ミダス王の絵画13点。何でも黄金に変える能力と、ロバの耳を持ってしまった王様 | メメント・モリ -西洋美術の謎と闇-

ミダス王の絵画13点。何でも黄金に変える能力と、ロバの耳を持ってしまった王様

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 ギリシャ神話に登場するミダスは、何でも黄金に変える能力を得たり、ロバの耳となってしまったりした王です。
 フリギア(現トルコ)の都市の王であるミダスは、泥酔していたシレノスを保護して10日間もてなし、シレノスの教え子であるデュオニソスの元へ送り返しました。感謝したデュオニソスはミダスに願いを叶えようと申し出ます。すると王は「触れるもの全てが黄金に変わるようにして欲しい」と頼みました。こうして能力を手にしたミダス。始めこそは石や草が金に変わってウハウハしていましたが、食べ物や飲み物までが金に変わってしまい、自分の間違いに気付きます。「すみません。やっぱりいりません」と祈るミダスに、デュオニソスは怒ることなく聞き入れ、「ならパクトロス川で行水しなさい」とアドバイスしました。ミダスがそのようにすると、能力は流れていき、川砂は砂金に変わったそうです。

 これに懲りたミダス王は富を憎むようになり、牧神パーンの崇拝者となりました。ある日、パーンと芸能の神アポロンは音楽合戦を行いました。パーンの素朴な音楽と、アポロンの美麗な音楽が奏でられます。審判者や居合わせた者たちはこぞってアポロンに軍配を上げましたが、ミダスだけはパーンを推薦しました。「お前は聞く耳がない!」と怒ったアポロンはミダスの耳をロバの耳に変えてしまいました。ミダスはターバンを巻いてロバの耳を隠していましたが、理髪師だけには隠せないので他言するなと命じていました。秘密に我慢できなくなった理髪師は、穴を掘ってそこへ話をささやいてから塞ぎました。その後、そこから育った葦が「王様の耳はロバの耳」と秘密を喋るようになってしまったそうです。
 童話でもおなじみのミダス王についての絵画13点をご覧ください。

 

「ニコラス・トゥルニエ作  1620年」
デュオニソスから何でも黄金に変える能力を貰ったミダス王。
始めは「億万長者じゃー!いえーい!」と喜びますが、食べ物や
飲み物が金に変わってしまう事を知り、彼は肝を冷やします。
絵画ではワインが黄金になっていますね。栄養が全くない・・・。

「C・E・ブロック作  1870-1938年」
19世紀の小説家ナサニエル・ホーソーンによると、ミダスはうっかり
愛娘を触ってしまい、黄金の彫像に変えてしまったそうです。
ご飯が金になるより数倍も悲しい出来事です・・・。

「ウォルター・クレイン作  1845-1915年」
絵の下には「ミダスの娘は黄金に変わった」と書かれていますね。
ワインが黄金になったという事は、手だけではなく全身どこでも
触れれば金になると言うことなのかしら。服もぴっかぴか・・・?

「アーサー・ラッカム作  1867-1939年」
幼い娘だけではなく、ミダス王までもが黄金に輝いているように
見える作品。きっとラッカムさんも「服も靴も肌に触れているものは
全部金になるのでは!?」と思って描いたのですね。凄く重そう・・・。

「二コラ・プッサン作  1594–1665年」
「こんな能力嫌だ!」と嘆いたミダスはデュオニソスに祈ります。
願いを聞き届けた神は「パクトロス川で行水してきなさい」と彼に
言いました。早速ミダスがそのようにすると能力は水に流され、
パクトロス川は砂金でいっぱいの川になったそうです。

「二コラ・プッサン作  1627年」
プッサン二枚目。こちらも行水をするミダスの作品。ミダスは左側の
うつむいているおじさんです。右側の人物はパクトロス川の擬人化
としている解説もありましたが、デュオニソスかな~?とも思って
しまいます。右下には子供二人が水を流しています。

「バルトロメオ・マンフレディ作  1617-19年」
脚をごしごしと洗うミダス王。象徴的なものを一切排し、暗闇の中で
静かに脚を洗っている様子はちょっと不気味に見えます。
黄金に対する嫌悪というか憎しみがひしひしと感じられるような・・・。

「Simon Floquet 作  1634年頃」
その後ミダスは富を捨て、牧神パーンの崇拝者となりました。
ある時パーンとアポロンが音楽合戦を行う事になり、二人の音楽が
奏でられます。審判者トモロスや取り巻き達がアポロンを支持する
中、ただ一人ミダスだけがパーンを絶賛するのでした。

