イエス・キリストや聖母マリア、天使、聖人などが描かれた宗教画は、信仰してきた対象を描くゆえに、神秘的で荘厳、均整のとれた美しい作品である場合がほとんどです。彼等の姿はほぼ形式化され、画家が異なれどもよく似た姿で描かれてきました。その表情も思慮深く、賢者そうな雰囲気をたたえているものが多いです。
しかし、中には「どうしてこうなった」と思えるような作品が存在します。その原因は時代特有のものであったり、象徴的なものだったり、画家の個性であったり・・・。「こんな理由なのかなぁ」と思いつつも、思わず突っ込みたくなってしまう作品たち。
では、「どうしてこうなった」と思える宗教画13点をご覧ください。衝撃的なものはありませんが、個性がきらりと光る作品をお楽しみください。
「8世紀のイコン」
キリストの磔刑図。中世のゆるい作風もいい味を出していますが、
気になるのは「脇腹ってここ?」と「罪人が女性に!?」という
二か所。胸があるのは気のせい・・・なのかな?
「作者不詳 15世紀」
笛をくわえ、カメラ目線を向ける天使。しかしその手には小型の
太鼓も。一人でふたつ演奏する気なのかな・・・。
小指を立てているところもナイスな演出。←ぇ
(追記)これはテイバーパイプというれっきとした中世の楽器でした!
「ミケランジェロ・ブオナローティ作 1546年」
こちらはどうしてこうなったではない、ミケランジェロの下絵作品。
磔刑されたキリストを支え、天を仰ぐ聖母マリア。
「ミケランジェロの追随者作 16世紀後半」
それを見て描いたらこうなった。マリア様のお顔が!恐い!
ミケランジェロのマリア様も大きめの比率でしたが、このマリア様の
方が迫力があって超巨大に感じてしまう・・・。
「ジャン・ジャコモ・カプロッティ作 1511年」
「世界の救世主」というテーマは多くの画家によって描かれています。
ダ・ヴィンチの作品で有名ですね。ぱっと見は精緻で美しい作品
なのですが、なんだろう。目元をじっと見てるとじわじわ来る・・・。
「ジャン・ジャコモ・カプロッティ作 1524年」
こちらも同テーマ。予備知識がない人から見たら、女性と間違えそうな
この人物は、イエスの若かりし頃とのこと。ダ・ヴィンチの作風を
模倣するあまり、聖母マリアによく似たお顔になってしまいました・・・。
「イタリアのロンバルディアの工房作 18世紀」
腹の底で何を企んでいるか分からないキリスト。
黒幕ってこんな表情をしますよね。←ぇ
「ベルギーのアントワープの工房作 16世紀」
流血が凄くてちょっと脱力してしまったキリスト。
「ボヘミアンの工房作 1440年」
画家なりに丁寧に描いたことは感じられるのですが、
中世の形式から脱却しておらず、半ば立体、半ば平面の胸広な
キリストとなっております。骨の表現って難しいですよね・・・。
「作者不詳 18世紀」
作者なりに丁寧に描いた・・・のかな?
色々人体の比率がこぢんまりしちゃっております。
「Sánchez de San Román 作 1500年頃」
物凄くセクシーなイエス様。
目元のほりが深いとか、髪の毛くるくるとか、胸板が凄く厚いだとか、
色々と気になる箇所がある個性的な作品。
「作者不詳 7世紀頃のイコン」
キリストと肩を組んで仲良しそうにしているのは、アレクサンドリアの
メナスさん。中世のゆるい作風とミニミニの頭身が合わさり、
癒し系の雰囲気を出しております。
「作者不詳 ロシアのイコン 19世紀」
幼子イエスの頭が肥大している!これだけではなく、この図像は
度々見られます。知恵が詰まっているという表現なのか、
世界を掌握しているという意味合いなのか。
「ヤン・コルネリス・フェルメイエン作 15
28-9年」
マッチョ!幼子がマッチョ!
顔と身体のアンバランスさもさることながら、手のピースサインの
不自然さも「どうしてこうなった!?」と突っ込みたくなりますね。
上記のフェルメイエンさんのイエスを見た時、「腹筋バッキバキやん!」と驚きを隠せませんでしたw 詳細を見てみると、手や足のバランス、マリアの胸や腰のバランスなど不自然な箇所があり、画家なりに色々資料を探して組み合わせたり、工夫して描いたのかなぁということが感じられ、なんだか親近感が湧きました。いや、人体デッサンって本当に難しいですよね。私も真面目に描いたつもりなのに、やたら顔が大きくなったり、手が小さくなったり。そして色を塗り重ねているうちに、「あれ、不気味な表情になっちゃった!」となったりw
美しい完璧な比率の絵画も魅力的ですが、こういった不自然で突っ込みどころがある作品も、ある種の魅力をたたえていると思えてなりません。これらの作品は、彼らにしか描けない味を持っているのですから・・・。
【 コメント 】
>> 美術を愛する人様へ
返信が遅くなりすみません。
これはテイバーパイプという名前なんですね!
