カロン(カローン)はギリシャ神話に登場する、冥界のステュクス河の渡し守です。
通常ぼろを着た不愛想な老人の姿で描かれ、小船とオールを使って冥界へと向かう死者を対岸へと運んでいます。ステュクス河は広大で、プレゲトーン河、レーテー河、コキュートス河、アケローン河の、四つの支流があります。船の渡し賃は1オボルスとされ、冥界へとちゃんと行けるように、古代ギリシアでは死者の口の中に1オボルス銀貨を入れる風習がありました。万が一渡し賃を忘れた場合、対岸へ渡るのに200年近くかかると考えられていました。
冥界の渡し守カロンの絵画、11選をご覧ください。
「ホセ・ベンリウレ・イ・ヒル作 1919年」
沢山の死者を船に乗せ、オールを漕ぐカロン。船は獣の皮でできている
とされています。河の中には助けを求める亡者が・・・。
「ギュスターヴ・ドレ作 19世紀」
死者を運ぶことが仕事な為、生者を乗せることは滅多にありませんが、
たまに恐喝されたり、歌に魅了されたり、お金を貰ったりして生者を
冥界へ渡すこともありました。
「John Roddam Spencer Stanhope 作 19世紀後半」
人間の女性プシュケは愛の女神ウェヌス(ヴィーナス)に睨まれ、
冥界の女王から美を分けてもらうよう命令されます。彼女は塔の助言で
銀貨を二枚口の中に含み、カロンの元へ訪れました。
「エドワード・バーン・ジョーンズ作 19世紀」
行きに一枚、帰りにもう一枚銀貨を渡すと、カロンは船を出してくれました。
こうしてプシュケは冥界を出ましたが、女王に渡された箱を開けてしまい、
倒れてしまいます。その中には「冥界の眠り」が入っていたのでした。
「ルカ・ジョルダーノ作 1684-86年」
カロンの背後に、武器持った怖いお婆さんがおります。(死の象徴?)
右側には冥界の番犬ケルベロスがヘラクレスと戦っています。
「ヨアヒム・パティニール作 16世紀前半」
ステュクス河を渡るカロンちっちゃい!でも河幅狭いかも!
右側が暗闇で火が立ち上っているので冥界側でしょうか。
「ミケランジェロ・ブオナローティ作 16世紀」
最後の審判の下部分。怪物のような恰好をしたカロンが死者を
地獄へと急き立てています。キリスト教の影響で、冥界は地獄へシフトし、
カロンも悪魔的様相を帯びてしまいました。
「Felix Resurreccion Hidalgo 作 1887年」
こちらも冥界の渡し守という肩書ではなく、地獄へと導く邪悪な怪物
といったキリスト教的なカロンの姿となっています。
死者が覇気で吹っ飛ばされています。
「Konstantin Petrovich Pomerantsev 作 1860年」
ダンテ「神曲」より。有名な物語の中にもカロンは登場します。
赤い服を着たダンテと、指をさすウェルギリウスと、
ひしめきあう死者を乗せた船を全力で漕ぐカロン。
「アレクサンドル・リトフチェンコ作 1861年」
こちらも「神曲」を描いた作品。このカロンは乱暴者で、死者をオールで
殴ったり、早くしろと催促したりします。銀貨のやり取りもなく、ただ
ひたすら地獄の亡者を船で渡す爺さんに・・・。
「ピエール・シュブレイラス作 18世紀前半」
全身を白布で纏う死者と、一糸纏わぬカロン・・・。
こちらは死者の渡し守という肩書を表した、静寂漂う素敵な作品
なのですが、お尻が気になって仕方がありません。
死者からお金をせしめる故、守銭奴と評されているカロン。しかし、1オボルスはどれくらいの価値があったのでしょうか。1オボルスは1ドラクマの6分の1の価値とされ、1ドラクマは1990年の25ドルに相当するという研究があります。それに当てはめて考えてみると、1オボルスは約470円~500円の計算になります。
カロンは一回500円、ワンコインで対岸へ死者を渡しているんです。「日本の船舶よりずっと安いじゃん!」と考えるか、「あんなしょぼい船で500円もとるのか!」と考えるのか。私は思ったよりも安いかなぁ、といった印象です。いい稼ぎにはなりそうですが。しかし、カロンはお金を貯めて、何に使うつもりなんでしょうかね・・・。船の改造?
【 コメント 】
>> 季節風様へ
こんばんは^^
毎日毎日死者を運んでいたら飽きても来ますよね。
いたいけなプシュケーさんが訊ねて来た時には、「可愛い子…助けてあげるかのぅ」と心の癒しになったかもしれません。
500円で船を出してくれるなら、乗ってみたい気もあります。
「冥府ツアー」帰ってこれる保証はありませんが…^^;
孤独なカロン、プシュケーに優しいカロン、キリスト教的に悪鬼めいたカロン、どれも絵画的に好きです。
「ルカ・ジョルダーノ作 1684-86年」はスペクタクルな世界だと思います。