「ヤーコブ・ヨルダーンス作 1636-38年」
怒ったアポロンはミダスの耳をロバの耳に変えてしまったのでした。
こうしたテーマの絵画は「The judgement of Midas (ミダスの審判)」
と言う題が付けられ、幾つかの作品が残されています。

「ヤーコブ・ヨルダーンスの工房作  17世紀」
めっちゃ凄い肉体をしたアポロンですね・・・^^; 中央にいるのは
審判者トモロス。ミダスは右側の青い衣服を着た人物で、横の
パーンを指さしています。それにしても肉体が凄い・・・。

「アブラハム・ヤンセンス作  1601-2年」
さて、ミダス王はどこでしょう? 右手前の人物はサテュロスで、
中央にはトモロス。そして・・・そのちょっと右側を見てください。
ひっそりとロバの耳をしたミダスがいますね^^

「ノエル・ハレ作  1750年」
後光を発して神様パワーを出しまくっているアポロンが、ミダスに
罰を与えていますね。地べたにふにゃっと座って頭を抑えたミダスが
何だか可哀想です。それにしても審判者のトモロスさんはどの
絵画でもいいポジションにいるような気がします・・・。

「Othea’s Epistle (女王の写本より) 作者不詳 15世紀」
最後にこんな作品を掲載する管理人w
アポロンの頭が!パーンが一般人というより、ミダスのロバの耳が
可愛いというより、アポロンの頭がーっ!

 「黄金のパワーが欲しい!」と願ったのに「すみません。やっぱりいらない!」とデュオニソスに謝って許されたミダス。そして、「アポロンよりパーンの音楽の方が最強!」とアポロンに喧嘩を売ったのにロバの耳に変えられただけで許されてしまったミダス。一説によると彼が反省の色を見せると、アポロンはロバの耳を人間の耳に戻してあげたそうです。
 アポロンは結構残酷な神で、音楽合戦に負けたサテュロスのマルシュアスという者を皮剥ぎにしてしまったり、愛を拒んだカサンドラに呪いを掛けたり、戦争においては疫病の矢をまき散らしたりしています。アポロンとは限らず、「私って神より優れてる!」と言った者はことごとく神の怒りを受け、悲劇的な最期を遂げています。
 ミダス王自身が「わしが一番上手じゃ!」って言っていないから良かったのですかね。神は人間の「間違い」には寛容で、「奢り」には厳しいのかもしれません。ミダスは何と言うか、憎めない性格のように思えますね。

→ 皮剥ぎをされてしまったマルシュアスについての絵画を見たい方はこちら

【 コメント 】

  1. 管理人:扉園 より:

    >> 季節風様へ
    こんばんは^^
    人間過ちは犯すもの。犯した後の姿勢が大事ですよね。
    王の身分ではプライドが邪魔をしてなかなか「私が間違っていた」と言うのは難しい。その点ミダス王は素直だから許されるのですよね。
    「触る全てのものを金にする」ではなく、「触る全ての金属を黄金に変える」なら大丈夫だろうかと考えたのですが、人間の体内に微量の鉄分が入っているので、結局は相手に触れると一瞬で貧血に陥りエライことになってしまいます…。
    やはり欲望は厳禁ですね。
    最後の絵は「アポロンは太陽神だ。だから頭を太陽にしよう」と考えた、象徴を好む中世の絵師が描いたのだと思います。
    中世の作品で、ダフネが月桂樹に変わって悲しむアポロンも太陽の頭をしているものがあります。
    ただ、気持ちが高ぶって太陽に変化してしまった!という可能性もあるかもしれません^^

  2. 季節風 より:

    本当にミダス王は憎めないです。
    最初の過ちは教訓として有名ですね。ついには愛娘まで黄金に変えてしまい大反省。悲劇だけど幼い王女が黄金になり悲嘆にくれる王はまさに絵になる瞬間です。
    「ノエル・ハレ作  1750年」ミダス王が皆から笑われてる感じ。よけいなことをまたも言ってしまったせいで。最後の絵ですがまだ演奏の途中でミダス王がアポロンの方が下手だと言ったので怒りで太陽に顔が変わった瞬間でしょうか。

  3. 管理人:扉園 より:

     >> オバタケイコ様へ
    時代的に並べようと思うと中世は最初にくるべきなのかもしれませんが、この絵はオチにこそふさわしいです(笑)
    ありがとうございます!^^
    これからもフリーダムに喋らせていただきます!←ぇ

  4. オバタケイコ より:

    最後の絵、笑えます。(≧▽≦)
    ってか、扉園さんのコメント最高です!

