エサウとヤコブは、旧約聖書の「創世記」に登場する双子の兄弟です。
父はイサク、母はリベカで、父は狩りを得意とするエサウを可愛がり、母は羊の世話をするヤコブを可愛がっていました。本当なら兄であるエサウが長子の権利を得るはずでしたが、エサウは空腹のあまり弟の作っていたレンズマメの料理が食べたくなり、権利を譲ろうと口約束をしてしまいます。
父イサクは高齢で目が見えなくなっていた為、手の毛深さでエサウを判断していました。エサウはかなり毛深かったのです。それを知っていた母リベカとヤコブは、毛の付いた手袋をつけるという一計を案じました。それに騙されたイサクはエサウに祝福しているつもりで、ヤコブに長子権を与えてしまいました。後にそれを知ったエサウは、怒り狂って弟を殺そうと考えます。リベカはそれに気づいてヤコブを叔父の家へ逃亡させるのでした。
二人は憎み合ったままで、20年の歳月が経った頃。ヤコブの使者がエサウの元に現れ、「再会しよう」と持ち掛けました。エサウはそれに400名の共を連れて応じます。ヤコブはその数に恐れを成し、7回身を屈め、低姿勢で待ちました。しかし、エサウは弟を憎むことなく、過去の事を水に流して抱きしめたのです。ヤコブもそれに返し、二人はやっと和解したのでした。
では、二人の兄弟の仲違いと再会の絵画15点をご覧ください。
「François Maitre 作 1475–80年」
いきなりの迫力のある絵。ヤコブとエサウの誕生を描いた作品です。
中世のお産ってこのような感じなんですね・・・。兄は全身に赤い毛
が生えていたのでエサウと名付けられ、弟は兄の踵を掴んで生まれた
のでヤコブと名付けられました。
「ドイツの工房者の作 1620年頃」
ある日、エサウは「腹が減って死にそうだから、それをくれよ」と弟の
作っていたレンズマメの料理を求めました。「長子権を譲ってくれる
ならいいよ」というヤコブに、エサウは軽い気持ちで「そうしよう」と返事
してしまいます。
「マティアス・ストーム作 1600-52年」
レンズマメを間にして取引が成立する二人。しかし、エサウは本気では
なく、後にこの事で二人は争うことになったのです。
「ヘンドリック・テル・ブルッヘン作 1627年」
こちらもレンズマメのシーン。蝋燭の光の中でぼんやりと浮かび上がる
登場人物の表情。闇の中の光を表そうとした、テネブリスム様式の
作品が目立ちます。
→ テネブリスム(暗黒主義)についての絵画を見たい方はこちら
「マティアス・ストーム作 1635年」
その後。高齢で盲目となったイサクはエサウに祝福を与えよう
とします。しかし、弟ヤコブは母親のリベカと共謀して、まんまと長子権を
得るのです。イサクが白目だ・・・。
「ルカ・ジョルダーノ作 1634-1705年」
エサウが凄く毛深いことを利用して、ヤコブは自分の腕に毛皮を
巻き付けます。それを触らせて、リベカが「この子はエサウだよ」と
言って、イサクをまんまと騙してしまったのです。
「giovanni battista langetti 作 1635–76年」
双子はイサクが60歳の時に産まれた双子で、この時の年齢は20歳
前くらいだと思われます。それくらいの年齢の作品もあれば、まだ
少年の作品もありますね。
「Gerrit Willemsz Horst 作 1638年」
ヤコブを祝福する一同の奥で、ドアからちらっと姿を見せている
エサウらしき姿。彼は後にその事を知り、以前交わした口約束は
忘れ、「俺が長子権を得るはずだった!」と激怒します。
「Gioachino Assereto 作 1640年」
「本当にいいの?」」と母に確認するヤコブに、黙っていなさいと
いったジェスチャーのリベカ。背後では、エサウが微笑を・・・!?
波乱の予感がする絵画ですね・・・。
「ヨハン・カール・ロスの追随者作 18世紀頃」
まだあどけない少年のヤコブ。右手はしっかりと毛皮で覆われて
います。イサクおじいさんの上半身が裸であるミステリーが、何枚も
ありましたね。風邪を引いてしまいますよ・・・。
「ホーファールト・フリンク作 1615 – 60年」
こちらは暖かそうな上着を着ていますね。祝福されようとする
ヤコブは期待に満ちあふれた表情をしております。
「バルトロメ・エステバン・ムリーリョ作 1665-70年」
他の画家と表現が被る事を嫌ったのか、個性的な構図です。
家で祝福が為されている中、帰宅しようとしているエサウが遠くに
描かれています。手前のピンクの人は女性で、その左奥にぽつんと
いるのがエサウです。小さい・・・。
「ピーテル・パウル・ルーベンス作 1624年」
長子権を奪ったヤコブにエサウは「殺してやる!」と大激怒。
ヤコブは家出するしかありませんでした。その後、20年間二人は
会っていませんでしたが、ヤコブの方から兄に「会おう」と呼び掛けます。
「Raffaellino Bottalla 作 1613‐44年」
エサウは再会を了承したものの、400名もの大所帯でやってきます。
その気迫におののいたヤコブは低頭しながら兄を待ちます。すると・・・。
「ジョージ・フレデリック・ワッツ作 1878年」
エサウはヤコブをしっかりと抱きしめ、20年ぶりの再会を喜びました。
昔のいさかいは水に流し、やっとの事で二人は和解したのです。
お連れの人々も喜んでいま・・・す?
これらのシーンは、バロック時代に描かれたものが圧倒的に多かったです。室内の出来事だったこと、登場人物の感情が明確で、劇的な表現にしやすかったことなどが考えられそうです。
ちなみに、エサウの元から逃走したヤコブは道の途中で天使と出くわし、格闘します。肉弾戦の押し合いへし合いの末、天使に勝利して「お前は以後イスラエルと名のるがいい」と祝福されます。将来ヤコブの子孫がイスラエルの人々となるのです。こちらの絵画も見ごたえがあるのでぜひ^^ また、イサク父さんが若かりし頃、生贄にされそうになったという事件もあります。
→ ヤコブと天使の決闘についての絵画を見たい方はこちら
→ イサクの犠牲についての絵画を見たい方はこちら
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