中世彩飾写本のクジラ&イルカの絵画13点。作者の想像力でシュールな怪魚と化す | メメント・モリ -西洋美術の謎と闇-

中世彩飾写本のクジラ&イルカの絵画13点。作者の想像力でシュールな怪魚と化す

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 島国である私達にとってはクジラやイルカは比較的身近な存在であり、昔から共生して暮らしてきました。クジラの肉を食べたことがある人もいるのではないでしょうか。
 西洋においてもクジラやイルカは付近を回遊しており、決して見られない環境ではありません。しかし、中世初期時代の海は北欧のヴァイキングが席巻しており、海に乗り出すのは危険が伴う為に西洋の人々は好んでいきませんでした。彼等が次々と海に繰り出していったのは15世紀半ばの大航海時代以降のことであり、それ以前は海は未知の怪物が潜んでいる恐ろしい場所だと思われていたのです。
 クジラやイルカの存在を旅人や宣教師の話で聞いた事はあれど、見たことがない人が大部分を占めたと思います。見たことがない人がクジラのような巨大な海の生物を描いたらどうなるか。「これがクジラなの?」と思うようなとんでもない姿になってしまいますよね。
 では、シュールなクジラ&イルカと思われるの写本挿絵13点をご覧ください。

 

「中世彩飾写本の挿絵より  1460年頃」
クロンファートのブレンダンは楽園を探す為に長期の航海へと
でかけました。そこで出くわしたるは島魚ジャスコニアス。
この巨大魚は自らの尾をくわえ、ぐるりと取り囲んでいます。
きっとクジラが伝説化し、このような怪物魚が生まれたのですね。

「大英図書館に収蔵されている写本より」
大魚(クジラ?)の上に船を停め、火を焚いている人々の図。
こちらは「千夜一夜物語」や「動物誌」に登場する、伝説の怪魚
アスピドケロンだと思います。巨大な島のような姿で船乗り達が
上陸して火をおこすと、怪魚は海の底へ潜っていってしまったそうです

「フランスの動物寓意譚より  13世紀頃」
こちらもアスピドケロンと思われる怪魚を描いた作品。
人と怪魚と船の比率が色々とおかしいですが、おそらく火を
焚こうとしているシーンなのかな・・・?

「大英図書館に収蔵されている写本より」
クジラかもしれない怪魚に乗って波乗りざっぱーん!
人々の表情を見ると何やら楽しそうですが、この後転覆する
ような気が物凄くします。

「中世彩飾写本の挿絵より」
大量の魚をはむはむしている怪魚。鱗や牙、髭はドラゴンを
思わせますね。アスピドケロンの作品よりも哺乳類寄りで、
まだクジラを思わせる容貌・・・なのか!?

「中世彩飾写本の挿絵より」
クジラかどうか分かりませんでしたが、この表情がシュールで
可愛くて思わず掲載してしまいました。←ぇ
この表情を見ているとじわじわ来ます・・・。

「パリの中世彩飾写本より  15世紀のものを20世紀に複製」
旧約聖書のヨナ書より。預言者であるにも関わらず、
神の言葉に従わなかったヨナは船人たちに海へと放り投げられ、
大魚(クジラとも)に呑み込まれてしまいます。龍?犬?魚?

「中世彩飾写本の挿絵より」
怪魚に呑み込まれたヨナは三日三晩お腹の中に入り続け、
改心してやっと吐き出されたのでした。
マグロ風の大魚がヨナをおえっと出していますね。

「ラシードゥッディーン著の「集史」の挿絵より  1400年頃」
こちらは珍しいアラブの人が描いたヨナ。
シーラカンスみたいな姿の大魚がヨナをぽんっと吐き出しています。
(既にクジラじゃないですね^^;)
それにしても魚が小さすぎるような気がする・・・。

「大英図書館に収蔵されている写本より 1490年頃」
天の川の近くにある星座、いるか座を描いた作品。
い、イルカ?と思うようなお顔をしていますね。人間のような歯が
あるし・・・。ヒレも多いし・・・。

「大英図書館に収蔵されている写本より」
こちらもイルカと紹介されていた作品。
形こそイルカに近い感じですが、顔!この無表情な顔!
こんな顔のイルカが泳いでいたら、全然可愛くない・・・。

「アイスランドの写本挿絵より  17世紀頃」
おおっ!若干背びれや表情が気になりますが、ぱっと見で
クジラと分かる作品ですね!額からは潮もちゃんと吹いています。
北欧アイスランドは日本と同じく火山島で、海に面しているので
クジラを見る機会も多かったのでしょう。

「アイスランドの写本の挿絵より   1574-1658年」
こちらも線はシンプルだけど凄くクジラっぽいですね!
海の男ヴァイキングの末裔の実力はさすがです。

 深海に暮らす巨大な生き物代表と言えば、マッコウクジラとダイオウイカですよね。
 近世の挿絵でクジラと巨大イカが戦う姿が描かれているものを見て、双方はライバル的な存在なんだなぁと思っている人がいるかもしれません。(かつての私がそうでした) しかし、最近の研究でマッコウクジラの大好物がダイオウイカであることが分かり、あの戦闘シーンは「食べるぞ~♪」と襲いかかるマッコウクジラと、「やめて~!」と必死に抵抗するダイオウイカの姿だったのです。勿論ダイオウイカもただ食べられる訳ではなく、マッコウクジラの肌に幾つも吸盤の跡をつけているそうなので、その戦闘は激しいものであったと推測できます。
 そうであっても、食物連鎖な世界にちょっぴりと残念に思った管理人でした。(絵画関係ないですねw)

→ ヨナについての絵画を見たい方はこちら
→ 中世写本のシュールな象についての絵画を見たい方はこちら

 

【 コメント 】

  1. 管理人:扉園 より:

     >> 美術を愛する人様へ
    いえいえ、お役に立てて成りよりです^^
    手前の天使さんがバハムートを食べる気満々に見えますよね。
    海鮮&牛で豪華どんぶりです。←違w

  2. 管理人:扉園 より:

     >> 年賀状のイラストを描くのに……様へ
    ネット用ではなくリアル年賀状でしたか^^
    丸くて流線的なフォルムが、似ているような似ていないようなw
    でもイノシシは泳ぎが上手で海を泳いで渡るというし、実は先祖が近しいのかも?