  5. 管理人:扉園 より:

     >> ミダス王を愛する人様へ
    こんばんは^^
    プライドを傷付けられて怒り心頭で、しかも快楽や本能を嫌うアポロンによく許してもらえたなぁ…とつくづく思います^^;
    ミダス王の率直さや意見を変える素直さは、簡単に真似できるものじゃなく、ある種の特技のように感じます。嫌みがないから良かったのかな?
    でも、そうとう平謝りしたのかしら^^;
    キュベレーの特集、かしこまりました!
    絵画や写本、版画の集まりになってしまいそうですが、作品がありそうなので紹介させていただきますね。
    のんびりとお待ちください^^

  6. 管理人:扉園 より:

     >> 美術を愛する人様へ
    こんばんは^^
    雰囲気が喜劇だとしても、「たまたま」でロバの耳にされちゃったミダス王って哀れですよね…w
    運が悪くても哀れでも、非を認めて謝る人柄によって救われているから、なんだかんだで平和を取り戻してます。こういう人こそ土壇場で生き残りそうな予感がしますw
    (デュオニソスとパトクロス川が、ミダス王の人柄によって黄金になった娘さんも治してくれていることを祈ります)

  7. ミダス王を愛する人 より:

    色々気になって、私もwikiってみました。
    あの後ミダス王は、元の耳に戻してもらえたのですね(*^^*)
    アポロンの怒りに触れて生皮を剥がれた人も居るのに、自分の非を認める素直さが、アポロンや他の神様に好かれるのでしょうか。
    そしてミダス王について驚いたことがもう1つ。
    キュベレーの養子だったとは!!
    いつか、キュベレーの特集もお願いします☆

  8. 美術を愛する人 より:

    >>10
    たまたま居合わせたーーーーー!?
    ただそれだけなのに…
    好きな音楽を褒めただけなのに…
    たまたまアポロンの怒りを買って、たまたまロバの耳にされたのですね…泣ける(T_T)
    欲をかいてうっかり食べ物や娘を黄金にしてしまったり…
    ミダス王って、なんか………運が良いのか悪いのか、シュールな境遇の王様ですね(笑)

  9. 管理人:扉園 より:

     >> 美術を愛する人様へ
    こんばんは^^
    サラダならぬロバ耳記念日ですかw
    爽やかに怒りながら王をロバ耳に変えるアポロン様が脳裏に浮かぶようです…。
    wikiを見てみるとミダス王はアポロンとパーンの音楽合戦に「たまたま居合わせた」そうで、ミダス王の関係者は誰もいなかったと考えられます。
    また、審判者トモロスは山の神とされており、パーンが「俺はアポロンより優れてる!」と言ったから始まった対決なので、そこまでギャラリーを呼ばずに人里離れた山奥で対決していたかもしれません。
    ミダス王がターバンで頭を隠して山から自国へ行けば、ネットもTVもない時代なので、変な噂が立たない限り国民はまさか王がロバ耳となったとは思わないでしょう。
    私はそんな感じかな、と思います^^

  10. 美術を愛する人 より:

    「この音が良いね と言ったから 今日はロバ耳記念日」アポロン
    ふと思ったのですが、なぜ臣民はミダス王の耳がロバの耳ということを知らなかったのでしょうか?
    アポロンも出席するくらいの音楽合戦に呼ばれる人間とか、それだけでスポーツ新聞の1面や、Yahoo!のトップニュースに載りそうですが…
    神様や王様みたいな偉くて高貴な人だけしか知らない集まりだったのでしょうか???

  11. 管理人:扉園 より:

     >> 美術を愛する人様へ
    こんばんは^^
    服が金に変化した瞬間、ガチっと身動きがとれなくなりそうです^^;
    確かにそうですね。
    シェイクスピアの四大悲劇も悲劇だと知っているからこそ、感動したり芸術的に思えるのかもしれません。
    何も知らない人がミダス王の絵を見ても「え、何で女の子が金色で、男の人が泣いているの?魔法?」みたいな感じになってしまうように思います。
    自分自身の手で娘が金に変化してしまった、という物語の背景を知る事で悲劇性が増して、感動や美しさを感じるのかもしれません。
    私自身、絵画に隠された物語に惹かれる方なので、物語を知る事で絵画が二倍楽しめると思います^^
    (何も知らない状態で絵画を鑑賞して「どんな背景が隠されているだろう」と考えるのも一興だと思います)

  12. 美術を愛する人 より:

    すごく重そうw
    黄金の話もロバの耳の話も聞いたことはあったんですが同じ人の話だったなんて…!∑(゚Д゚)
    ミダス王可哀想!
    娘が黄金になっちゃうところは、絵で見ると悲しい場面と理解しつつも反面美しさみたいのを感じます。多分絵の好みとか技術とか関係なく、こういう物語だと理解した上で見ているからなんでしょうか??
    素人ながら絵画の世界は絵そのものだけじゃないんだなぁとか思いました!

