キルケ(キルケ―とも)はギリシャ神話に登場する魔女です。
父は太陽神ヘリオス、母は女神ペルセイス。神の血筋を引いている女神ですが、嫉妬深く、男を誘惑して破滅させる悪女の性質を持っています。アイアイエ島に住んでいるキルケは、お気に入りの男をたぶらかし、飽きたら動物に変えて家畜にしてしまうとされています。
ホメロス作「オデュッセイア」によると、アイアイエ島へ漂着したオデュッセウス一行はキルケの館でもてなされます。しかし、食べ物を食べた部下たちは全員豚に変えられてしまいました。オデュッセウスはヘルメス神より授けられた薬草モーリュを食べ、魔法を跳ね除けました。そして、剣を抜いてキルケに立ち向かったのです。彼女はオデュッセウスにひれ伏し、仲間達を元に戻しました。一行はキルケの館に住むことになり、たちまち一年が経ちました。キルケの魔力により故郷から遠のいていたオデュッセウスでしたが、部下の「帰りたい」という切実な言葉に気付かされ、出発を決意しました。キルケは悲しみながらも、それを受け入れて助言したそうです。
また、キルケは海神グラウコスに恋をし、恋敵である乙女スキュラを犬の怪物に変えたりもしました。そんな残虐さと妖艶さ、優しさを合わせ持った魔女キルケの絵画14点をご覧ください。
「Gioacchino Assereto 作 1630年」
表情が柔らかく、一見では魔女とは思えないキルケ。
しかし笑顔でかき混ぜているのは毒薬であり、これを飲めばたちまち
人間は獣に変わってしまうに違いありません。
「ニコラス・レニエ作 1591-1667年」
少し釣り目の、豊満なキルケ。盃を持ち、優雅にアフタヌーンティーと言う
感じでしょうか。左にはライオンとイノシシがおり、下僕には事欠きません。
「ドッソ・ドッシ作 1511-12年」
花輪を被って一糸纏わぬ姿の、妖精のようなキルケ。神の血を引いて
いる彼女は、もともと月か愛を司る女神だったと言われています。
一見、動物と緑に囲まれた楽園世界のようですが、恐ろしい真実が・・・。
「ドッソ・ドッシ作 1540年」
異国風の衣服を着たキルケ。足元には魔方陣が描かれ、火を灯して
いる彼女は魔法を発動させているようです。左には鎧と犬(獅子?)が
描かれ、男たちの末路を語っています。
「ジョヴァンニ・ベネデット・カスティリオーネ作 1609-64年」
こちらもターバンのようなものを被った異国風のキルケ。
彼女が住んでいるアイアイエ島はイタリアにあるとされているのですが、
彼女の素性にエキゾチックな感じを覚えたのでしょうか。
「アレッサンドロ・アローリ作 1580年」
異時同図法になっている作品。奥で一行が漂着し、手前でキルケが
部下を動物に変え、真ん中でオデュッセウスがヘルメス神に薬草を
貰っています。神様何も着ないミステリーが発動しています。
「Giovanni Battista Trotti 作 1610年」
キルケは部下に食事を与えた後に杖で叩き、豚に変えるのですが、
この絵画では生々しい描写で部下を様々な動物に変化させています。
左側では使用人(?)達が行方を楽しんでいるよう。劇的に見えるよう、
色々と改変されているのが分かりますね。
「ヤーコブ・ヨルダーンス作 1630年」
薬草を食べたオデュッセウスは「俺には利かん!」と抜刀してキルケに
突き付けます。このシーンよりも、平和そうな笑顔を見せる女性たちと、
右側の銅像二つが気になります。
「Jan Styka 作 1858-1925年」
驚いたキルケはひれ伏し、許しを乞うて愛の契りを求めますが、
彼は「精気が抜かれる!」と却下します。(その後ちゃっかりしてますが)
こうして豚になった部下たちは元通りになりました。
「バルトロメウス・スプランヘル作 1546-1611年」
キザっぽいちょび髭オデュッセウスに、ほぼ服がないキルケ。
キルケの美しさに心を奪われてしまった彼は、館に1年間留まります。
部下の「故郷へ帰りたい」という言葉を聞いて、やっと帰ることにしました。
「バルトロメウス・スプランヘル作 1546-1611年」
スプランヘルさん二枚目。彼の作品は官能的なものが多く、
どんなポーズをしているんだ!?と思う作品が目立ちます。
なんかクネクネしているなぁ・・・。
「ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス作 1891年」
2017年の「怖い絵展」で公開されたキルケ。
妖艶な姿に多くの男性が虜にされ、破滅していったでしょう。
背後の鏡にはオデュッセウスらしき人物が見えます。
「ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス作 1892年」
翌年に描かれた、ウォーターハウスさん二枚目の作品。
盆から水を滴らせ、睨みつけるような目線を送っています。
海神グラウコスに恋をして、スキュラに嫉妬の炎を燃やし、毒薬を
水に流している最中でしょうか。怨念が籠っています・・・。
「Garbieri Lorenzo 作 1615-20年」
すごく悪どい表情をしたキルケ。「ひっひっひ・・・」と低い不気味な
笑い声が聞こえてきそうです・・・。この毒薬を飲んだら、動物になる
どころか、一発であの世へ召されてしまいそうです。
また、ローマ神話にはこのような話もあります。サトゥルヌスの息子ピクス王は、予言の能力を持っていました。魔女キルケは彼に一目惚れをしますが、ピクスは妻のポモーナを愛していた為、求愛を退けてしまいました。失恋したキルケは怒り、ピクスを「きつつき」に変えてしまったそうです。
海神グラウコスとスキュラの物語とよく似た構成で、キルケはどちらも男性に振られ、変身させる対象は異なりますが、嫉妬で相手を動物に変えてしまっています。嫉妬深い魔女だとしても、結果的にオデュッセウスにも振られてしまいますし、振られてばかりの可哀想な方なのかもしれません。頑張れキルケさん!
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