新約聖書の幼児虐殺の絵画14点。救世主の到来を恐れたヘロデ王は暴挙に走る | メメント・モリ -西洋美術の謎と闇-

新約聖書の幼児虐殺の絵画14点。救世主の到来を恐れたヘロデ王は暴挙に走る

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 幼児虐殺は新約聖書の物語の一つです。英語ではMassacre of the Innocents(罪なき者の虐殺)と言います。
 マタイの福音書によれば、ユダヤのヘロデ王は東方の賢者たちから新しいユダヤの王が生まれたことを知ります。彼は地位が奪われることを恐れ、学者たちを集めてベツヘレムにて救世主が誕生したことを突き止めます。ヘロデ王は東方の賢者たちから詳しい話を聞こうとしましたが、彼等は王の陰謀に気付き、行方をくらましてしまいました。それに怒ったヘロデ王はベツヘレムの二歳以下の幼児を全て殺すよう兵士に命じたのです。
 一方、キリストの養い親ヨセフは天使の夢を見ました。彼は「息子と妻を連れてエジプトへ逃げなさい。ヘロデがイエスの命を狙っています」と語りました。ヨセフは飛び起きてマリアに事情を説明し、エジプトへ向けて出発します。こうしてキリストは間一髪でヘロデ王の驚異を逃れたのです。しかし、ベツヘレムの幼児たちは虐殺され、彼等が聖書における最初の殉教者となってしまったのでした。
 権威に狂った王が下した残酷な命令。幼児虐殺の絵画14点をご覧ください。

 

「ジョット・ディ・ボンドーネ作   1304-6年」
足元に横たわる幼児たちの遺体。頭上でヘロデ王が支持する中、
母親たちは必死に抵抗をしています。中世の形式が残る作品
ですが、子供や母親の表情が生々しいです。

「マッテオ・ディ・ジョバンニ作  1488年」
神殿内で行われる阿鼻叫喚の中、ひときわ大きく黄金の衣服を着た
ヘロデ王は険しい表情をしています。これらのテーマは子供の命を
必死で守ろうとする母親。聖書には母親の記述はありませんが、
絵画作品は母親の悲哀、苦悩、怒りを如実に語っています。

「彩色写本の挿絵  10世紀頃」
いきなりのシュールな作品。
6頭身の立派な幼児たちが兵士たちによって刺されてしまっています。
イスラエルが舞台の作品に感じず、エセアジア系に見えてしまう・・・。
なんというか、じわじわ何かが込み上げてくる作品。

「Frans Francken (子)の追随者作  17世紀」
フランドル風の牧歌的な風景の中、兵士たちが母親に掴みかかって
剣を振り上げています。普通に暮らしていただけなのに、突然兵士が
我が子に刃を向けてくるなんて、理不尽すぎますよね・・・。

「ピーテル・ブリューゲル(父)作  1565-67年」
フランドルの風景の中で行われるかなり遠めな幼児虐殺。ブリューゲル
らしい作品ですね。といっても、よーく見たら左右の家から子供が
数名拉致されているだけで、残虐なシーンはありません。中央で
槍を刺しているのは鶏など家畜です。何かのシンボルでしょうか。

「ルーカス・クラーナハ(父)作  1515年」
この事件はマタイの福音書のみの記述で、実際にあったことなのかは
分かりません。もし実際にあったとしたら、20~30名程度が犠牲に
なったそう。学校のクラス約一つ分って・・・。多いわ・・・。
左奥でマリア様がキリストを避難させているのがみえますね。

「セバスチャン・ブルドン作  1616-1671年」
正教会の伝承では14000名、シリア教会の聖人伝では64000名が
犠牲になったとされています。(wiki調べ)
流石にそれは多すぎるよ・・・。誇張が加えられているという説が
濃厚のようです。64000名だったら私の住む市の殆どが死んでいる(汗

「ダニエレ・ダ・ヴォルテッラ作  1557年」
恐ろしい現場ですが、一体どうなっているのかまじまじと見てしまいます。
左側の母親が結構きわどい攻撃をしているように見えてしまいますが・・・。
中央で引っ張り合いをしている兵士と母親もなかなかえぐいです。

「ティントレット作  1582-87年」
ちょっとどうなっているかよく分からなくなってきましたw
右の目立つ兵士は攻撃をしようとしても母親に阻止されているので
しょうか。身体がねじれ、複雑にからまってマニエリスム全開です。

「ピーテル・パウル・ルーベンス作  1611-12年」
ルーベンスは何枚かの幼児虐殺の作品を残しています。
中央では母親がマトリックスばりのポーズをして、左手に子供を抱え、
右手で兵士の顔を掴んでいます。その左ではおばあちゃんが勇敢にも
兵士と戦っています。つい「頑張れ!」と応援したくなります。

「グイド・レーニ作  1611年」
野蛮な兵士は人数を抑え、女性と幼児の悲劇と救済が描かれています。
天上からは天使が殉教者のシンボルである棕櫚(しゅろ)を差し出して
いますね。髪を引っ張られている女性の表情がホラー・・・。

「コルネリス・ファン・ハールレム作  1590年」
おしりおしり!
おしりが気になりすぎるけれど、左奥でさり気なく女性たちが兵士を
フルボッコにしております。女性は強し!