  13. 管理人:扉園 より:

     >> 美術を愛する人様へ
    こんばんは^^
    ラッカムさんは北欧系の物語の挿絵のイメージが強いですよね。
    ミダス王の物語はどちらかと言えば喜劇のような感じですが、娘さんが幼稚園くらいの年齢だったら悲劇以上の悲劇物語になってしまいます(:_;)
    アポロン=太陽神だから頭を太陽にしてしまえ!という中世の人の思考が素敵ですw
    確か、アポロンとダフネの中世挿絵も少し似た感じの描写がありました。
    もしよければ下記のリンクより比較してみてください^^
    (宣伝すみませんw)
    https://mementmori-art.com/archives/16368225.html

  14. 管理人:扉園 より:

     >> 町の人様へ
    こんばんは^^
    たしか以前にも仰っていましたね♪
    ちなみに私の幼稚園時代「七匹の子山羊」だったような。何役だったかな…?
    童話だとやはりマイルドになっていますよね。
    アポロンやマルシュアスが出てきたら阿鼻叫喚のトラウマものにw
    ロバ耳のミダス王、ミネルヴァ様の知的アピールのダシにされていますね…。
    アポロンは「音痴だ!」とロバ耳にしたのに、当時の西洋だとロバ耳=道化=愚者ですから、愚者の象徴みたいに取り扱われてしまって可哀想です^^;
    そういえばマルシュアスの楽器はアテネ様が災いを付けてぽいっとしたものでしたっけ。
    そう考えるとますます皮肉めいていて可哀想に思えてきました…。
    アテナ様がすんごい顔で吹いている図を探してみたけれど、残念ながら見つけられませんでした(´・ω・`)
    ただ、笛を吹くアテナ様とついでにマルシュアスの赤絵を発見したので、以下にリンクを載せておきます!
    https://www.theoi.com/Gallery/T61.5.html
    https://www.theoi.com/Gallery/T61.4.html

  15. 管理人:扉園 より:

     >> 美術を愛する人様へ
    こんばんは^^
    ミダス王の記事お待たせいたしました!
    確かに葦さん意地悪ですね^^;
    でも、神話ではニンフであるシュリンクスが牧神パーンに追われたから、葦に身を変えたとされているので、もしかしたらパーンが嫌いでミダス王に嫌がらせをしたかも…?
    アポロンに反抗したら罰を与えられてしまう、最悪皮剥ぎの刑にされてしまう…と仲間達は怯えて何も言えなかったかもしれません^^;
    そんな恐ろしい神アポロンに真っ向から「わしはパーンの方が良い!」と言い切り、殺されなかったミダス王、ある意味大物だと思います。

  16. 美術を愛する人 より:

    ラッカムさんミダス王の話も描いてたんですね。幼稚園レベルで小さい子の悲劇はきつい…
    そして記事のオチが!
    アポロンの描写で初めて見るパターンかも。

  17. 町の人 より:

    幼稚園でやりましたよー、「町の人」の役を^^ ←ぇ
    いやー、あの頃は、ただ「王様」としか教えられなかったものですから(あの劇は後日談的なものだから、アポロンが出てこないし、マルシュアスの皮剥シーンもないしw)、後から知って(二十年後くらいかな?)びっくり仰天でしたよ。
    マイルドなのは、アイソポスバージョンかな?
    ロバ耳といえば、フクロウや本で知的アピールがほどこされたヘンドリック・ホルツィウスのミネルヴァを描いた絵の背後に、対比としてロバ耳のミダスが描かれています。
    そうそう、たしかマルシュアスの楽器って……
    アテナ女神がすんごい顔で楽器吹いてる絵とか、だれか描いてないんですかね( ̄▽ ̄)

  18. 美術を愛する人 より:

    わーい!!ミダス王の記事待ってました~!!
    ありがとうございます♪
    ロバの耳の秘密を広めたのが、葦だったなんて…
    葦笛を使ったパーンを褒めてくれたんだから、そこは忖度して黙っててあげなさいよー
    と思いました。
    音楽合戦でロバの耳に変えられてる時も、どのパーンもミダスを庇ってあげたり、アポロンに取りなしてあげたりとか、同情的な姿を見せてないのが切なくなりますね(T_T)

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