  3. 美術を愛する人 より:

    >>6
    コメ2の質問者です。
    URLまで挙げて下さり誠にありがとうございます。
    さっそく検索してみましたが、wikiのはバハムートが丼物にされたような絵で、こちらもなかなかシュールでした。

  4. 年賀状のイラストを描くのに…… より:

    あ、ごめんなさい。
    年賀状はリアルで出したものなので、ネット上には載っけてないです。
    でも……ほら、なんか似てません?
    イノシシと……形が(笑)

  5. 管理人:扉園 より:

     >> クジラを愛する人様へ
    こんばんは^^
    挿絵を見ただけで種類が分かるとは凄いです!
    アイスランドの方も捕鯨をしているので、間近で観察したからこそ特徴を捉えて描けたのでしょうね。
    クジラはかなり大きいですが、流石に船で上陸して火を焚けるレベルではないような気がします^^;
    クジラは小島のように休憩するのではなく、立って寝ると当時の人が知ったらきっとびっくりしますよね。
    地動説のように「異端だ!」と言われてしまうかもしれませんが…。

  6. 管理人:扉園 より:

     >> 美術が好きな蜘蛛様へ
    こんばんは^^
    クジラやイルカは海を泳いでいるから魚だ。やっぱり鱗があるのだろう!という連想なのでしょうね^^;
    海に哺乳類がいたり、鱗のない魚もいるというのは情報が制限されていて海に出た事が無い人にとっては想像しにくい部分があるのだと思います。
    確かに、口の付き方がサメのような作品もありますね。
    特にヨナを飲んだ黒いクジラがマグロとサメの合いの子っぽいです。

  7. 管理人:扉園 より:

     >> 美術を愛する人様へ
    こんばんは^^
    中世の作品って、なんとなく日本の画風を思わせる部分がありますよね。
    「めちゃ切れ長な目!」というマリア様もいますし^^;
    レヴィアタンは中世の写本にちらほらいますが、それ以降の作品はブレイクとドレくらいしか私も思い付きません。
    ただ、レヴィアタンはアンチキリストが乗っている図像があったり、ヘルマウス(地獄の口)と関連しているとされているので、それなら以下の記事で紹介しています^^
    <レヴィアタンの英語のwiki>
    https://en.wikipedia.org/wiki/Leviathan
    <メメント・モリ アンチキリストの絵画>
    https://mementmori-art.com/archives/22675517.html
    <メメント・モリ ヘルマウスの絵画>
    https://mementmori-art.com/archives/17665768.html
    バハムートは申し訳ありませんが、二枚の中世挿絵しか見つかりませんでした(> <) アラビア語ならヒットするかもしれませんが、そこまでの技術が無くて…。 こんな感じです。 <バハムートの英語のwiki>
    https://en.wikipedia.org/wiki/Bahamut
    <ピンタレスト>
    https://www.pinterest.jp/pin/465911523942522324/?lp=true

  8. 管理人:扉園 より:

     >> 年賀状のイラストを描くのに……様へ
    こんばんは^^
    同じ哺乳類なのは確かですが、凄い繋がりで参考にしましたねw
    クジラが飛びあがる程の迫力があるイノシシを見てみたいです。
    (掲載しているのかしらと思って訪問してみましたが、ありませんでした。メンダコ可愛いかったです^^ 実は私、メンダコ大好きなんです)
    ぼうや~よいこだねんねしな~というアレですか?←違w

  9. クジラを愛する人 より:

    「アイスランドの写本挿絵より 17世紀頃」
    のクジラは、ナガスクジラもしくはシロナガスクジラで、
    「アイスランドの写本挿絵より 1574-1658年」のクジラは、セミクジラだと思います。
    特徴をよく捉えてるなぁと思います。
    しかし、なぜ船乗りは皆クジラの背中の上で焚き火をしたがるのか!?笑
    小島だと思ったんでしょうね。
    でも、船を近付けられて、火を焚かれるまで気付かないクジラも、なんだかカワイイと思ってしまいました。

  10. 美術が好きな蜘蛛 より:

    魚といえば鱗なのは昔からのようですね。
    ラシードゥッディーンのは大きさ的にイルカにも見えますが、大きな魚のような生き物と言われたら、マグロやサンマのような鱗のある魚を想像しますし、あんな肉肉しい姿は浮かばないかもしれません。
    意外と何枚かはサメの可能性もあるんじゃないかと想像したりもしました(笑)

  11. 美術を愛する人 より:

    なんだかチラホラ狛犬っぽい顔のが…
    中世写本のお魚は妙な愛嬌がありますね。
    ところで、旧約聖書のレヴィアタンやイスラムの世界魚のバハムートの絵ってあまり無いんでしょうか?
    前者はブレイクの絵くらいしか思いつかない…

  12. 年賀状のイラストを描くのに…… より:

    イノシシのイラストを迫力のあるものにしようと、飛びあがるザトウクジラの写真を参考にしながら描いた人です。←
    『まんが日本昔ばなし』の世界ですね(違
    あの歌が聴こえてきます(笑)

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