割礼を受けるキリストの絵画12点。大事な部分の皮を切除する、ユダヤの風習 | メメント・モリ -西洋美術の謎と闇-

割礼を受けるキリストの絵画12点。大事な部分の皮を切除する、ユダヤの風習

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 割礼とは男女に施される宗教的な、または衛生上的な施術です。男子は大事な部分の一部を切除するそうです。歴史は古く、イスラエルの他、古代エジプトやバビロニアなどの地域で宗教的な観点で割礼が行われました。
 旧約聖書の「創世記」にて、神がアブラハムにこう命じました。「あなたたちの男子はすべて割礼を受ける。切り取りなさい。これが契約のしるしとなる。・・・生まれてから8日目に割礼を受けなければならない」と。割礼を受けることはイスラエルの民ということ。この風習により、ユダヤの民であるイエス・キリストや十二使徒はみな割礼を受けました。

 新約聖書にも割礼の記述はあります。初期のキリスト教の会議において割礼は廃止となり、後年の西洋の者達にとってこの風習はそこまで行わない存在であったものの、このシーンは想像よりも多くの画家に描かれていました。
 では、割礼の絵画12点をご覧ください。ショッキングな描写はないものの、閲覧注意となりますので、そういった場面が苦手な方はご注意ください。

 

「作者不詳 彩色写本の挿絵」
うつむき加減にキリストを抱く聖母マリア。聖職者と思しき
老人がナイフを手に取り、施術を行おうとしています。
ろくな消毒も麻酔もない時代に…恐ろしい。

「フラ・アンジェリコ作 1450年」
足を支えているのは父の聖ヨセフでしょうか。
生後8日目で施術とか、痛そう・・・。
白いエプロンが生々しさを感じますね。

「グイド・レーニ作 1575-1642年」
天使さん達がみな集合し、キリストを応援しています。
イエスの表情は・・・ぐっと堪えていますね。

「ピーテル・ヴァン・リント作 1651-90年」
教皇のような立派な服装をした者が施術を行い、
左には我が子を心配そうに見る聖母マリアと聖ヨセフがいます。
キリストは・・・耐えていますね。

「Jan Baegert作 1495年」
みんなが真剣&心配の表情を浮かべる中、キリストは
余裕の笑みをしていらっしゃる・・・。流石メシアです。

「フィレンツェ派の画家の作 19世紀」
こちらも心配そうな周囲と、心の余裕があるキリスト。
キリストを抱く老人の後ろにも赤ちゃんがいますね。
この子は割礼が終わったのかな。

「パルミジャニーノ作 1523年」
不安そうな顔をこちらに向け、鳥をぎゅっと握るキリスト。
おじさん達が身を寄せ合ってひそひそ話。何を話しているのかな。

「レオナールト・ブラーメル作 1640-50年」
とっても遠い割礼シーン。半分外のような場所だけど、
大丈夫なのかしら・・・。

「ヘンドリック・ホルツィウスの追随者作 1558-1617年」
鮮やかな赤の衣服を着た老人に支えられ、割礼を受けるキリスト。
キリスト教において割礼は廃止されたのですが、教会で
このように施術が行われることはあったのかしら。

「ルカ・シニョレッリ作 1491年」
こちらのキリストは聖母マリアに抱っこされ、不安を感じて
いませんね。施術する方に祝福を捧げようとしているのかな。

「コルネリス・シュトの追随者作 17世紀頃」
聖母マリアも聖ヨセフもいない、珍しい作品。キリストの
目が不安げに両親を探しているように見えます。

「ジョヴァンニ・ベッリーニの工房作 1500年頃」
耐えている・・・。とても耐えている・・・。

 割礼の風習を行うか否かは初期のキリスト教において問題になったようで、エルサレムで使徒会議が開かれたそう。話し合いの末、行わないという事が決定された為、キリスト教には受け継がれていません。なので宗教上の理由では、ヨーロッパの画家たちはユダヤ教でない限り割礼を受けていません。(衛生上において割礼は行われていたようです) 彼等はこの風習をどう思って描いたのでしょうか。割と身近な存在だったのでしょうか。

