中世装飾写本のラクダの作品12点。砂漠のシルクロード代表の動物を想像で描く | メメント・モリ -西洋美術の謎と闇-

中世装飾写本のラクダの作品12点。砂漠のシルクロード代表の動物を想像で描く

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 沢山の荷物を背中に乗せ、砂漠で歩く印象が強いラクダ。西アジア原産のヒトコブラクダと、中央アジア原産のフタコブラクダが存在し、ヨーロッパには生息していません。
 中世ヨーロッパの時代、大方の民衆は故郷の村や町で一生を過ごしました。王侯貴族や商人、騎士、放浪の旅人などの限られた者達だけが、シルクロードを通してやってきたラクダに乗るキャラバン商隊、十字軍などの戦争でイスラム側が編成したラクダ騎兵を通して、ラクダを目の当たりにすることができたのです。

 写真や動画も勿論ないので、人々はラクダの存在を人づてに聞くか写本を見るかしかありませんでした。他の異国の動物の知識も似たようなもので、キリンはラクダとヒョウの雑種であるという噂も流れたほどでした。そのように伝聞だけで想像で描かれたラクダは、「なんか違うぞ」とツッコみたくなる姿になってしまったのでした。
 では、ラクダの彩色写本の挿絵12点をご覧ください。全ての写本の名前や年代を特定するのが困難だったので、表記は割愛させていただきます。いずれもパブリックドメイン作品となります。

めっちゃ目が切れ長なスマートラクダ。
作者の人が「こぶのついた馬のような動物」と考えている
感じですね。こぶ部分の巻き毛がセクシーです。

物憂げな様子で空を見上げるラクダ。こぶと蹄でなんとなく
ラクダと分かりますが、後は謎の動物です。

穏やか~な顔をしたラクダが穏やか~な顔の人を乗せています。
ヨーロッパと一口に言ってもかなり広いので、時代や場所に
よってはラクダを飼育した西洋人もいたのかしら。

姿形はラクダっぽいですが、ドラゴンみたいな伝説の生物
っぽくなっています。翼とか生えてそう。

こぶがゆるやか~になってしまった、馬っぽいラクダ。
もしかして辛い長旅を終えて水不足になったラクダを見た人が、
「ラクダのこぶは大したことなかったぞ」と言ったのかしら。

こぶがあるイメージが先走ってしまい、サンコブラクダに
なってしまいましたw 必死な形相で何かから逃げるように
疾走している感じです。何があった?

ゆるーいたれ目をしたラクダさんが集まり、騎兵隊を結成して
います。戦争中にこの顔で全速力で襲ってきたら、恐すぎる!

威厳を称えた伝説の獣になっちゃっていますねw
背景の樹が背中と合わさり、背中から植物を生やしたかの
ように見えちゃってます。

顔の表情が絶妙すぎる!
キリンとラクダが混ざっちゃったかのような姿をしています。
足先が紅白色しているのも面白いですねw

にやり顔で鹿を追っているヒョウ。それを不安そうに見る
青いラクダと、我関せずな馬(?)。謎な形をした植物群も
合わさり、シュールな光景ですw

かなり現実に近いラクダ。砂漠の様子も忠実に描かれていますし、
作者が実際に現場で見たのでしょうかね。

こちらもほぼ現実のラクダです。玉座に座るライオンに
平伏する動物たち。ただ、ラクダだけはこうべを垂れる
ことなく堂々としています。ラクダは強し。

 家畜化された哺乳類というと、馬や牛、豚、羊、山羊などがあげられますが、ラクダもその例外ではありません。イスラエル東部では紀元前10世紀頃には既にラクダが家畜化されていたというのです。旧約聖書にもラクダの言及が50回近くあり、イスラム諸国では人との生活にいかに密着していたかが分かります。こちらが12世紀のアラビアの写本に描かれたラクダです。

 絵自体はゆるい感じなのですが、やっぱりヨーロッパの作品とは違い、常に見ている動物なので描写が適格ですね。轡(くつわ)や背中の鞍など、実際に使っていたデザインなのでしょう。

 歴史上ではヨーロッパ諸国とイスラエルは幾度となく刃を交えました。貿易も盛んで、知識人も往来していました。それでもその旅路は遠く、船旅や徒歩で何か月、何年もかかりました。移動は命がけです。年代を記していなくて恐縮ですが、ラクダの姿はやはり年代が進むにつれて進歩しています。森林に囲まれ、閉塞的な生活をしていた初期ヨーロッパの人々は開墾を行い、世界を徐々に広げていきます。これらのゆるい姿のラクダは、人々が大事に情報を持ち帰り徐々に伝えていった賜物なのかもしれませんね。
(私のベストオブラクダ賞は、ゆるーい顔をしたラクダ騎兵軍団です!w)

→ 象についての写本挿絵を見たい方はこちら

 

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【 コメント 】

  1. 管理人:扉園 より:

    >> オバタケイコ様へ
    メリークリスマス!^^
    今日は一日仕事でしたが、手作りケーキを食べたので満足です(笑)
    ブラックサンタいいですね~。
    いつになるかは分かりませんが、できたら記事にしますね!
    忘れた頃にクリスマスプレゼントとして送るので、ごゆるりとお待ちを…w

  2. オバタケイコ より:

