護神となる」と出たことによって、
人々の態度は一変します。テーバイの王クレオンはわざわざコロノスに
出向いて帰国するようオイディプスを説得しようとします。
「ヨハン・ハインリヒ・フュースリ作 1786年」
また、息子ポリュネイケスも父に「祖国から追い出されたから
戦争をしようと思う。親父、俺の守護神となってくれ!」と頼みに来ます。
怒ったオイディプスは「お前は弟に殺されるだろう!」と呪いの
言葉を吐きました。
「Jean-Antoine-Théodore Giroust 作 1753-1817年」
アンティゴネーも兄に祖国に戦争なんてやめて!と懇願しますが、
ポリュネイケスの意志は固く、そのまま立ち去ってしまいます。
「Charles Thévenin 作 1764-1838年」
この時、天候は荒れ狂い、雷は鳴り響いて雹が降り注ぎます。
自らの最期を悟った彼はコロノスの王テセウスを呼び、神域へ入る
ことを許されます。こうしてオイディプスは波乱の人生に幕を閉じたのです。
「Camille-Felix Bellanger 作 1853-1923年」
老いたオイディプスと娘アンティゴネーの二人の絵画は18、19世紀の
画家によく描かれました。象徴主義が興ったことによって、ギリシャ悲劇
ブームが起こったのかもしれません。
「Johann Peter Krafft 作 1809年」
死期を悟る父と嘆く娘。アンティゴネーを主人公とした悲劇も存在し、
ポリュネイケスが弟と相打ちとなって死んだ後、反逆罪の兄を埋葬
しようとした罪で彼女は捕えられ、獄中で自害してしまいます。
悲劇だからか、死んでばかりですね・・・(汗)
「Fulchran-Jean Harriet 作 1776-1805年」
おじいちゃん、めちゃ格好いいんですけれど!かつて百戦錬磨の
歴戦の勇士。娘に危機が陥り、再び立ち上がる・・・。と全然関係ない
設定とか作りたくなります(笑)盲目となって身も心もボロボロになっても、
彼女の父親であることには変わりありませんね。
オイディプスといえば、フロイトが示した概念である「エディプスコンプレックス」の語源になっていることで有名ですね。母親を求めて父親に反抗する幼児期の心理現象であり、男女共に生じる感情なのだとされています。Wiki を読んでみると「んん~そうなのか~?」と言った感じですが・・・。ユングはエディプスコンプレックスについて批判しているようですし、きっと個人差があるのでしょうね。
個人的にオイディプスと言えば「父を殺してスフィンクス倒して母と結婚して、真実知って盲目になった人」というイメージが強かったので、これらに関する絵画が多いと思ったらそうではなく、ソポクレス作の「コロノスのオイディプス」の絵画が多かったのは意外でした。こちらの物語は今回の調査で初めて知りました・・・。絵画は様々な物語や歴史を知る手段になるので、本当に勉強になります。
【 コメント 】
>> 季節風様へ
こんばんは^^
いえいえ。こちらこそ、いつもお越しくださり感謝です。
結果的に「父を殺し母を娶った」という恐ろしい事になったものの、意図せずそうなってしまったオイディプスは運命の被害者ですよね。
盲目となった後は「呪われた奴め!」と忌み嫌われたと思ったら、神託で「死後に守護者となる」と出た途端に「我が国へ来てくれ」と誘われる。
当時、神託がいかに重視され人間の運命の決定権を持っていたかが感じられますね。
エジプト神話とギリシャ神話のスフィンクスは姿が異なり、エジプトの方は季節風様が仰ったような姿をしています。
スフィンクスの起源は古代エジプトとされており、そこから各国に広まっていった際に変化していったのだと思います。
犠牲者になりかけた通りがかりのおじさん、あり得そうです(笑)
こんばんは。
いつも素晴らしい解説を有難うございます。
エディプスコンプレックスの語源がこんなに重たく悲しい話だったとは。娘アンティゴネーも健気で可哀想です。
アングル作のが一番ピッタリ来ます。オイディプスの知恵と逞しさを感じます。私はスフィンクスが首から上がエジプトの王みたいなのと勘違いしていました。背後のおじさんが、怖いスフィンクスを見て仰天して道を引き返そうと思っているのではと勝手に想像します。
>> 「撃ってやるぜ」? 「いち、にい、さん」じゃなくて?様へ
こんばんは^^
答えが<人間>の謎かけをしているので、確かに「いち、にい、さん」ですよねw
私は「撃ってやるぜ」に見えちゃいました(笑)
なんと!来年に芝居があるんですか!
「アンチゴーヌ」は日本の方が演じられているのですね。
クレオン王とアンチゴーヌの葛藤…。なかなか興味深いです^^
年末は色々とやることが多いですよね…。大掃除しなきゃ(> <) 私もギリシャ悲劇を読んでみたいです!(入門書から)
息子さんの相討ちの話は、『イーリアス』にちょっとだけ書いてあったような気がします。
アンティゴネーのお話は、ジャン・アヌイというフランスの劇作家の書いた『アンチゴーヌ』という芝居を年明けに観てきます。
ああ、この冬すべきことが終わったら、ギリシャ悲劇集のようなものを注文したい……