 現代でも割礼を行う地域はいくつも存在し、イスラムやアフリカのみならず、アメリカやヨーロッパでも普通に行われているようです。なんでも割礼によって清潔が保たれ病気になりにくいようで、日本の病院でも割礼ができるとか・・・。この記事を書くまでは過去の宗教上の風習だと思っていたので、びっくりしました。

 ただ、衛生目的の手術のはずが、失敗により切断されてしまったり、感染症にかかったり、死亡事故になったりする事例もあるようです。女児においても割礼が行われる地域があり、そちらの方が死亡事例が多く見受けられました。現代においても事件が起こるのだから、イエス・キリストの時代の割礼は命がけの風習だったのではないでしょうか。我が子を心配そうに見やるマリア様の気持ちが分かります。
 風習を批判するつもりはないのですが、個人的には子供の命を脅かす行為は受け入れ難いなぁ…と感じてしまいます。

 

【 コメント 】

  1. オバタケイコ より:

    オランダの画家は風景画が強いとは知りませんでした。何をやっているか、全然わからないけど、作品として美しいですね。

  2. 管理人:扉園 より:

     >> オバタケイコ様へ
    こんばんは。
    中世の作品は独特な雰囲気がありますよね。
    みんな生真面目な表情をしているのに、何かが変という…w
    画家によって「キリストは救世主だから、割礼など余裕であろう!」「いや、割礼の痛みは想像を絶するはずだ。救世主とて痛いだろう!」と感想が異なり、キリストの姿に出ているのが個性があっていいですよね。
    西洋では割礼の風習がないのに、この主題の作品が結構残っているということは、注文主がいたということ。誰が注文したのだろう、と少し疑問に思います。
    やはり教会などの宗教関係者かしら…。
    レオナールトさん、遠目なの面白いですよね。
    オランダの画家さんは風景画が強いw

  3. 管理人:扉園 より:

     >> 美術を愛する人様へ
    こんばんは。
    ふざけてしまうのは不謹慎かな、と思いつつも書いてしまいました^^;
    施術される赤ちゃんに決定権はなく、宗教や親が決めて手術をするのだから、やりきれない部分はありますよね…。
    血友病は遺伝する可能性があるのでしたっけ。
    確かに、血友病の子への手術は命に関わりますよね。
    「複数」の子を亡くさないと免除されない、というのは当時の感覚では恩恵なのでしょうけど、母親の気持ちを考えると本当に残酷です。
    ペストが吹き荒れる時代に割礼が行われていたら、人口が更に減り、西洋の力は弱まってしまっていたかもしれません…。

  4. オバタケイコ より:

    「作者不詳 彩色写本の挿絵」シュール過ぎます!表情がみんな変です(笑)
    余裕のあるキリストと、必死で耐えているキリストがいるのが面白いですね。
    「ジョヴァンニ・ベッリーニの工房作 1500年頃」のキリスト、天を見上げて本当にこらえている!
    『僕は神の子、こんな痛み、何てことない!』と、心の声が聞こえて来るようです。
    「レオナールト・ブラーメル作」は、ホントに遠いですねー(笑)見え~ん!
    誰かズームアップしてっ!

  5. オバタケイコ より:

    「作者不詳 彩色写本の挿絵」シュール過ぎます!表情がみんな変です(笑)
    余裕のあるキリストと、必死で耐えているキリストがいるのが面白いですね。
    「ジョヴァンニ・ベッリーニの工房作 1500年頃」のキリスト、天を見上げて本当にこらえている!
    『僕は神の子、こんな痛み、何てことない!』と、心の声が聞こえて来るようです。
    「レオナールト・ブラーメル作」は、ホントに遠いですねー(笑)見え~ん!
    誰かズームアップしてっ!

  6. 美術を愛する人 より:

    「ジョヴァンニ・ベッリーニの工房作 1500年頃」へのコメントに笑ってしまいましたが、事故も起こったんだろうなと思うと…
    割礼で出血が止まらず複数の子供を亡くした母親に対し以降の子の割礼を免除した、という記録が最古の血友病の記述だったような内容を本で読んだ記憶があります。
    もしこの慣習がキリスト教に受け継がれていたらヨーロッパの歴史が変わっていたかも。

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