オランダの諺は風刺に満ちていた。ブリューゲル作の「ネーデルラントの諺」10選 | メメント・モリ -西洋美術の謎と闇-

オランダの諺は風刺に満ちていた。ブリューゲル作の「ネーデルラントの諺」10選

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 「ネーデルラントの諺(ことわざ)」は1559年に、画家ピーテル・ブリューゲル(父)よって描かれました。
 ネーデルラントは現在で言うオランダ、ベルギー辺りの国であり、ブリューゲルはそこのブラバント公国出身でした。ネーデルラントには日本と同じように、人生を生きる為の知恵とも言える諺が多く存在します。ブリューゲルは諺を一枚の絵画に詰め込みました。その数は判明しているだけで約85種あり、そのどれもが風刺と皮肉がエッセンスとして盛り込まれています。
 厳選した10個の諺をお伝えいたします。

 

全体はこのような感じ。
絵画の中に約85種もの諺がぎっしりと詰まっています。

左半分拡大。
悪魔を縛っていたり、壁に頭をぶつけていたり、みんなそれぞれ
不思議な行動をとっています。近景から遠景に至るまで諺の数々が。

右半分拡大。
よく一枚の絵に詰め込められたなぁと、巨匠の手腕を感じます。
以下から諺のアップを乗せていきます。

 

「パンからパンに届くすべを知らない」

Pieter_Brueghel_the_Elder_-_The_Dutch_Proverbs9

一個のパンに手を置いているものの、反対のパンには手が届いていないパン職人の男。
この諺は「お金が足りず、自分の生活費ではほとんどやりくりすることができない」という意味です。
今日のパンが買えても、明日のパンは手に入るかが分からない。今の経済では、今後のことが全く不透明であるといった場合に使います。

「尻に火が付いたように走る」

Pieter_Brueghel_the_Elder_-_The_Dutch_Proverbs_0

お尻に火が付いて、大慌てをしている男。
見た目通り「ひどく急いでいる、または全速力で走る」という意味を持ちます。
漫画とかで見られそうな展開で、日本人でも馴染みがありそうな諺です。

「一つの頭巾に二人の阿呆」

Pieter_Brueghel_the_Elder_-_The_Dutch_Proverbs4

窓からにょこっと二つの顔が覗いており、彼等は一つの頭巾(フード)を被っています。
これは「二人が全てにおいて意見の一致をみる」という意味で、主に悪い意味での「似たもの同志」のことを指します。あくどい計画において双方の意見がまったく一緒だった場合、一つの頭巾を被っていると言えるでしょう。

「大きな魚は小さな魚を食う」

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大きな魚が小さな魚を呑み込もうとしています。このモチーフはブリューゲルの素描でも見られます。
これは「強者が弱者を支配する。権力者が地位の無い民衆をぎゅうじる」という意味を持ちます。
日本でいう「弱肉強食」状態であり、下っ端はみんな上の支配下に置かれるという、悲しい意味の諺です。

「うまく世渡りしたいのなら、身をかがめねばならぬ」

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男が透明ガラス球に入って身を低くしています。
この球はキリスト教世界を象徴しており、「世渡り上手になるには身をかがめ、慎重になるべし」と諺は教えています。日本にも「石橋を叩いて渡れ」という言葉がありますね。出る杭は打たれる。低頭して世を過ごしていきたいです。

「最も長いものを得ようとして引っ張る」

Pieter_Brueghel_the_Elder_-_The_Dutch_Proverbs_ 10

二人の男が硬パンを掴んで、俺の物だ!と奪い合っています。
ですが、硬パンは砕けやすいので、全力で引っ張り合ったら粉々になってしまいます。
これは「お互いができる限り多くを得ようとし、利己的な利益を求める」という意味となります。利益を奪い合ったら、残る物はパン屑のようなものという暗喩が込められていそうです。

「悪魔をクッションの上で縛る女」

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恐ろしい表情の女が悪魔を縛り付けており、悪魔は目玉をひんむいてグロッキー状態です。
「意地悪で腕力の強い女」のことを指す諺で、日本で言う亭主を尻に敷く鬼嫁ですね。
確かに強い主婦は地獄の悪魔も簡単に蹴散らせそうです。足元にある棒は紡錘棒であり、喧嘩をした時に亭主を殴る武器になったとか。こ、恐い。

「一人は羊の毛を刈り、もう一人は豚の毛を刈る」

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二人の男がハサミを手に持ち、羊と豚の毛を刈っています。
豚を抱えている男は相手を羨ましそうに見つめています。同じ仕事をしていても、得られる毛は絶対に羊の方がいいものとなります。それに転じ、「同じことをしながら一人は有利で、一人は不利になること」を指します。人間だから「どうして同じなのに、私の方が・・・」って思う時もありますよね。世の理不尽さがよく伝わる諺です。

「神に亜麻のひげをつける」

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修道士と思われる老人がイエス・キリストに白いひげをくっつけています。明らかに悪そうな行為です。
これは「人を計略でだます、嘘を信じこませる、偽善者の振舞い」を意味します。
「夫に青いマントを着せる」という諺も同じ意味を持ち、「神に亜麻のひげをつける」という言葉は現在の西フランドルでも使われているそう。キリストって白いヒゲ生えてるんだよ!という嘘はつかない方がいいですね。

「頭を壁にぶつける」

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男がナイフを手に持ち、鬼気迫る勢いで頭を壁にぶつけています。
彼はこの先へ突き抜けたいのですが、壁は厚く歯が立ちません。これは「不可能なことをやろうとする、成功しない計画では、他の人は全く耳を貸さない」といった感じの意味を持ちます。
不可能に挑戦するのは格好いい事ですが、度があるわけで。超頑固者で、悪い意味での猪突猛進といった感じでしょうか。

 これらの諺がどこに描かれているのか、ぜひ探してみてください。また、彼の息子であるピーテル・ブリューゲル(子)も「ネーデルラントの諺」を描いています。ほとんど同じ構図ですが、顔や動きなど若干異なります。ブリューゲル以前の版画でも、諺を描いている作品が存在します。
 絵画を眺めるだけでも楽しいですが、内容を知るともっと楽しくなります。以下の「ブリューゲルの諺の世界」という書籍が参考文献になります。図版が豊富で、85種の諺が詳しく解説されています!

 

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