セメレーはギリシャ神話に登場する、ゼウスに愛されヘラの陰謀で殺された女性です。
テーバイの王カドモスとハルモニアとの間に生まれたセメレーは、ある日ゼウスに見初められ、子を身ごもってしまいます。それに嫉妬した妻ヘラは、セメレーの乳母に身を変えて彼女に近付き、こう吹き込みました。「その男は本当にゼウス様かしら。素性を証明するよう言ってみなさい」と。それを間に受けたセメレーは、ゼウスに「愛の証として聞いて欲しい」とお願いし、彼は叶えようと誓いを立ててしまいます。しかし、「天上での神々しいお姿を見せて」とセメレーが言うと、ゼウスは誓ったことを後悔しました。最高神の真の姿は、人間にとって直視できるものではなかったからです。
ゼウスが仕方なく神本来の姿になった瞬間、セメレーはまばゆい閃光に焼け死んでしまいました。亡くなったセメレーから生後6か月の胎児を取り出し、ゼウスは自身の腿に入れて臨月まで育てました。こうして生まれたのが、豊穣と酩酊の神ディオニュソスだったのでした。
では、ゼウスの真の姿を見て閃光に焼かれるセメレーの絵画12点をご覧ください。
「ジャコポ・ティントレット作 1545年」
「あの男は本当にゼウス様なのかしら」と疑念を膨らませる
セメレーの元に、暗雲と雷を携えてビューンと飛来してくるゼウス。
ヘラの思惑通り、セメレーは神の力で焼け死んでしまうのでした・・・。
「ピーテル・パウル・ルーベンス作 1640年」
セメレーが破滅した原因は、ゼウスが「雷霆を持っていたから」
「天上での姿になったから」「黄金の兜を被ったから」など
バリエーションが幾つかあります。ルーベンスのゼウスは雷霆を
持って来てしまったようですね。
「ルカ・フェラーリ作 1605-54年」
こちらも雷霆を持ち、ドーン!とやって来たゼウス。
激しいタッチと陰影でまばゆい閃光を表現していますね。
「Gaetano Gandolfi 作 1734-1803年」
部屋中が赤黒い閃光に包まれ、焼け落ちる間際のセメレー。
左側には乳母に化けたヘラがおり、おっほっほと嘲笑っている
ようです。相変わらず理不尽な嫉妬ですね・・・。
「ドッソ・ドッシ作 1489-1542年」
「ねぇ、貴方の真の姿を見せてちょうだい」「その答えはこれだ」
とゼウスが迷う間もなく、セメレーに雷霆を振り下ろそうとしています。
猟奇的なゼウスになっていますね^^;
「ジャックス・ブランチャード作 1600-38年」
「ねぇ貴方。真実を見せて」「これが真実じゃああぁぁー!」
と鷲を従え雷霆を持ち、セメレーに飛び掛かろうとするゼウス。
下心があるように感じる最高神。(いつもの事ですか・・・)
「Étienne Jeaurat 作 1766年」
「私の真の姿はこれなのだ」といつになくシリアスなムード。
セメレーも燃えたぎるゼウスに怯えているようです。
「セバスティアーノ・リッチ作 1695年」
「私の天上での神々しい姿を見るがいい!」と現れるゼウス?
なんだか閃光で焼け死ぬような雰囲気ではないような・・・。
セクシーなシーンに仕立てあげられているような気がしますね。
「Laurent Pécheux 作 1729–1821年」
セクシーなポーズを取りながら、神パワーで焼かれようとしている
セメレー。雷の閃光というより、室内70℃くらいの灼熱地獄そう・・・。
「ピエトロ・デラ・ヴェッキア作 1603-78年」
ゼウス、セメレーさんを脅迫しちゃいけません!
至高神パワーどころか、人間レベルの凶悪犯に。
「ギュスターヴ・モロー作 1894-95年」
モローは今までの様式を覆した、オリエンタルな風情溢れる
ゼウスとセメレー像を描いています。ゼウスが中央の玉座に座り、
その隣には儚く小さなセメレーが。
「ギュスターヴ・モロー作 1826-98年」
もう一枚似たバージョンをモローは描いています。
容姿は上記の作品よりもゼウスらしい感じですが、まぶしい閃光
レベルで言ったら上記の方が上かしら・・・。
セメレーの作品を見ていたら、気になることを発見しました。それは「描き方や様式がダナエの絵画に似ているものがある」ということ。金の雨に化けたゼウスに近付かれ、英雄ペルセウスを宿してしまうダナエ。
金の雨のゼウスに見初められるダナエのシーンと、天上の真の姿を見て焼け死んだセメレーのシーン。双方は異なる場面に思われますが、絵画によってはセメレーなのかダナエなの
か、一見にして分からないものもありました。ダナエにしては勢いよくゼウスが飛び出てきていたり、セメレーにしては艶っぽい感じだったり・・・。
当時はそこまで区別して考えられていなかったのか、もしくは画家や依頼主がわざとそういう雰囲気にしたのか、はたまた二つの神話に接点を感じていたのか。その真実は、歴史の闇の中に・・・。
→ ダナエについての絵画を見たい方はこちら
→ 英雄ペルセウスについての絵画を見たい方はこちら
【 コメント 】
>> 季節風様へ
こんばんは^^
自分の手を汚さずに愛人を破滅させるヘラはなかなかの策士ですよね…。
ゼウス、きっと恐がっていると思います(笑)
でも、ゼウスもヘラをやり込めたり罰したりしていますし、もしかしたら根本は似た者同士で、なんやかんやいい夫婦なのかもしれません。←ぇ?
