ヘラクレスとオムパレーはギリシア神話に登場する、力自慢の英雄とリューディアの女王です。
ある日、ヘラクレスは女神ヘラに狂気を吹き込まれ、親友イピトスを殺めてしまいます。それ故に病を患ってしまい、ヘラクレスはデルポイに訪れて神託を受けようとしますが、巫女は取り合ってくれませんでした。彼は怒り、三脚台を奪おうとした為、止めに入ったアポロンと戦闘となりました。ゼウスは双方の戦いを仲裁し、アポロンは「三年間奴隷として奉公すれば、殺人の償いとなり病は治るだろう」と予言を残します。
こうしてヘラクレスはヘルメスに連れられ、リューディアの女王オムパレーの元で奴隷生活を送ることになりました。その間にもヘラクレスは様々な功績を残したされていますが、こんな伝説もあります。オムパレーは尊大な女主人で、ヘラクレスは女装させられた上に糸紡ぎの仕事をやらされました。オムパレーはヘラクレスの獅子の皮を身にまとい、棍棒を持ちましたが、その重さによろめいたそうです。オムパレーの領地が敵に攻撃された時、ヘラクレスが棍棒を持って敵を掃討したので、オムパレーは彼を夫として、三人の子をもうけたとされています。この物語は画家達の興味を引きたてたようで、想像以上の作品が残されていました。
糸紡ぎをする女々しいヘラクレスに、棍棒を担ぐ勇ましいオムパレー。あべこべな二人の絵画14点をご覧ください。
「ポンペイのフレスコ画より 1世紀頃」
神話なので歴史は古く、2000年以上語り継がれている物語です。
お尻がプリっとしたヘラクレスの前に鎮座するオムパレー女王。
「奴隷は女装して糸紡ぎがお似合いよ!」と彼に告げます。
「彩飾写本の挿絵より 年代不明」
中世時代の挿絵はシュールですねw
左側は親友を狂気によって殺してしまうヘラクレス。中央には
女装をするヘラクレス、右側にはヘラクレスの衣装を着る
オムパレーが描かれています。騎士の姿にツッコミたくなりますw
「ルーカス・クラナッハ(父)作 1531年」
量産画家のクラナッハは幾つものヘラクレス&オムパレーの
作品を描いています。需要があったのかしら?
糸紡ぎをやらされるヘラクレスの表情は何処となく楽しそう。
美女に囲まれて満更でもない感じ?
「ルーカス・クラナッハ(父)作 1537年」
こちらのヘラクレスは四人の美女に寄ってたかられ、
女装させられて困り顔。ギリシャの装いではなく、ルネサンス
時代のドイツの衣装と化しています。
「バルトロメウス・スプランヘル作 1546-1611年」
ピンクのドレスを着ておめかししたヘラクレスに、毛皮を肩にかけて
棍棒を担ぐオムパレー女王。全くよろめいていない!
このまま棍棒振り回して殺戮できそう!
「ピーテル・パウル・ルーベンス作 1602-5年」
侍女らしき老婆と共に、ヘラクレスのメイクアップにいそしむ女王。
「頭にはどんな髪飾りを付けてあげようかしら~♪」と、
耳を掴んで引っ張っています。
「アンニーバレ・カラッチの追随者作 1560-1609年」
タンバリンを鳴らすヘラクレスと、勇ましさが板についている
オムパレー。楽器は主人を楽しませる道具として、奴隷の象徴に
用いられているのかな?見つめ合う二人の視線は、主人&奴隷
の間柄を飛び越えようとしていますね。
「フランソワ・ペリエ作 1590-1650年」
こちらもヘラクレスが楽しそうにタンバリンを持っていますね。
頭には花輪を付け、すっかり女性達に溶け込んでいます。
「ルカ・ジョルダーノ作 1634-1705年」
なよっとした姿勢で糸紡ぎ棒を持つヘラクレスに、「敵は来ぬか」と
棍棒を持ち鋭く目を光らせるオムパレー。逆のままでも、全然
問題がなさそうですね(笑)オムパレーさんがこのまま大英雄に。
「Antonio Bellucci 作 1654-1726年」
可愛い花輪を付けて紡ぎ棒を持ち、ぽよんとした表情のヘラクレス。
肉体は立派だけど、乙女に染まってます。
「Luigi Garzi 作 1700-10年」
こちらも華やかな住いの中、棍棒を持つオムパレーに、
タンバリンを叩くヘラクレス。後ろのご婦人は噂になっている
マッチョ奴隷を見に来たのでしょうかね。
「シャルル・グレール作 1862年」
オムパレーとクピドが、真剣な表情で糸を紡いでいるヘラクレス
を生暖かい目で見守っています。とても綺麗で素敵な絵なの