    大塚国際美術館へは行ったんですね!羨ましい~💖
    あの。。。来年でいいのでブラックサンタをテーマにした記事読んでみたいです。ブラックサンタ大好きなので。w 

  3. 管理人:扉園 より:

     >> オバタケイコ様へ
    おおお~こんなに沢山の美術館を回られたんですね!
    羨ましいです~^^
    私はオーストリアとチェコ、北欧4か国へ行きました。
    次はスペインとオランダに行きたい!
    美しい写真ですね~^^
    夢のように綺麗な建築物ですよね。実際に見てみたら感動するんだろうなぁ…。
    それにしても、ビバンダム君のインパクトがとてつもないです(笑)
    大塚国際美術館へは行ったことがあります。
    10年近く前のことですが^^;
    有名作品がまとめて見られるなんて贅沢な場所ですよね。
    ボリュームが凄くてめちゃめちゃ見ごたえがありました!
    開館から閉館までいましたが、全部見きれませんでした…。
    また行きたいなぁ。

  4. オバタケイコ より:

    私は若い頃、海外によく行き、ルーブル、オルセー、ポンピドゥー美術館、プラド、ピカソ、ミロ、ダリ、エル・グレコ 美術館、MOMA、メトロポリタン美術館、NYとビルバオのグッゲンハイム美術館に行きましたが夢のような体験でした。
    今はお金もないし、腰が悪いので2度と飛行機には乗れませんが、十分ナマの芸術を謳歌しました。扉園さんはこれからどんどん行ってください!
    ご覧になったかもしれませんが、私のブログのカテゴリの《訪れた世界の建築》に美術館の写真がいくつか載せてあります。
    私の夢は、徳島の大塚美術館に行く事です💖

  5. 管理人:扉園 より:

     >> オバタケイコ様へ
    MOMAいいですね~^^
    代表作の「夢」はここで会えるのですね!
    うう…海外の美術館へ行きたいです。
    どこでも楽しいとは思いますが、まずはプラド美術館で快楽の園を拝みたいです。
    はやくコロナが終息しないかしら…。
    ありがとうございます^^
    中世の作品を眺めて、妄想タイムスリップを楽しみましょう(笑)

  6. オバタケイコ より:

    扉園さま、美術を愛する人さまへ
    日本人はルソーが好きなんですね!
    私も大好きです!約30年前、NYのMOMAで実物のルソーを見ました。
    彼は几帳面だったのですね。とても真面目な郵便局だったに違いありません。
    扉園さんがUPしてくれる中世の写本にいつも癒されています(*^-^*)

  7. 管理人:扉園 より:

     >> 美術を愛する人様へ
    中世写本好きの方がみえて嬉しいです!
    ゆるーい感じ、いいですよね~。美しい模様と色彩と文字、ゆるーい絵のコラボはたまりません。あの独特の雰囲気は真似して出せる物ではありませんし、本当にもっと評価されて欲しいです。
    画像検索で色々見ているので、写本個別の判別がなかなかできずにいます…。
    これから勉強していきたいですね!
    確かに、ルソーも抽象と平面が混じる個性的な作風ですよね。
    彼は几帳面で、モデルの顔を定規でしっかりと測り、絵具も混ざらないように毎回筆を洗いながら絵を描いた、ということを聞いたことがあります。
    当時はルソーの独特の作風を揶揄する者もいたようですが、あの作品は彼にしか描けません。
    上手い下手ではなく、独特の個性を持った作品というのは素敵ですよね^^
    中世写本の展覧会、いいですね~。
    ぜひやって欲しいです。絶対に行きます!
    ベリー公のいとも豪華なる写本とか、ケルズ写本とか来ないかしら。(難しそう…)

  8. 美術を愛する人 より:

    先日、評論家のYさんが自身のYouTubeチャンネルで中世の写本(「ボドリー写本764」)を紹介していました。
    私は中世の写本が大好きで、あのゆるい感じがたまりません。このサイトで紹介されている絵を見ては爆笑していました。
    日本人はルソーが大好きですが、「人物の大きさがおかしい」、「遠近感がない(おかしい)」、「動物が人の顔」、「動物の形が変」、「人物がやたら正面を向いてる」、「立体感がなく平面的」など共通する点は多いです。中世の写本を集めた展覧会をやれば絶対ウケると思います。

  9. 管理人:扉園 より:

     >> オバタケイコ様へ
    青いラクダさんもいいですね~。
    人語を喋って、乗っている人とゆるーくやり取りをしながら、冒険をして欲しいですw
    映画とかアニメがあったら観たい!^^
    紅白のラクダさんのやたら大きい蹄も面白いですし、みんな好きです(笑)
    そうですよね…。
    現代だとネットで様々な情報を入手でき、ラクダという生物に実際に会っていなくても、姿形は分かってしまいます。
    知らないからこそ想像力を膨らませた、不思議な作品が生まれないと思うと、なんだか寂しいですね…。
    カラフルなラクダがいたっていいじゃない!w

  10. オバタケイコ より:

    私のベストオブラクダ賞は3番目の青いラクダです。特別賞は足が紅白の何とも言えない表情のラクダです(笑) 画家さんの想像力、面白いですね~。通信網が殆どなかった時代、すごいです。それでも人は生きられる。今は世界が近くなった分、憧れや想像力が希薄になってるかも。。。

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