時の神であるクロノスは、ギリシャ神話の主神ゼウスの父親です。ローマ神話ではサトゥルヌスと呼びますが、ギリシャ神話の物語の為、記事ではクロノスと記述させていただきます。なお、絵画の題名がサトゥルヌスである為、タイトルはそう記述させていただきました。
クロノスは最初の支配者であるウラヌスを倒し、権力を手に入れました。しかし、ウラヌスは死の間際「お前は自分の息子に権力を奪われ、討たれるだろう」と予言を残します。予言を恐れたクロノスは自らの子供、ヘスティア、デメテル、ヘラ、ハデス、ポセイドンと次々に呑み込んでしまいます。妻であるレアはその所業を恐れ、末っ子であるゼウスをなんとか守ろうと考えました。「あなた、ゼウスですよ」と渡したのは産着にくるんだ石。クロノスはそれをごくりと呑み込み、権力を奪う者がいなくなったと安心しきりました。しかし、妻レアは息子を逃がし、成長したゼウスはクロノスを討ち取ったのでした。そして呑み込まれた子供たちは、父の腹から無事に救出されたのでした。
この物語を画家たちは読み、そのショッキングな内容に心打たれました。彼らは息子たちを食う神を描き上げ、後世に残しました。ただ、神話では呑み込んだとされているのに、絵画ではがっつりと食べています。皮を伸ばし、肉を食らっています。より残酷になってしまった作品をご覧ください。以下閲覧注意です。
「Ivan Akimov作 1802年」
同一名である時の神クロノスと、サトゥルヌスが混同
されている作品。天使の羽を鎌でもぎ取ろうとしています。
時を象徴する鎌が愛の翼を切ることで、愛が徐々に冷めて
しまう、愛が失われていくことを表しています。
「ジョヴァンニ・バッティスタ・ティエポロ作 18世紀」
我が子の胸をがぶりと噛むクロノス。
子供の手が痛さをひしひしと伝えています。
「フランスの挿絵 15世紀前半」
サトゥルヌスは農耕神であったとされ、その名残としても鎌を
持っています。中世の写本的な雰囲気で神話の物語を表すと
不思議な感じになりますね。
「ダニエレ・クレスピ作 17世紀」
どこか異国情緒が漂うクロノス。皮がひきつれて超痛そうです。
子供の助けを求める表情が何とも言えません。
「ピーテル・パウル・ルーベンス作 17世紀」
肉を引きちぎって食べようとするクロノスに、痛くて叫び声をあげる子供。
にじみ出る血が生々しく、迫真な絵画です。
「スイスのベルンにあるオーガの銅像」
関係ないですが、気になったので。
子供を頭からかっ食らう、オーガの像。こんなの見たら子供泣きます。
「フランシス・デ・ゴヤ作 1819-1823年」
最後はお約束の作品。これに勝るサトゥルヌスはいないでしょう。
頭からばりばりと食べ、もう肩口はありません。肉片のみになっています。
サトゥルヌスの感情、作者自身の精神を如実に表した作品ですね。
神が子供を呑み込むという物語を超越して、「人を食う、とは」といった異なるテーマになっているような気がします。悪魔としてのサトゥルヌスは深層心理で感じる恐怖の現れとも感じますし、ゴヤの作品はカニバリズム的感情の現れのように思えます。食うか食われるか、という昔の本能がまだ根付いているのかもしれません・・・。
【 コメント 】
>> 美術を愛する人様へ
情報ありがとうございます!
過去の私、色々な解釈違いをしていたようですね…。お恥ずかしい。
内容を変更させていただきました。
>>1
勉強になりました!
サトゥルヌスは「時」を司るとも言われていたそうです(大鎌は時の象徴でもある)。翼を持つ愛の神キューピッドを痛めつける、翼を刈る、という描写で、年月で冷めていく愛を表したという説もあるようです。