ですが、この図体と格好で懸命に作業に励んでいるヘラクレスを
見ると、じわじわと可哀想に思えてきます(笑)
「ギュスターヴ・ブーランジェ作 1861年」
「いえー、ヘラクレス獲ったどー♪」と喜びを露わにするオムパレー。←ぇ
ピンクのスケスケ衣装を着させられたヘラクレスは、何とも言えない
表情。この絵画、間近で見てみたいなぁ・・・。
「ギュスターヴ=クロード=エティエンヌ・クルトワ作 1912年」
他の作品と異なり、ヘラクレスがかなり若い好青年に描かれて
いますね。二人一緒に糸を紡ぎ、これから起こるロマンスを
前面に表しています。
ギリシア神話の豪傑ヘラクレスに対応する北欧神話の人物は、雷神トールと考えられています。
雷を司るトールは農民を守る守護神であり、槌ミョルニルを使ってバッキバキと巨人をやっつけます。そんなトールにも女装をする物語があるのです。
ある日、トールは巨人にミョルニルを奪われ、ロキに探らせたところ巨人スリュムの元にあると分かりました。巨人は「返してほしくば女神フレイヤと交換だ!」と言ったので、苦肉の策でトールがフレイヤになりすまし、巨人の国へと赴きます。髭もっさーのマッチョなので色々と問題があるにも関わらず、侍女に化けたロキの口実でスリュムを騙すことに成功し、ミョルニルを取り戻して巨人をやっつけることができた、というお話です。
いや、この物語本当に面白いですw それにしてもヘラクレスとトールの女装には物語的な共通点はあまりなさそうですが、何か関係があるのでしょうかね?強い豪傑は女装をする運命にあるのかもしれませんね・・・。
→ 雷神トールについての絵画挿絵を見たい方はこちら (女装も二枚あるよ!)
【 コメント 】
>> kb様へ
こんばんは^^
アネゴ肌で「私が守ってあげる!」って感じですよね。
その鋭い眼差しにきゅんと来ちゃいます(笑)
スサノオもヤマトノオロチをおびき出す為に女装をしたと、一説にいわれているのですね!
敵を油断させる為に女装をしたというのは、ヤマトタケルとトールに通じますね。
ヘラクレスとトールは地理的にも遠くなく、共通点があっても納得できますが、島国である日本は興味深いですよね。
シルクロードを渡って伝わって来たのか、はたまた偶然似通ってしまったのか。
神話も奥が深いです^^
こんにちは
ルカ・ジョルダーノ作のオムパレーさんめちゃくちゃイケメンですね!惚れ惚れします!
しかし英雄は何故皆女装をするのでしょうか笑
日本ではヤマトタケルの他にスサノオ なんかも女装してますね。
ヘラクレス、トール、スサノオ はムキムキ、蛇(竜)殺し、最後は天(黄泉)に召されるなど共通点が中々多く想像を掻き立てられます。
>> アキレウスのほうが似合ってると思います( ̄▽ ̄)様へ
確かに、あのシーンは知恵のオデュッセウスの方が主ですからね。
女装したアキレウスが武器を握るシーンはあまり絵になりませんか…。
(文章だとなかなか面白い場面に感じるような)
それでももし自分が画家で、ヘラクレスかアキレウスの女装シーンどちらを描く?と問われたら、やっぱりヘラクレスを選んでしまいそうです^^;
……まあ、アキレウスのほうは、身を隠すために女装してバレた、っていう、ネタとしては滑稽でもなんでもないお話ですからね。女装のおもしろさより、むしろオデュッセウス(でしたっけ?)の知恵が強調されるエピソードなわけで。
ヘラクレスのほうは、男女で対になっていて、茶化したような男性観女性観みたいなものが現れていて、物語としてもおもしろみがあると思われていたんじゃないかなあ……
>> 美術を愛する人様へ
こんばんは^^
アキレウスの女装の絵画は少ないですよね。
画家としても細身の英雄より、マッチョの方が描きがいがあったのかもしれません。
やはりギャップの影響は大きいと思います。
マッチョ男性=強い、女性=弱いというイメージがあり、強き者がか弱い者の服を着る、という部分に滑稽さを感じ、か弱き者が強い者の服を着るとクールな印象になるのかもしれません。
そのイメージが問題ですよね。
神話内の話ならまだしも、今の時代そんな固定概念はない方が良いと思います。
ごつい男性がフワキラを着たって全然OKだと私は感じます。
自分が好きな服を着る事ができたら一番いいですよね^^