二つ一対で演奏するなんて面白い楽器です。
この天使さんは自然に演奏していただけだったとは。天使さん失礼いたしました…。
記事に情報を追加させていただきます。
「作者不詳 15世紀」
笛をくわえ、カメラ目線を向ける天使。しかしその手には小型の
太鼓も。一人でふたつ演奏する気なのかな・・・。
小指を立てているところもナイスな演出。
==>> この笛は中世に使用されていた「テイバーパイプ」という楽器で、太鼓(テイバー)と一対で使用されます。一般的には左手で笛、右手で太鼓を操作するので、この絵は極めて正確に描写されています。
この構えで小指が立つのは手の腱の構造上、自然なことかと。
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>> オバタケイコ様へ
こんばんは^^
カプロッティさんのキリストは鑑賞者を注視しているのに、左右の目が少しだけずれているから独特の魅力がありますね。
性なるキリストw 背徳感溢れるネーミングですが適格な表現です(笑)
「えっ、なんでこうなったの?」と驚きと戸惑いで鑑賞者の興味を引くのも芸術の一つのありようですよね。
私が美術館でこのような作品を目の当りにしたら、正当な絵よりも凝視している時間が長いような気がします。
はっ、まさかそれが作者さんの思惑?←ぇ
「ジャン・ジャコモ・カプロッティ作 のキリストは観ていると引き込まれそうで怖いくらいの魅力がありますね。「Sánchez de San Román 作は何でこんなにセクシーなの❓って突っ込みたくなります。聖なるというより性なるキリストですね。
本当にこうやってみると変わった絵ばかり。正当な絵も美しいけれど、変な絵は興味が尽きませんね。
>> びるね様へ
こんばんは^^
あのお婆様の事件ですね(笑)
調べてみると、その後スペインでは聖母子像や聖ジョージの像もやらかしていたとは…。
話題にはなるにせよ、製作者から見たら「私の作品がなんでこうなったんだ…!」と嘆きたくなりますね^^;
アプシス画は曲面に描くから難しく、余計に大胆なバランスになっていそうです。
現物でアプシス画を見たことがないので、目の当たりにするとまた受ける感覚や感想が異なるのだろうなぁ…と思えます。
コマンジュの大聖堂には素晴らしい祭壇画風のお墓があるのですね。
人物によってサイズや頭身が変わるのが好きです^^
何でこうなった、というと何年か前にスペインで起こったキリスト像の修復を思い出します。
中世のものは見慣れてしまったせいか普通?に思えるのですが、カタルーニャ・ロマネスクのアプシス画(今はバルセロナにあるタウイのサン・クレメンテなど)はいつみても斬新なくらいなインパクトがあります。
コマンジュの大聖堂には3等身の使徒たちが控えていて、かわいかったです。
>> 美術を愛する人様へ
こんばんは^^
カプロッティ作のイエス様は眼球が少しだけずれているのに、こちらをしっかりと見てきますよね。だから不自然なのかな。
作者不詳18世紀のイエス様や、San Román 作のイエス様のじわじわと訴えかけてくるお顔も何とも言えません…。
そんな目で見るな…😅って気持ちになりますねw
>> 美術を愛する人様へ
こんばんは^^
4頭身イエス様かわいいですよね。
当時の人はこの挿絵を見て「かわいい」ではなく「宗教的な畏敬の念」を抱いたのかなぁと考えると、不思議な感じはしますが…^^;
ソロモンとシバ女王もそっくりだとは。
この8世紀のイコンを紹介するまで男女の描き分けについて気にしていませんでしたが、これは男女同様に描いた結果なのですね。
神聖なテーマをリアルに描くことが罪だと考えられていた時代なので、わざとこうしていたのだと私は思います。
「人物は持物や象徴で分かるよね。だから形は一緒でも大丈夫!」的な感じかのかもしれません…^^;
>> 美術を愛する人様へ
こんばんは^^
確かにひょうすべに似てる!
イエス様には申し訳ないですが妖怪の雰囲気ありますよね^^;
あの顔が中央に集まっている人物はよく見かけて、「元はなんだろう」と思っていましたが地獄のミサワっていうんですね。
ミサワさんはイエス様のパクリ…いえ、なんでもありませんw
ヨセフの表情もいい味出していますよね。
顔とか服の質感とか見事なだけに、異次元的なバランスで本当に面白いです^^
迷作、という表現いいですね。
私もこんな個性的な迷作を描きたいなぁと思ってしまいます(笑)
7世紀のイコンがかわいいです。
根付けとかにもなりそうなデザイン。
最初の絵の罪人で思いだしましたが、ソロモンとシバの女王を描いた中世の絵を見たときも
胸の形がほぼ同じで顔立ちもほぼ同じで、ヒゲでしか男女の判別が困難でした。
当時の人はストーリーでキャラがわかるから構わないで済んでいたのでしょうか……
「作者不詳 18世紀」
→妖怪ひょうすべ
「作者不詳 ロシアのイコン 19世紀」
→地獄のミサワ
に似ているなぁと思いました。
そして「ヤン・コルネリス・フェルメイエン作 1528-9年」に至っては、ヨセフも「どうしてこうなった!?」と、いぶかしんでおられます。笑
どれも、画家たちの「素敵な絵にするんだ!!」
という熱い思いが、思わぬベクトルで筆を進ませたのだろうなぁ…と伺える迷作ばかり面白いです。笑