ギリシャ神話に登場するアドニスは、女神ヴィーナスに愛された美青年です。
ある日、ヴィーナスは息子エロスと遊んでいるうちに、恋の矢で自分の胸を傷付けてしまいました。彼女はすぐに払いのけましたが、傷は想像以上に深いものでした。その時、近くにアドニスが通りかかったのです。ヴィーナスは瞬く間に恋に落ちてしまい、アドニスのことしか考えられなくなりました。彼は狩人だったので、ヴィーナスはアドニスと共に森や山を歩き、野兎や鹿などを追いまわしました。ヴィーナスは「いいですか。狼や獅子、猪など危険な動物には決して近付いてはなりません。私がいない間に身を危険にさらしてはいけませんよ」とアドニスに忠告し、用事を済ます為に二輪車に乗って大空を駆けていきました。
しかし、アドニスは気高く血気盛んな若者だったので、忠告を無視してしまいます。猟犬が猪を発見するやいなや、彼は槍を動物の脇腹に突き立てました。すると、猪はひるむことなくアドニスに突進し、逃げる隙もなく青年の脇腹に牙を付きたてたのです!アドニスは悲鳴を発し、野原に倒れ込みました。その叫びを聞いたヴィーナスはUターンし、血まみれになったアドニスの元へ駆け寄ります。あまりの悲しみに彼女は髪をかきむって胸を叩き、運命の女神を呪いました。「すべてを運命の女神に委ねるなんてできない。私はアドニスの死と悲しみを風化させないようにする。あなたの流した血は、美しい花となるのです」ヴィーナスはそう言ってネクタル(神酒)を彼に流しました。すると、ザクロのような赤色の花が咲き出し、この花はアネモネと呼ばれるようになりました。
悲劇の青年アドニスとヴィーナスの絵画14点をご覧ください。
「ジャン=バプティスト・ルニョー作 1754-1829年」
息子エロスの矢によって、恋に陥ってしまった愛の女神ヴィーナス。
狩人アドニスは生き生きとした美青年で、プライドの高い人物でした。
「Jacopo Amigoni 作 1740年」
いちゃいちゃするお二人。三名のエロスが「お二人お似合い~!
きゃっきゃ♪」とはやし立てているようです。
「セバスティアーノ・リッチ作 18世紀」
更にいちゃいちゃするお二人。ヴィーナスは花輪を作って頭に
掛けてあげています。左のエロスは狩りに出かけたい犬に「めっ!」と
しているようですね。愛は狩猟がお嫌いなのです。
「パオロ・ヴェロネーゼ作 1580年」
もっといちゃいちゃするお二人。少しくどくなってきました。
ぐーぐーと膝枕で寝るアドニスに、ヴィーナスは謎の旗(?)を立てて
います。はがい絞めにされているワンコを見て「これは私のものよ。
危険な狩猟には行かせないわよ・・・」という執念でしょうか。
「ピーテル・パウル・ルーベンス作 17世紀前半」
しかし、やはりアドニスは狩人です。危険な狩猟だってやりたいのです。
「兎や鹿とか、安全な動物は狩ってもいいわ。でもね、獅子や狼、
猪が出たら真っ先に逃げてちょうだい」とヴィーナスはアドバイスします。
「ティツィアーノ・ヴェチェッリオ作 1554年」
「分かったよ。じゃあ行ってくる」と言うアドニスに「ちょっと待って!