>> アキレウスのほうが似合ってると思います( ̄▽ ̄)様へ
こんばんは^^
そうでした!ギリシアには武器を出さないと分からないレベルの女装の達人アキレウスがいました(笑)
ヤマトタケルといい、レベルの高い(?)英雄が結構いるものですね。
あのヘラクレスがアポロンの予言を律儀に守っているなんて、よっぽど親友を殺めた心の傷が深かったのですかね^^;
それにしても自分を奴隷にして女装させる女王と良い間柄になるなんて。三年間も奉仕すると生活に慣れ、板についてきてしまうものですかね…。
アリストテレスもやらかしていましたね(笑)
老人よりもガタイが立派なヘラクレスの方が乗り心地は良さそうですが、猛獣に乗るのは私もご遠慮したいです^^;
ジョルダーノさんのヘラクレス、センターを独り占めしてますよねw
「英雄ヘラクレスを目立たせよう!」という画家の配慮なのか、「ノリでヘラクレスを女王にさせちゃおう!」という画家の遊び心なのか…。
テロワーニュ・ド・メリクールさんはじめて知りました。
女性の武器を使ってのし上がり、男装しながらも女性としてフランス革命に立ち向かう。
肖像画を見ると、ジャンヌ・ダルクのような凛とした可憐さというよりも、毅然とした格好いい容姿をしていますね。
それにしても加害者は女性達なのですね。恐ろしい…(> <)
ギリシア神話の女装ネタとしてアキレウスもあるのにヘラクレスの方がインパクト強いのは、やっぱりいかつい見た目のギャップでしょうか。
なぜ滑稽と感じられてきたのか、考えるのも面白そうですね。
体型や年齢で服の選び方を意識するようになったせいか、ごついからとフワフワキラキラの服を堂々と着られない男性もいるだろうな、と少し切ない思いにもなりますが。
あ、男装関連のエピソードをひとつ。
テロワーニュ・ド・メリクールという、フランス革命期に波乱の一生を送った人物がいましてね……最後は悲惨なんですけど。
まったく、ヘラクレスが寛容な男で良かったですね^^;
奴隷の身分とはいえ、どれだけ人がいいのやら……のちにギガントマキアにすら参戦する大英雄ですから、暴れ出したら大変でしょうに……
おウマさんごっこさせられてたのは、アリストテレスでしたっけ。猛獣ヘラクレス(←ぇ)に比べれば、あちらのほうが安心して見ていられます^^;
ところで、ジョルダーノさんの絵に違和感があると思ったら……、
身分まで逆転してる?
(ヘラクレス→女王
オンパレ→従僕)
>> 男装も愛する人様へ
こんばんは^^
ヤマトタケルも女装をしていたとは。
しかも騙せたという事は美人に仕上がっていたのか!
こうなったら英雄は女装する運命にある可能性が濃厚ですね。
相撲って妊婦を模した姿だったのですか!
確かに四股の動きは出産と結びついているようにも思えます。驚きです。
「祀られる豊穣の女神は男性が好きだから女人禁制。女神様は恰幅がよく力強い男性がお好み」だとばかり思っていました。
始めは女性の神秘性を崇拝し、男性がそれを模す儀式だったのですね。
時代が経るにつれて女性軽視のイメージが付随してしまったのは残念です(> <) それにしても場合にもよりますが、女装=滑稽、男装=格好良いというイメージがありますね。 物語では男装した女性が滑稽に扱われているのを見たことがないように思えます。 一見女尊男卑に感じますが、「男性が女性となる事で滑稽になる」「女性が男性となる事で格好良くなる」という逆転は男尊女卑が関係していそうにも感じます。 私のスマホでも同様に男装は出ませんでした! (機種が古くて断層のみしか変換できなかったですがw) あと、一瞬だけクマソタケルをクソマタケルと読みました…すみません^^;
そういえば…ヤマトタケルも女装してクマソタケルを討伐しましたよね。
相撲取りが太っているのも、元々は妊婦を模した姿で、「はっけよい!」は八卦良い(占いの結果が良い)が転じた言葉で、四股を踏むのは大地豊穣を祈る仕草とかなんとか、多産や豊穣のシンボルである妊婦に豊作を祈願させる祭礼の儀式がスポーツになったとかなんとか…
女性が元々持っている神秘的な力を借りる為にあえて女装するのかなぁ?と思いました。
余談ですが、私のスマホは女装は一発で変換出ますが、男装は出ませんでした。
やっぱり女装の方がそれだけ需要があることの表れなのでしょう(笑)