モローの「セメレー」は色彩や構成など曼陀羅のようで美しいですよね。
神話だけ読むと、愛人系の話が多いのでゼウスの威厳はそこまで伝ってこない感じですが(私だけ?)、モローのゼウスはまさに「最高神」といういでたちに思えます。
ゼウスの子を身ごもった女性をゼウスに殺させるなんてヘラは冷酷なことをしましたね。ヘラの悔しさも分かりますが。ゼウスが胎児を守ったのは良かったです。ゼウスはヘラが怖いのかなと思うことあります。
モローの作品はセメレーがゼウスに守られているようでホッとします。特に賑やかで華やかなオリエンタル風情な絵は極楽浄土を連想します。
>> 見分けがつかない絵様へ
こんばんは^^
いえいえ、私も勉強になりました。
ヘカテ―は冥府や死なども司るミステリアスな女神ですよね。
(wikiによるとヘカテ―はアルテミス、セレネ―、ペルセポネ、メソポタミア神話の冥界の女神エレシュギカルと同一視されているそうです。同一視多すぎですがな!^^;)
ギリシャ&ローマ神話は色々な地域や時代の神様信仰を吸収して広がっていったので、その結果が同一視だらけになっちゃたのかもしれませんね。
>>5
おおっ 詳細を教えてくださりありがとうございます!ウォーリーをさがせばりにいろんな人物がいたんですね(笑)
ヘカテー、ウイリアムブレイクの絵で見たことあります(◜௰◝)
セレーネもだし、ヘカテーとか何人いるんだってくらい月の女神多いですね〜
>> 見分けがつかない絵様へ
こんばんは^^
そうなんです。サロメとユディトも混同されている節があり、クラナッハはほぼ同じ構図で二人の女性を描いています。
シチュエーションが似ていると、画家的には似せて描きたくなってくるのでしょうかね。
モローの作品を調べてみると、ヘラはゼウスのすぐ右隣にいる女性で、セメレーの脇で顔を伏せている少年がデュオニソス(バッカス)、牧神パンの下中央にいる女性は冥界の女神ペルセポネであり、左下の月の女性は月と魔術の女神ヘカテであるようです。
その他の方の言及はありませんでしたが、紫の衣服をまとった女性はペルセポネを探すデメテルなのかしら?
右側のお花を持っている人はフローラ?もしくは冥界に降る前のペルセポネとか…?
この絵画は全長213cmあるそうで、じっくりと間近で見てみたいですよね^^
>> 美術を愛する人様へ
こんばんは^^
ドッシ作のゼウスは腰布の素材がもふもふしているかと思ったら、ヘアーの方だったとは!掲載するにはレベルが高すぎましたか(/ω\)
全部出すよりも凄い、ある種のマニアックな領域に入ってしまいました。
「真の姿を見せてちょうだい」「これがワシの姿だ!」
…ゼウス様の正体はやはりヘンタ…いえ、スキャンダラスな最高神様ですね!
すみません、ヘラかな?と思った人はゼウスの台座の右下の紫色の女性ですね。で、その下端がアルテミスかなと( ⁰▱⁰ )
サロメとヨハネ、ユーディトとホロフェルネスも女性と生首のセットで時々どっちかわからないケースがあったみたいですね。お皿があればサロメ、剣があればユーディトと聞きましたが…
モローの作品のはいろんなゲストがいて賑やかですね!ゼウスの右足元で笑ってるのがヘラ?その下には三日月をまとった女性がいるからアルテミス?
「ドッソ・ドッシ作 1489-1542年」
のゼウスは、サンダルは履いてるのにマッパ(一応布はありますが、ゴールデンアンダーヘアーが見えてます)という、ヘンタ…
レベル高いお姿をしていらっしゃいます。
全裸靴下ばりのレベルの高さです。
いや、靴下はあくまで室内で着用しますが、サンダルを履くということは、外を出歩く気満々という公然ワイセ…
エクストリームスタイル!!(実際セメレーのうちに凸してますし)
さすが最高神様はやることが違います!!