「François-Joseph Navez 作  1824年」
他の作品とは一味違い、物陰に隠れて虐殺から逃れようとする
家族を描いています。中央の少女?は凶刃を受けてしまったのか、
兄の介抱を受けていても目を覚まそうとしません。母の深い悲しみが
感じ取れます。美しい絵画ですね。

「ウィリアム・ホルマン・ハント作  1883年」
幼児たちの死は無駄ではありません。殉教者である彼等はキリストの
行方を明るく照らしたのでした。聖書に記述はないものの、「罪なき者の
勝利」という主題で幾つかの絵画が描かれています。
マリア様の表情が優し気で、子供たちも楽しそうですね。

 この物語は歴史的な裏付けはなく、聖書の作者の創作であった可能性もあります。しかし、ヘロデ王が王権に固執した残虐な王であったことは確かで、前政権ハスモン朝の血筋を根絶やしにしようとし、敵対したレビ(祭司)を処刑し、自分にとって不利益となる者は迷わず排除しました。彼の性格ならばベツレヘムの幼児全てを虐殺しても不思議ではありません。
 カエサルも成り上がる為に戦争を起こしていますし、ワラキアのヴラド三世も権威の為に敵兵のみならず、肉親をも手にかけていますし、メアリー1世も保身の為に女王候補であったジェーン・グレイを処刑しています。王朝は血塗られた歴史ですよね・・・。地位はどこの時代でも恐ろしいです。現在の政治においても蹴り合い落とし合いをしていますしね(汗)一般市民がいいな・・・。

 

【 コメント 】

  1. 管理人:扉園 より:

     >> fugahelix様へ
    返信が遅くなりすみません。
    メリーゴーランド風の古典的な建物の立体作品かと思ったら、回って動き出しました!
    このような目の錯覚の作品は幾つか見たことはありますが、こんな大きな作品ははじめてです。超大作ですね!
    ただ、女性を叩いて子供を放るリピートを見続けるのはちょっと心が痛む…^^;

  2. fugahelix より:

    Mat Collishawがzoetropeで同じ主題を扱っていたので、
    記事をおまけ投稿しました。

  3. fugahelix より:
  4. 管理人:扉園 より:

     >> 季節風様へ
    こんばんは^^
    子の為に命を賭して戦う母親は格好いいですよね。
    ただ一人ユダヤ王が産まれたという予言だけで、全員の子を殺すなんて狂気の沙汰です。
    すみません。もう一度資料を読んだら「全ての男児」と書かれていました!
    女児は殺されていない可能性が高いです。
    なので、Francoisさんの作品は女の子っぽい男の子なのかな?
    子を守る父親も中にはいたとは思いますが、王の命令に従って殺す側=男性、我が子を守る側=女性という対立が成り立っておりますね。
    家を守るのが女性であるという考えが当たり前であった当時、父親は仕事で外出中だったのかもしれません。

  5. 季節風 より:

    こんばんは
    子供を守ろうと戦う母親達を尊敬します。声援を送りたくなります。
    ピーテル・ブリューゲル(父)作ですが言われないと気付かないですね。そんな恐ろしい場面の絵だとは。
    François-Joseph Navez 作では女の子まで襲われたんですね。後ろの方で口をふさがれてるのは幼い男の子でしょうか。
    どの作品を見ても子供たちの父親はいないんです。いずこに。

  6. 管理人:扉園 より:

     >> 撫で斬り、ですね。様へ
    こんばんは。
    そうなんですか!西洋では血みどろな感じなので、日本でも血筋断絶は結構あることだと思っていました。敵を許すことって大事ですね…。
    キリスト教ではイエスの身代わりになった無罪の子らといったニュアンスで、日本ではそれが伝わらないから、そのまま捉えて幼児虐殺になったのかもしれません。
    アンティパスはヘロデ大王の息子ですね。家系図を見ると似たような名前が多すぎて、始めはこんがらがっていました(笑)

  7. 撫で斬り、ですね。 より:

    日本では、御家断絶はあっても、一族の誰かしらが許されて生き延びるということが多々あったようです。
    平清盛なんかは敵将の実子まで許しちゃってますからね。
    『幼児虐殺』って、日本の方が直接的で衝撃的な呼び方なんですね。
    もともとキリスト教徒の国ではないから、「罪なき者」というのがわかりにくかったのですかね?
    聖書に疎い私は、ヘロデと聞くと後の時代のアンティパスの方を思い出してしまいます。ワイルドの『サロメ』を読んだので。

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