本当に分かった?ちゃんと私の言っていること守ってよ?」と念押しを
しているように見えます。胴体をがっつりと掴んでいますね・・・。
「コルネリス・ファン・ハールレム作 1562-1638年」
「うん、分かったよ・・・」「なんか返事が弱々しいわね。まぁ、いいわ。
行ってらっしゃい。私は用事があるから、二輪車で天界へ行ってくるわ」
二人の間から、なんかもの凄い緊迫感が・・・。しかし、そこまで念を
押しても、アドニスは猪を追っかけてしまうのです。
「Jacopo Bertoia 作 1560-66年」
悲鳴を聞きつけたヴィーナスは急いで戻りますが、目に飛び込んで
来たのは脇腹から大量出血をしている無惨なアドニスの姿。
「そ・・・そんな、あれだけ言ったのに!」エロスたちも悲し気な顔です。
「ベンジャミン・ウエスト作 1738-1820年」
「アドニスの馬鹿・・・。私を置いて行ってしまうなんて。彼を奪った
運命の女神なんて大嫌い。絶対に好き勝手にはさせないんだから。
せめて、あなたの血で真っ赤な花を生み出してあげる・・・」と
ヴィーナスは彼の耳元でささやきました。
「Thomas Willeboirts 作 1642年」
こうして命を落としたアドニスは、ネクタルを与えられ、アネモネの花に
なったのでした。ぐったりと倒れるアドニスと、頭上を見上げて溢れる
涙をこらえようとするヴィーナスの姿。構成が美しい作品です。
「ホセ・デ・リベーラ作 1591-1652年」
アドニスの死の絵画はまだ続きます。バロック期の暗黒主義の画家、
リベーラは少し不気味にも思えるシーンを描いています。ん?右側の
おじさんは一体誰?自画像だったりして・・・?
→ 暗黒主義(テネブリスム)についての絵画を見たい方はこちら
「ルカ・カンビアーソ作 16世紀」
むっちむちなお二人ですね・・・。なんかもう凄いポーズをとって
アドニスの死を嘆き悲しんでいます。
「マールテン・ド・フォス作 16世紀」
ルネサンス期のヴィーナスさんはあまり悲しみを表現していませんが、
代わりにエロスが全力で悲しんでいるようです。
「ピーテル・パウル・ルーベンス作 1614年」
ルーベンス二枚目。人体むっちむちです。アドニスとヴィーナスだけ
ではなく、謎の女性三名も駆けつけてくれたようです。
彼女たちは運命の女神モイラではないかという情報をいただきました。
自尊心や血気盛んな気持ちにより、命を落としてしまったアドニス。その化身とも言えるアネモネの花言葉は、「儚い夢」「儚い恋」「薄れゆく希望」「真実」「君を愛す」「恋の苦しみ」「嫉妬の為の無実の犠牲」「希望」「期待」です。
・・・なんか、まんまアドニス状態ですね。「嫉妬の為の無実の犠牲」というのは、冥界の女神ペルセポネも彼に恋し、嫉妬によって殺したという逸話もあるため。今回、私は「ギリシア・ローマ神話 トマス・ブルフィンチ著」の書籍を参考にさせていただいたので、それには触れていません。「君を愛す」「希望」などの花言葉が混じっていても、恋人には決してアネモネをプレゼントしない方が良さそうですね・・・。
【 コメント 】
>> 美術を愛する人様へ
こんばんは。
確かにヴィーナスがモイラたちに恨み言を言っているシーンがあるので、モイラの可能性が高いですね!
嘆き悲しんでいるように感じますが、よく見ると手前の方が冷めた表情をしている…。
ルーベンス1614年の3人の女性はモイラ(運命の三女神)ですかね??
かわいそうだけど死んじゃったものは仕方ないって感じの諦めた態度に見えなくもないかも。。
>> 女神様の恋人なんて、「儚い夢」です様へ
こんばんは。
もっと華奢で幼い美少年ばかりかと思ったら、結構ガタイが立派でいい歳をしたアドニスも混ざっていますよねw
あっ、本当ですね!気付きませんでした…。
アレスはヴィーナスの愛人なのでそうかもしれません。
女神様がとっかえひっかえ男と遊んでいるから、嫉妬全開中でしょうか。
アドニスは猪に襲われなくても(例えペルセポネの陰謀がなくても)、アレスによって暗殺されていたかもしれませんね^^;
まさに儚い夢…。
大柄で、立派な美少年で……、
もう、どちらが神でどちらが人間か、わからなくなりますね(笑)
ティツィアーノの絵、
雲間の光が、誰か(アレース?)が見張っているように見えて、怖い……。