時の翁(クロノス)の絵画9点。大鎌を携え、若さを無情に刈り取る翼を持つ老人 | メメント・モリ -西洋美術の謎と闇-

時の翁(クロノス)の絵画9点。大鎌を携え、若さを無情に刈り取る翼を持つ老人

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 時の翁(クロノス)は大鎌や砂時計を持つ老人の姿で描かれ、現生の時間的な虚しさを象徴しています。
 クロノスは「時」を意味し、ギリシアの神とされています。紀元前6世紀頃の思想家シュロスのペレキデスによって言及されました。ゼウス達の父親であるクロノスは(ローマ神話ではサトゥルヌス)とは全く別の神であるものの、後世に混同されてしまい同様の姿として描かれています。クロノスは寓意画を表現する為に描かれる場合が多く、若さを象徴するヴィーナスやキューピッドなどと一緒に描かれます。
 時の翁(クロノス)にまつわる絵画9点をご覧ください。

 

「ジャチント・ジミニャーニ作 1606-81年」
女神ヴィーナスの手元から連れ去られるキューピッド。
神話のエピソードというより、時の経過によって若さや愛は
過ぎ去っていくという寓意的な意味が込められています。

「ピエール・ミニャール作 1694年」
巨大なはさみでクロノスが切ろうとしているのは・・・。
飛翔する為の翼が切られるという事は、「時間によって徐々に
若さや愛は破壊される」という残酷な意味が込められているのです。

「ヨハン・ハインリッヒ・シェーンフェルト作 1630年」
こちらはキューピッド(エロス)がクロノスに切り落とされて
しまった翼を渡しています。時空を飛び回る神の前には、
愛の翼は脆く儚いのでしょうか・・・。

「ジョヴァンニ・フランチェスコ・ロマネッリ作 1610-62年」
片足を掴み、大胆に飛翔!こちらは「我が子とクロノス」という
題名だったので、時の神ではなく「ゼウスと農耕神クロノス」を
描いています。違う神なのに、姿形は混同されていますね。

「グエルチーノの後継者作 17世紀後半頃」
ヴィーナスとマルス、キューピッドとクロノスが意味ありげに
描かれた寓意画。愛の行為の賛美と警句を表現しているよう・・・?
詳細は不明なのですが、考察は記事下のコラムにて。

「ヴェネツィア派の工房作  17世紀」
腰布一丁でアクションしているクロノス爺。
足元の砂時計は彼のアトリビュート(持物)。言わずもがな、
時のうつろいの虚しさを表しています。

「アルトゥス・ウォルフォルト作  1596-1641年」
松葉杖も彼のアトリビュートとして表されます。寓意画なので
ツッコむ必要はないのですが、翼あるのに松葉杖つくのか。
しかも両足・・・とか思ってしまう私は心が闇に染まってますw

「シモン・ヴーエ作 1627年」
キューピッド、ヴィーナス、そして希望に打ち負かされるクロノス。 
おじいちゃん、めっちゃいじめられている!
つんつんしてやる~♪って仕返しをされていますねw

「フランス出身の画家作  1740年」
天文を司る女神ウラニア、芸術を司る女神エラトに踏んづけられる
クロノス。「時」は無情で命を刈り取っていきますが、知識や
芸術は後世に受け継がれ、時が経つほどに輝きを増していきますね。

 グエルチーノの後継者の作品のお話です。情報が少なくて確かなことは言えませんが、ギリシア神話において、愛の女神ヴィーナスと軍神マルスが逢瀬している所を、ヴィーナスの夫である鍛冶神ヴァルカンが透明な網を使って捕まえる!というエピソードに関係しているようです。二人が網にかかってもがいている所を他の神々が見て笑い、恥さらしになってしまうそう。(ヘルメスはヴィーナスと一緒になれるなら恥さらしてもいいや~って言ってましたがw)

 この作品では網にかかっているのはキューピッドで、ヴィーナスが網をめくり、マルスがその様子を眺め、クロノスが注意をするように人差し指を向けています。このエピソードとクロノスのマイナスイメージの事を考えると、「愛欲や不適切な愛をやってはいけない」と警句を出している絵画に感じられますが、ヴィーナスは網を簡単にほどいていますし、キューピッドは恐がる様子もないし、マルスはクロノスの助言を聞いているようにも見えます。なんだかこのクロノスは「やんちゃはしちゃいかんが、時間は有限だからな。子供は沢山増やすが良いぞ」と助言をしているように感じられますね。

 余談ですが、北欧神話の雷神トールは寓意的な時の存在である「老婆」と格闘技で戦いました。トールは奮戦したものの、老婆は彼をやっつけてしまいます。男女こそ違うものの、時というものは老獪で強力なものですね。(後半のクロノスの絵画はやられていますが・・・w)

→ 我が子を喰らうサトゥルヌスについての記事を見たい方はこちら

 

【 コメント 】

  1. 管理人:扉園 より:

    >> オバタケイコ様へ
    こんばんは^^
    神話の異なる二神が混ざり、「時」として寓意画に描かれるのは解釈が難しくもあり、興味深いなぁとも感じます。
    幼児が腹筋ムキムキの爺さんに羽交い絞めされるなんて…可哀想ですよねw
    松葉杖が何故描かれるのか軽く私も探したのですが、よく分からずでした。
    おそらく時の経過による老人を表現する為なのかなぁと…いえ、違いました!
    愛と希望にぼっこぼこにされちゃったんですね(笑)
    ですです。あの大鎌がフルスイングして、海に浮かんでアフロディテが生まれました。
    羽を切られるより痛そう…(/ω\;)

  2. オバタケイコ より:

    クロノス、面白いキャラですね。
    「ピエール・ミニャール作」では、キューピッドの足を羽交い絞めにしてますね(^^;) こりゃ逃げられん。羽根を切られたキューピッドはただの幼児になっていまいますね。
    松葉杖のクロノス、何故松葉杖になったか考察したのですが、きっとみんなに仕返しされてやられた時に足を負傷したのだと思います。←えー
    クロノスは、あの大鎌でウラノスの〇ちん〇んを切り取ったんですよね?怖~(>_<)

  3. 管理人:扉園 より:

     >> 美術を愛する人様へ
    こんばんは^^
    とんでもないです!こちらこそ一年を超える返信となってしまっているのに、またコメントをいただけて感謝です。
    大半の作品は英語で検索して探していまして、説明があれば翻訳をかけて読むのですが、ガタガタな日本語だともやっとしか理解できてないという…^^;
    どうしても自己解釈になってしまう部分もあるけれど、色々考えられるのも寓意画の魅力のひとつですよね。
    クロノス爺をいじめるヴィーナス様と希望様の笑顔が眩しいです(笑)

  4. 美術を愛する人 より:

    「我が子を食らうサトゥルヌス」の記事で、一説をコメントさせていただいた者です。ブログのいちファンの戯言を真剣に読んでくださり、恐縮です。ありがとうございました!
    グエルチーノの後継者作の解釈、興味深いです。ヴーエの作品は、時の流れに負けない愛もあるし、希望があればしぶとく生き残れるという前向きな雰囲気がいいですね。

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