プシュケーはギリシア神話に登場する、愛の神クピドに愛された女性です。
彼女はクピドの妻だったのですが、秘密だった彼の姿を見てしまい、見放されてしまいました。後悔したプシュケーは一日中夫を探して歩き回り、山中で神殿を発見します。そこには女神ケレスがおり、「ヴィーナスの許しを得なさい」というアドバイスをくれたのでした。プシュケーは早速ヴィーナスの神殿へ行き、過去の事を謝りましたが、おかんむりの女神は彼女に無理難題を押し付けます。
一つ目の難題は大量の穀物を分けろというもので、それは同情したクピドが蟻を呼び寄せて達成しました。二つ目は羊達から金に輝く羊毛を持ってこいというもので、それは河の神が葦を鳴らして攻略法を教え、達成しました。三つ目は竜の棲む泉から水を汲むよう命じられ、ゼウスの大鷲が水を汲んで来てくれて達成しました。
最後の難題は冥界の女神ペルセポネに化粧品を分けてもらうというもので、塔から聞えて来たアドバイスに忠実に従って冥界へ行き、首尾よくヴィーナスから預かった箱の中に入れてもらう事ができました。
しかし、その帰り道に愛する夫に美しい顔を見せたいという欲求が勝り、「開けてはならない」と警告されていたにも関わらず箱を開けてしまったのです。その途端、中から冥界の眠りが飛び出し、プシュケーは倒れてしまったのでした。
一方、肩の傷が癒えたクピドは妻を探していました。姿を見られて逃げたものの、プシュケーを想い続けていたのです。発見した彼は眠りを集めて箱に戻し、妻を起こしました。それからクピドはゼウスに頼み込み、ヴィーナスの許しをも取り付けてくれたのです。こうしてプシュケーは神々の飲み物ネクタルを飲んで不死となり、夫クピドと結婚する事ができたのでした。
プシュケーの試練と、二人の結婚についての絵画13点をご覧ください。
→ プシュケーが秘密のクピドの姿を見てしまったシーンの絵画を見たい方はこちら
「ヘンリエッタ・レイ作 1859-1928年」
夫クピドとよりを戻すには彼の母ヴィーナスの許しを得なければ
ならないとアドバイスされたプシュケーは、美の女神の元へ訪れて
過去の事を謝罪します。しかし・・・。
「エドワード・マシュー・ヘイル作 1883年」
ヴィーナスは許す処か「不誠実な女め。私の許しが欲しいのなら、
真面目な態度を示しなさい。家政ぶりを見てやろう」と言いました。
いびる継母にいびられる嫁。なんだか色々な物語で見たことが・・・。
「ベンジャミン・ウエスト作 1738-1820年」
一つ目、二つ目の試練をこなし、プシュケーは「竜の棲む泉から水を
汲んでこい」という難題に直面します。しかし、ゼウスの大鷲がやって
来て、代わりに運んできてくれたのです。鷲はクピドが可愛がって
いた為に、助けてくれたのでした。
「Natale Schiavoni 作 1777-1858年」
こちらも水を汲んでくれた鷲さんの絵画。水を持ってきたというより、
美味しそうに飲んでいるように見えるのは私だけ・・・。
鷲さん可愛いですね^^
「エドワード・バーン・ジョーンズ作 1833–98年」
最後の難題は「冥界の女王ペルセポネから化粧品を分けてもらいなさい」
というものでした。これは口実で、ヴィーナスが彼女の死を望んでいた
事は明白でした。それでも彼女は塔から聞えた声の助言を受け、
冥界の渡し守カロンの元へ訪れます。
「John Roddam Spencer Stanhope 作 1829-1908年」
銀貨を二枚口の中に含み、行きに一枚、帰りに一枚渡したことで、
プシュケーは無事にカロンの船を渡ることができたのでした。
「Eugène Ernest Hillemacher 作 1865年」
冥界のステュクス河をどんぶらこっこと移動中のプシュケーさん。
船に死者のおじいさんが掴まっており、ビビり気味の様子です。
こうして無事に任務を果たして帰れたは良いものの・・・。
「Michel Philibert Genod 作 1827年」
「私が貰ってきた化粧品だもの。ちょっとくらい・・・」と箱を開けて
しまいます。しかし、中に入っていたのは美しさどころではなく
冥途の眠りであり、彼女は一瞬にして倒れ伏してしまうのでした。
そこへクピドが現れます。
「ヨハン・ハインリヒ・フュースリ作 1741-1825年」
クピドはプシュケーが心配で何度も手助けし、今回も危機を悟って
飛んできたのでした。彼女を取り巻く眠りを集めて箱に戻し、
声を掛けて愛しの妻を起こしました。
「フランスの画家作 19世紀」
クピドはゼウスの元へ行ってヴィーナスの許しを取り付けてもらうよう
説得し、プシュケーは再度女神に謝罪します。不満を露わにしていた
ヴィーナスも流石に彼女を許さざるを得なくなりました。
