イソップ寓話(童話)は、紀元前6世紀頃の古代ギリシャ時代の人物アイソーポス(イソップ)が作ったとされる寓話集です。(寓話は例え話によって人の生活に馴染みの深いできごとを伝え、学ばせることを目的とした物語)
アイソーポスは元々奴隷でしたが、話をするのが上手で解放されたとされています。それからは寓話の語り手として旅をしたと言われています。彼は沢山の寓話を製作しましたが、現在伝わっている寓話すべてがアイソーポス作という訳ではなく、古代メソポタミアより伝わった話や現地の民話、後世の寓話も含まれているようです。
有名なイソップ寓話としては、「アリとキリギリス」「ウサギとカメ」「犬と肉」「北風と太陽」「金の斧銀の斧」などが知られています。日本に寓話が伝わったのは1593年とされ、イエズス会の宣教師が書物を翻訳したそうです。思ったよりも古くから伝わってきているんですね。後に教科書にも取り入れられるようになり、「ウサギとカメ」のように、日本の昔話ではないかと思ってしまうような程にまで馴染み深くなりました。(私は若い頃、日本昔話だと信じ切っていました^^;)
妙に納得してしまう話ばかりのイソップ寓話の絵画14点をご覧ください。
「ディエゴ・ベラスケス作 1638年」
巨匠ベラスケスが描いた、元奴隷のアイソーポスさんの肖像。
腕に抱えているのは自分の寓話集ですかね。
なんだか我が家の曾おばあちゃんに似てるような・・・^^;
→ ベラスケスの絵画をもっと見たい方はこちら
「Johann Michael Wittmer II 作 1802–80年」
語り手として各地を巡るアイソーポス。人々は彼の深い英知に
感心しました。しかし、皮肉なことにその知恵を妬んだデルポイの
市民に殺されてしまったそうです。可哀想に・・・。
「ヴェンツェスラウス・ホラー作 1650年」
「北風と太陽」の挿絵。どっちが旅人の服を脱がせられるか!という
勝負で、力ずくの風よりも、温和な太陽の方が勝利したというお話。
挿絵では北風がびゅーっと吹き付け・・・壺を割ってるがな!
「フランス・スナイデルス作 1579-1657年」
「狐と鶴」という寓話。狐に招待された鶴は、くちばしが長くてご馳走が
食べられない。逆に鶴に招待された狐は、壺の中の肉が食べられない。
お互いの特徴を知り、思慮を以て接しようという教訓ですね。
(その後、狐は箸を使って肉を食べたそうです・・・^^;)
「フランシス・バーロウ作 1687年」
「ライオンに恩返しをしたネズミ」という寓話。ある日、ライオンは
食べようとしたネズミを助けます。数日後にライオンが罠にかかって
しまうと、命を助けたネズミが縄を切り、助け出してくれたのでした。
強い者でも、時として弱き者に助けてもらわなければならないのです。
「アーサー・ラッカム作 1867-1939年」
「月の女神と母親」という寓話。ある日、月が「私にぴったり合う洋服が
欲しい」と母に頼みます。しかし、母はこう言いました。「丸くなったり
半分になったり三日月になったり。どうやって作るんだね?」と。
気まぐれさんはいけませんね。それにしても月がシュールな姿だ・・・。
「アーサー・ラッカム作 1867-1939年」
「カエルの医者とキツネ」という寓話。ある日、カエルは「儂は医者だ。
どんな病気でも治してやるぞ!」と言いましたが、キツネは「お前の
足がヨタヨタ歩きなのに、どうやって治すんだ!?」と返したそうです。
自分の事ができないのに、人の事をとやかく言う事はできませんね。
「アーサー・ラッカム作 1867-1939年」
「木と斧」という寓話。男は木に斧の柄をくれと頼みます。木が了承
すると、男はなんと高い木を切り倒していきました。木はその様子を見て
「柄を譲らなかったら、我々は立っていられたろうに」と嘆きました。
簡単に権利を譲ってはならないという教え。木が不気味チックですね・・・。
「リチャード・ハイウェイ作 1894年」
「狐と仮面」という寓話。ある日、キツネが役者の家に忍び込んで
餌を探しました。そこに仮面を発見し、キツネはこう言いました。
「美しい顔をしているけど、この人間には脳がないな」と。
顔や身なりが美しいだけでは、人の値打ちは測れませんね。
「ウォルター・クレイン作 1887年」
「サテュロスと旅人」という寓話。極寒の中、旅人はサテュロスの家に
招かれます。彼は手を温める為にふーふーしてから、熱々のスープを
冷まそうとふーふーしました。すると、サテュロスは「二種類の息が
出る奴なんて泊めれん!」と旅人を追い出してしまったのでした。
「Jan van de Venne 作 1590-1651年」
この寓話は、何故か北方ルネサンスの画家に人気が出たようで、
「サテュロスと農夫」という題に変わり、多くの作品が残されています。
サテュロスと農夫だけではなく、奥さんや子供、親戚(?)までもが
描かれた家族集合写真のような絵画も存在します。
「ジャン=バティスト・ウードリー作 1686-1755年」
「狼と子羊」という寓話。狼はいたいけな子羊を食べる口実を作ろうと
「去年俺に嘘を付いただろ!」と様々な難癖をつけますが、子羊は
「生まれてません」と正当な理由でそれを拒否します。しかし、狼は
そんな無実の者の言葉を聞かず、結局食べてしまったのでした。
「ジョン・ヴァーノン・ロード作 20世紀」
「羊の皮を被った狼」という寓話。ある狼は楽して羊を食べようと、
皮を被って羊に成りすましました。しかし、羊飼いは狼の事を羊だと
思って殺してしまいましたとさ。横着はいけませんね^^;
狼の「ぐわっ」と言った表情が何とも言えません・・・。
「チャールズ・ランドシアー作 1799-1879年」
寓話を作るアイソーポスという題。女性と少女、多くの動物たちと
共に物語を創作しております。さり気なくキツネと鶴が一緒に
飲んでいるのがいいですね^^ 左隅の男が気になるところ・・・!
イソップ寓話の数は正確にはどれくらいあるのかは分かりませんが、400話は超えるそうです。それだけ学べる教訓が多いという事ですね。
現在、イソップ寓話は子供向けと考えられており、読み聞かせの本なども沢山あります。しかし、本来はリアルで大人向けの描写が含まれているのです。それはグリム童話やマザーグースも然りですね。
例えば有名な「アリとキリギリス」の物語。本来は「アリとセミ」だったようで、西洋に伝わった時にキリギリスに改編されたそうです。
夏の間にアリが備蓄をしようと必死に働いている間、キリギリスは歌ってのんびりして過ごしていました。しかし冬が到来し、餌がなくなってしまったキリギリスはアリへ助けを求めに行きます。ここまでは皆が思っているお話と同じですね。子供向けでは「夏の間に貯蓄しなかったからだよ。残念ながらあげる食糧はないよ」と断るバージョンと、快くキリギリスを受け入れて「元気になって音楽を奏でてね」と言うバージョンが存在します。しかし、原作ではアリは笑ってこう言い放ったのです。
「夏の間歌っていたなら、冬の間踊りなさい」と。
ブラックユーモアたっぷりにキリギリスを突き放す腹黒のアリ。まるで「死の舞踏」でもしてなさいと言っているようではないですか( ;∀;) こうしてキリギリスは一人寂しく飢え死にをしてしまうでした。
イソップ寓話、恐るべきですね・・・。
→ サテュロスと農夫についての絵画を見たい方はこちら
【 コメント 】