カサンドラはギリシャ神話に登場する、トロイの悲劇の王女です。
父親プリアモス王で母はヘカベ、兄弟はヘクトルやパリス、ヘレノスなど18人がおります。カサンドラはアポロンに愛され、彼によって予言能力を授かりました。しかし、その予言の力によってアポロンが自分を捨てる未来が見えてしまった為、愛を拒絶してしまいます。怒ったアポロンは「お前の予言は誰も信じないだろう」と呪いを掛けてしまったのでした。
呪い付きの予言能力を持ったカサンドラは、ダメ王子パリスがヘレネを攫ってきた時も、トロイ軍勢が怪しい木馬を市内へと運び入れようとした時も、「トロイは滅亡する」と抗議をしたものの、誰も信じてはくれませんでした。そのままトロイは陥落してしまい、カサンドラは小アイアスに乱暴されたあげく、アガメムノンの戦利品となってミケーネに連れてゆかれてしまいます。そこで待っていたのは、突然の死でした。アガメムノンを恨んでいた彼の妻クリュタイムネストラにより、カサンドラは殺されてしまったのです。彼女はそれすらも予言していたそうです。
理不尽なアポロンのせいで望まぬ予言能力を持ち、国は滅び、敵には乱暴され、敵の妻に殺されたカサンドラ。ギリシャには悲劇の人物が多いといえど、彼女はかなりの悲劇的な人物ではないでしょうか・・・。
カサンドラについての絵画13点をご覧ください。
「Gaston Bussière 作 1862-1928年」
敵を詰め込んだ木馬を城内へと入れるトロイの市民たちに
カサンドラは必死に破滅の予言をするものの、アポロンの付けた
呪いのせいで誰も信じてはくれません。悲痛な声がこだまするだけ・・・。
「イーヴリン・ド・モーガン作 1898年」
炎上するトロイをバックにして、髪を引っぱって狂気を表すカサンドラ。
故郷が崩壊する事を分かっていても、それを止められないなんて
恐怖以外の何物でもないですよね・・・。
「ジョージ・ロムニー作 1734-1802年」
ロムニーは神話や歴史の人物に仮装した彼女の絵を何枚か
残しています。
これはカサンドラというより、ハミルトンさん100%状態ですよねw
「ジョージ・ロムニー作 1734-1802年」
こちらもエマ・ハミルトンとしてのカサンドラ。こちらは物語のワンシーン
のようにポーズを取っていますね。ちなみに、彼女はあのイギリスの
英雄ネルソン提督の愛人であったようです。マジですか!
「ジョージ・ロムニー作 1734-1802年」
またまたエマ・ハミルトンとしてのカサンドラ。ポーズは同じですが、
全身像が版画で手掛けられていますね。表情も鬼気迫るものがあり、
トロイの崩壊の前兆がひしひしと感じられる作品です。
「Henrietta L. (Henrietta Lee)作 1834年」
こちらもモノクロで描かれたカサンドラ。まだ少女といっても通りそうな
可憐な女性ですが、その目は見開かれ、滅亡を予言しています。
「ポンペイの壁画の一部分 1世紀頃」
トロイが陥落した後、カサンドラはアテネの神像にしがみ付いていた
にも関わらず、小アイアスによって乱暴されてしまいます。
彼はその罰当たりな行為により、アテネとおまけにポセイドンの天罰
によって海で溺死してしまうのでした。
「赤絵 紀元前440–430年頃」
このシーンは画家の印象に残ったらしく、何枚かの絵が存在しています。
あ、アテネの神像の表情が怖すぎる・・・。もうマジ切れしてますよ。
「ヨハン・ハインリヒ・ヴィルヘルム・ティシュバイン作 1806年」
カサンドラを連れ去ろうとする小アイアスの背に向けられる槍・・・。
何かもう、このままアテネ様の像が動き出して、背中をぐさっと
やりそうですね。
「ソロモン・ジョゼフ・ソロモン作 1860-1927年」
こちらはアテネの神像を画面に入れず、小アイアスのムキムキさ、
「俺って神より勝ってるぜ!」という大胆さが前面に表現されています。
このカメラ目線のドヤ顔がちょっと鼻持ちならない雰囲気・・・。
「中世の彩色写本の挿絵」