「ジョルジュ・ルージェ作 1783-1869年」
こちらもクピドが全身全霊を以てヴィーナスに許しをもらおうとして
います。女神も「もぉ~しょうがないわね~」といった諦めの表情を
浮かべていますね。左下には二羽の白鳩がいちゃついており、
今後のゴールインを物語っています。
「アンドレア・スキャヴォーネ作 1550年」
ゼウスに神々の飲み物ネクタルをいただき、プシュケーは晴れて
神々の仲間入りを果たします。こうして二人は結婚式を挙げ、
二人の間にはウォルプタス(喜びの意味)という女子が生まれたのでした。
「フランソワ・ジェラール作 1798年」
最も有名なプシュケーとクピドの絵画と思われる作品。
プシュケーは心、魂、蝶を象徴しており、この物語は魂が愛を
手に入れるという寓話として考えられるのです。
先程も書いたように、プシュケーは心や魂、蝶を象徴しています。元々は「息」を意味した言葉であり、転じて「生きる」となり、更に今のような「魂」という意味となったようです。蝶は古来より魂が変化したものだと考えられていたので、蝶も組み込まれるようになりました。絵画を見てみると、プシュケーの背中に蝶の翅が生えていたり、近くに蝶が描き込まれたりしていますね。
古代ギリシャ哲学でプシュケーは、世界や人間の仕組みを解明する上での単語であり、女神ではありませんでした。こういった命や魂に対する神秘の崇拝が元にしてプシュケーは擬人化され、物語が生まれ、ギリシャ神話に組み込まれたように思います。魂と愛の結婚・・・なんとも象徴的でロマンチックですよね。
【 コメント 】
>> 季節風様へ
こんばんは^^
神に逆らうと破滅する者が多い中、クピドの支えがあったとはいえヴィーナスのいじめを耐えて幸せを掴みとったプシュケーは強いと思います。
彼女は魂の象徴なので、崇高な魂が絶望を乗り越えて昇華され、栄光に至る過程なのかもしれませんね。
女王ペルセポネがほんの少しのザクロを食べて冥界に留まなければならず、オルフェウスが振り返った事により冥界から妻を取り戻せなかったように、冥界の物を使用したり直接見ることにより、冥界の力が発動するように思います。
ヴィーナスは「豊穣」を司る女神なので相殺できそうですが、プシュケーにとっては強すぎる力だったのでしょう。
また、ペルセポネは可愛い侍女が欲しかった為に冥界の眠りを仕込ませたという説もあります。
プシュケーはこれまでギリシャ神話に出てきたどちらかと言えば受け身な女性とは違いますね。凄い難題を乗り切れたのはクピドや他の神々の助けがあったからですけど。大鷲さんに飲み物をあげてるみたいな作品は清々しいです。
豪華な設定ですね。ゼウス、ヴィーナス、冥界の女王等々。見るなと言われた夫の姿を見て、開けてはいけない箱を開けてしまう好奇心と謙虚さと勇気。プシュケーの試練にハラハラします。でも冥界の女王はなんでそんな恐ろしいものを箱に入れて渡したのでしょう。
>> 通りすがりのフュースリおたく様へ
こんばんは。ありがとうございます^^
ギリシャ神話の神はみんな人間臭いですよね。
嫉妬も、責任転嫁も、痴話喧嘩も何でもやってますw
記事を書くときは覚えていても、数日経つと「この神って名前なんだっけ!?」ってど忘れする事がよくあります(笑)
お話がいっぱいあるし、神も英雄も系譜がややこしいし…^^;
ついにプシュケの続編が来ましたね!しかも、フュースリの初めて観る絵もあって面白かったです’◡’ ギリシャ神話って、神様が、みんな一癖あって面白いですよね〜。複雑すぎて名前覚えられないけど(笑)
>> 黄金の果物様へ
こんばんは^^
プラド美術館展、ベラスケスだけではなくイソップ寓話の絵画もあるんですね!
結構身近な物語だったので、古代ギリシャの人が作ったと知った時は驚きました。
ウサギとカメとか日本昔話だと思っていましたからw
読んでいる小説の中に知っている挿話があると嬉しくなりますよね(笑)
小説で好みの古典文学や絵画が紹介されていたりすると、更にテンションが上がります。
(そういえば、アリとキリギリスに関連したお話を書いていましたね^^)
イソップ寓話の特集、かしこまりました(^^ゞ
のんびりとお待ちください!
絵画の元となった有名な物語は、ローマの人が書いたんでしたっけ。
寓話といえば、先日行ってきたプラド美術館展で、イソップ寓話の絵を観てきました。犬が水面に映った影の肉を取ろうとして、くわえていた肉を落としてしまうという……
今日カミュの『カリギュラ』を読んでいて、偶然似たような表現を見つけたので、「お、これはこないだのイソップ寓話のことだな」と思ってひとりニヤニヤしていました(笑)
イソップ寓話の特集とか、観てみたいなあ……( ̄▽ ̄)