中世時代にもカサンドラの絵は残されています。トロイの予言をする
姿と、殺される姿。アガメムノンの戦利品としてミケーネに連れられ、
妻のクリュタイムネストラを見た時、この先に待ち受ける運命を察して
彼女は悲鳴を上げて倒れてしまいます。
「フレデリック・サンディーズ作 1829-1904年」
アガメムノンが浴室にいる間に、クリュタイムネストラは刺客を送って
彼を殺してしまいます。そして、カサンドラもその刃を受け、
命を落としてしまうのでした・・・。
「フレデリック・サンディーズ作 1863 – 1864年」
サンディーズは二枚のカサンドラの絵画を残しています。訴えかける
ような目と開かれた口。叫べども叫べども訴えは誰にも届かず、
孤独だけが募っていった彼女の人生。この二枚の作品は、そんな
彼女の心情を痛切に表しているように感じます。
余りの不幸な人生の故か、カサンドラはイタリア語の日常会話で「不吉、破局」といった意味を持って使われる事があるそうです。日本語で言ったら、「以前から仲の悪かったあの夫婦、カサンドラしたんだって」という感じなのでしょうかね?←何か違うような・・・。
また、現代の用語でカサンドラ症候群という症状があります。それはアスペルガー症候群のパートナーとコミュニケーションが上手くいかず、周囲からもその悩みを理解してもらえずに孤立してしまった伴侶、配偶者が、身体的、精神的に苦痛が生じてしまうという症状です。愛する人と分かり合いたいけどできない、周りの人達の理解も得られない。どうしていいか分からない。そういった葛藤が、予言をしても人々に信じてもらえなかったカサンドラと通ずる部分があるのですね。
人は誰しも自分を理解して欲しい。という欲求を持っているように感じます。それが叶わず、拒絶されてしまうのはとても苦しい事です。カサンドラのような人生を歩む人が一人でもいなくなればいいなぁ・・・と思います。
→ トロイの木馬についての絵画を見たい方はこちら
→ ヘクトルについての絵画を見たい方はこちら
→ パリスについての絵画を見たい方はこちら
【 コメント 】
>> 幻様へ
こちらにもコメントありがとうございます!
あ、神々の掟のことを以前も仰っていましたね^^
他の神が行ったことだけではなく、自分自身が行ったことも曲げてはいけないのですね。
融通が効かない…w
ミダス王はディオニソスから物を黄金にかえる能力を与えられた。「やっぱりこれいらない!」となったら、ディオニソスはその能力を消すのではなく、川へと移した。
これも神の掟によるものだったのですね。
それならアポロン、予言の能力を他人に移すことはできたのでは…?^^;
ギリシャ神話の神々は「気に入ったら強引に手に入れろ!」「気に入らなかったら呪いだ!」という短絡的な思考の方が多いような気がしますw
それが神々という存在なのでしょうか…。
>愛を拒絶されたら予言の能力を取り上げればいいのに、「誰も信じないようにしてやる」って追い打ちをかけるなんて神様と言えどもアポロン酷すぎます。
これはギリシア神話における「神が一度人間に与えたものを取り消すことはできない」という掟の一つによるものです。なので代わりの仕打ちとしてこんなことをした。
それにしても振られた腹いせとしては酷すぎる嫌がらせで、アポロンのやっていることはストーカーと変わりません。ギリシア神話って残念な性格の神々があまりに多いです。
>> 季節風様へ
こんばんは^^
愛を拒絶されたら予言の能力を取り上げればいいのに、「誰も信じないようにしてやる」って追い打ちをかけるなんて神様と言えどもアポロン酷すぎます。
母国の滅亡や自分の死を予言し、誰も信じてくれない。
悲劇としかいいようがないですよね…。
代名詞も可哀想ですよね。彼女に幸せをあげたいです…。
カサンドラは美貌すぎる故に呪いを受け非業の運命だったのだと思います。
見たくなくても見えてしまう自分の死は酷いです。不吉、破局の代名詞になるととはカサンドラさんが気の毒です。